無口な夫の心を読めるようになったら、溺愛されていたことに気付きました

15 ※

「………あ、……んっ、ぅ………」

　夜着を脱がされて、外気に晒されても肌が焼けるように熱い。触れられる前から愛液がこぼれていた後孔は二本の指で掻き回されて、くちゅくちゅと音を立てていた。

　やさしくして、と言ったからだろうか。時間を掛けて、丁寧に中を解されている。

「あの、もう……………っ」

　けど、僕はもう限界だった。しこりのある一点を撫でられ、押されるたびにギュウギュウと中を締め付けてしまう。あともう少しで、達してしまいそうだった。

「…………まだ俺のは入らないと思うが」
「…………でも…………ッん、ぅ」

　とろけきってだらしない顔をしてるであろう、僕をジークベルトが見てくる。声には出してくれないのに、頭の中には彼の本心が直接届いてくるから…………余計に身体が敏感になっていた。

(可愛いって、こんなに思ってくれてたんだ……)

　たまに聞こえてきた甘い言葉が、今はしょっちゅう聞こえてくる。普段の僕なら後ろ向きに考えてしまって、こうして快感に身を委ねる事も出来なかっただろう。

「…………は、ぁ、っん、んんっ」

　唇が重なって、熱い舌が入ってくる。絡み合って、息を吐くのもやっとになりながら、久しぶりのキスを深く味わう。

(あれ…………キスって、こんなに気持ち良かったっけ)

　記憶の中にあるキスよりも、全身が痺れるみたいに、じわじわと快感が広がっていく。

「………もう、だめ、…………でちゃ、う…………っ」

　さらに限界へと近づいた僕は、ジークベルトの胸を軽く押した。

「……………我慢しなくていい」
「………っ、でも、あっ、あ、………ッ！」
「大丈夫だから」

　何も大丈夫じゃない。僕だけ先に出したくない。そう思いつつも、またキスで口塞がれて、絶え間なく後孔に与えられる刺激によって、抑えが効かなくなってくる。

「～～～～～～ッ！！！」

　あ、だめだ。もう我慢できない。
　絶頂感と同時に、僕は咄嗟にジークベルトを抱きしめてしまった。腹の上と、まだガウンを脱いでなかったジークベルトに白濁が飛んでしまう。

「…………はぁっ、ぁ…………ごめんなさ、い………汚しちゃって…………」

　息を荒くしながら謝ると、ジークベルトが身体を離してガウンを脱いだ。滅多に見られない、鍛え上げられた身体に、つい目が釘付けになってしまう。

「……………たくさん出たな？」
「…………っ」
「………少しは、君を気持ち良くさせられたようで安心した」

　少しどころじゃない………ヒート中でもないのに、身体が敏感になりすぎているから。思い当たる要因はいくつもあるが、もう僕の頭の中は一つのことしか考えられなくなっている。

「そろそろ…………入れても良いか？」

　腹の上にずしり、と重みのある感触が当たった。貧相な僕とは違う、雄雄としたアルファの陰茎に、思わず息を飲んだ時だった。

"念のため、抑制剤を飲んでいたが…………まるで意味がないな"

　不意に聞こえてきた心の声に、思考が止まる。抑制剤を飲んでいたって、何？

　性欲を無くす抑制剤は副作用が強い。ヒート中のオメガならともかく、アルファが飲む事は滅多にない。不眠や頭痛に悩まされ、日常生活を送る事さえ困難になる場合もあるからだ。

「…………………アルル？」

　返事をしない僕を不安げに見つめてくるジークベルトの顔には、うっすらとクマがある。随分と前からだ。多忙のせいだと思っていたが、抑制剤の影響だったのかもしれない。

「…………どうして、そこまで…………」
「……………？」

　仮に、僕がジークベルトに好きだと言っていなかったら。ずっと我慢する気だったんだろうか。今でも苦痛に耐えて、一人で夜を過ごしていたのだろうか。

　不器用すぎる優しさに気付いてしまい、心臓がきゅっと締め付けられる。不思議な石のネックレスを外してから、身体を起こしてジークベルトに抱きついた。

「………………すき、…………すきです…………」
「…………急にどうした………？」

　困惑する彼の肩に顔を埋める。もし僕に心の声が聞こえなかったら、気付けなかっただろう事実に、無力感を感じた。

　臆病な僕は好きな人の考えを知りたいはずなのに、何も聞けずにいた。もっと自分から早く歩み寄る事が出来たのなら、心の声が聞こえなくても、その事実に気付くことは出来たかもしれないのに。

「…………ジークベルト様の考えてること、ちゃんと、聞きたいです」
「…………考えてることって、」
「好きとか、可愛いとか、もっと口で言ってほしいです」

　心の声ではなく、直接聞きたい。そんな思いからお願いしてみたら、ジークベルトの頬がわずかに赤くなった。

「………………そんなに、顔に出てたか？」

　そうじゃない、けど…………誤解して照れてる姿に不覚にもときめいてしまう。

「君の前だと………上手く自分を制御出来ないみたいだ」
「………そんなの、しなくていいですから……」

　僕がそう言ったら、身体に当たっている硬い感触がびくりと動いた。

「……………早く、入れてほしい、です………」
「………………本当に、良いのか？」
「………はい………」

　身体をゆっくりと後ろに倒されて、両足を広げられた。興奮を抑えるためか、ジークベルトはふーっ、と息を吐いた。

「アルルが可愛すぎて………………夢でも見てるんじゃないか、って気さえしてくるな」

　とろけた尻の窄まりの中へと、熱が入り込んでくる。

「………ッ、あ、………っんん！」
「…………………痛くないか？」
「……ん、ぁあっ、あ、ひぁ、………っ」

　ぐっと押し広げられる感覚がたまらなく気持ちいい。無意識のうちに腰を引きたくなるが、僕の小さな身体はジークベルトの身体にすっぽりと収まっていて、身動きすら取れない。

「…………っ、………アルル、好きだ」

　奥まで入りきったあと、頭を撫でられながら、小さく聞こえた言葉に顔が熱くなる。馴染むまでずっと、頭上から聞きたかった言葉が次々と降ってくる。

(幸せすぎて…………このまま死んだりしない？)

　初めて味わう幸福感に少し恐ろしくなりつつも、僕はそのまま朝まで彼を受け入れた。