無口な夫の心を読めるようになったら、溺愛されていたことに気付きました

ななな

文字の大きさ
14 / 16

14 ※

しおりを挟む
 実は、ジークベルトと最後にした時の記憶が曖昧だ。

 フェロモンを制御するためにアルファとオメガは結婚すると番関係を結ぶ必要があるのだが、それはヒート中にアルファがオメガのうなじを噛む事で成立する。

 最後にした時も結婚当初に起きたヒート中だった。それで頭が朦朧としていたのと、最中で顔を見られたくなくて、僕はずっと顔を隠していたから……………ジークベルトの表情すら覚えていない。

 しかも、何度もしつこく求められることはなく、番が成立した翌日には抑制剤を飲んで過ごしていた。

 その苦い経験から、初めて味わった快感が記憶の片隅に追いやられて、今に至る訳で。行為そのものには期待よりも不安の方が大きかった。



「…………………んっ、………………」

 両手を軽く押さえられて、体重を乗せられて。首筋に柔らかい感触が触れる。時折舌が当たったり、わずかに噛まれたり。小さな刺激を与えられても、悶える隙間もないくらいに肌が密着している。

 今されているのは、性交というより、アルファのマーキングだ。ジークベルトは『抱く』ではなく『上書き』と言った。その言葉通りではある、が。

 "可愛い"
 "凄くいい匂いだ"
 "久しぶりだから優しくしたいが………"

 触れ合った肌から、ジークベルトの思考が流れてくる。まだ直接言われた事のない言葉に、頭の中まで侵されておかしくなりそうだった。急所に触れられてもいないのに、身体が火照っている。

(はやく、ネックレスを外さないと…………っ)

 そう思って手を伸ばそうとしても、逃がさないと言わんばかりに押さえつけられているから、大人しくこの妙な感覚を味わう事しか出来なかった。

「…………っひ、………ぅ………」

 首筋から鎖骨と下に位置を移しながら、夜着の中に手が入ってくる。優しく肌をなぞられたあと、胸の突起に指が掠めた。

「………あっ、!」

 大袈裟に身体がびくりと跳ねた僕は、咄嗟にネックレスの紐を掴んだ。

"他のアルファの匂いだけではなく、ネックレス一つでも嫉妬する男だと知られたら…………幻滅するだろうな"

 …………嫉妬?
 眉を寄せて、僕を見つめるジークベルトの心の声からは確かにそう聞こえてきた。今されている行為も単純に発情したからではなく、嫉妬で煽られて、という方が納得はいく。

(……………そんなに嫉妬深かったの?)

 明確に言われていなかったせいか、嫉妬されてると思ってなかったし、そこまで独占欲は強くないのだと勘違いさえしていた。

「ここを…………触られるのは嫌か?」

 隠されていた本心を盗み聞きしてしまい、動揺していた僕は何を聞かれたのかわからなかった。

「………? いやじゃ…………ない、です」
「…………そうか」

 訳もわからないまま首を横に振ったら、胸の突起にまた指が触れた。

「あぁッ!………や…………っ」
「嫌なのか? どっちだ」

 嫌じゃない、嫌じゃないけど………。
 敏感な箇所を撫でられている間にも、"声も可愛い"とか"意地悪したくなる"って心の声が聞こえてくるから。

(言ってる事と、思ってる事が違いすぎる………っ!)

 部屋に充満したフェロモンの匂いと、快感だけでも気が変になりそうなのに。そもそも、僕は今何をされてるんだ? これもただのマーキング行為?

「………………大丈夫か?」

 心配する素振りをしておきながら、愛撫する手は止まらない。それどころか、硬くなった突起にちゅ、と口付けをされた。

「ん、ぁあっ、んぅッ」

 舌先で転がされて、きつく吸われたと思いきや、優しく吸われたり。頭の中だけではなく、身体まで翻弄されていく。

"気持ちよさそうで、良かった"
"どこまで許してくれるんだろうか"

 どこまでって…………?
 疑問を抱いているうちに、太ももを手で撫でられて、足を広げられる。内側にキスされたあと、顔を上げたジークベルトと目が合った。

「……………………っ」

 いつもと違う、余裕のない表情。熱で浮かされた目がわずかに揺れていた。

「……………これ以上のこと、しても良いか?」

 僕を尊重しているように見えて、逃がす気なんてないようにも思える。これはもうただのマーキング行為じゃない、と察した。

 そして、いつの間にか僕の中にあった不安が消えていて、早く彼を受け入れたいと、期待の方が大きくなっている。

「やさしく…………して、くれるなら…………」

 そう言ってみたものの、内心ではジークベルトになら意地悪だってされてみたいとも思っていた。言ってる事と思ってる事が違うのは、僕も同じだ。

「…………ああ、そうする」

 それを察したのか否か。ジークベルトはふ、と軽く笑った。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
 社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  一体なんの話だよ!!  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。  食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていた矢先、森の中で王都の魔法使いが襲われているのを見つけてしまう。 *残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。

叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。 オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...