無口な夫の心を読めるようになったら、溺愛されていたことに気付きました

ななな

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 夜が更けて、部屋の明かりを落とした僕の心は浮かれていた。いつもは一人だったのに、今日も一人じゃない。たったそれだけなのに、心臓がやけにうるさかった。

「今日は…………何かの記念日だったか?」

 後からベッドの中に入ってきたジークベルトは、冷静にそう言った。夕食がいつもより豪華すぎたからだろう。ペネロペの冗談かと思ったが、本当に料理長へと豪華にするよう頼んでいたようだ。

(ただ、ジークベルトが僕のことを好きって言ってくれただけなのに…………)

 その事情はもちろん、僕しか知らない。どう説明すればいいかもよくわからなかった。

「さぁ………材料が余ってたんじゃないですかね」
「…………そうかもしれないな」

 当たり障りのない返事をしたら、ジークベルトも納得してくれた。

「………………………」
「………………………」

 無言のまま仰向けになって天蓋を見つめる彼のきれいな横顔を、僕はじっと眺めた。好きと言われてから少ししか経っていないが、態度の変化は見られない。今もこうして距離を空けているし。

 本当に僕のこと、好きなんだろうか。
 いつから好きだったのだろう。好きだったのに何故抱いてくれなかったのだろう。

 そんな疑問が次々と湧いてくる。

「……………寝ないのか?」

 横目で見られて、目が合う。いつもと変わらない表情。意識しているのは僕だけなんだろうか。

「……………僕のこと、いつから好きだったんですか?」

 疑問を口に出すと、目を逸らされた。

「……………………」
「何故、僕のことを抱いてくれなかったんです?」
「それは………………」

 好きなのに抱かない理由が僕には見当もつかない。ヒートはまだ少し先だし、今すぐ抱いてほしいって訳じゃないけど…………単純にジークベルトの考えを知っておきたかった。

 けど、なかなか答えようとしない。

「好きって言ってくれたの…………嘘じゃないですよね?」
「………っ! 嘘なわけない。俺はずっとアルルの事が…………」

 焦ったように身体を起こしたジークベルトに見下ろされて、至近距離でまた目が合った。

「………っ、抱かなかったのは……君に選んでもらいたかったからだ」
「…………選ぶ?」
「この国に来たのも、結婚相手も君の意思ではないだろう。俺が仮に君を抱こうとしたら、俺に対して気持ちがあろうがなかろうが、君は受け入れていたはずだ」

 ジークベルトの言う通り、もし気持ちがなかったとしても夫婦の務めは拒否しない。政略結婚を受け入れた時点で覚悟していた事だからだ。

「……………そういった義務感ではなく、君の意思で俺を選んで欲しかった。ただ………それだけだ。抱きたくなかったという訳ではない………」

 だからといって、ヒート中のオメガを放置するのもどうなのか。エゴと優しさが入り混じった理由に言葉を失ってしまう。

「………逆に嫌われてるかと勘違いしてましたけどね………好きって言ってくれてないし………」
「……………そういう、甘い言葉を口に出すのは柄じゃないというか…………」
「……………恥ずかしかった、とか?」

 僕が指摘したら、ジークベルトは気まずそうな顔をして黙ってしまった。どうやら図星らしい。

「ふふっ……………ジークベルト様って不器用ですね?」
「…………………」

 完璧なアルファのはずなのに、こういう所がスマートじゃないっていうのが……………何故だか心が惹かれてしまう。

 きっと彼が、僕に最初から『好き』とか『愛してる』とか素直に言えるようなタイプだったら、ここまで拗れることはなかっただろう。と同時に、強く惹かれる事もなかったのかもしれない。

「…………俺は一緒に寝ようと言われただけで動揺しているというのに………君は余裕なんだな」
「………? そうは見えませんが…………」

 僕だってさっきから心臓が落ち着かない。けど、お互いに表情には出づらいみたいだ。

 触れたら、彼の考えがもっとわかるだろうか。そう思った時、手首を優しく掴まれた。

「…………本当は、他のアルファの匂いがした時から落ち着かなかった」

 手首に唇が近付き、そっとキスをされる。

「…………君が許してくれるなら、上書きしても良いか?」

 反射的に頷いてしまった僕は、肌から伝ってきた彼の思考に身体が熱くなる。

 ベッドに入った時に、不思議な石のネックレスを外すのを忘れていた。それを後悔した時には、手遅れだった。もう、何をされるかわかってしまったから。
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