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第六章 大海の王者と魔導白書(グリモワール)
第八話「小人の頭」
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「よしよしでかした。今回も上々だ。傷ついた仲間も治してやろう」
テントで残業の成果を待っていた団長は、気分が高揚した面持ちで団員を迎えた。
聖職者から言い渡された依頼を完ぺきに成し遂げた報酬はいかほどの物か。
しかしそれらの事は団員には何一つ告げられはしなかった。
ただ、人形のように働くだけ。
体が動かなくなっても魔法の力で動かされ、心が壊れてもそれさえ感じられないようにされている。
上機嫌な団長とは逆に成果を持ち帰ったフーリンは仲間の悲痛な声が頭から離れず沈痛な表情で立ち尽くしていた。
言葉に出そうとしても口が上手く動かない。指や足が小刻みに動き落ち着きが無い。
『にゃ~ん』
「んん?なんだ猫か。どっから拾ってきたんだライオンのエサか?」
何とも物騒な事を言われた黒猫はそそくさとフーリンの影に隠れる。
自分の方に団長の意識が向いたことで切っ掛けが出来たフーリンはたどたどしくも口を開く。
「団長……こんな……こと……もう……やめよう」
「止める?残業の事か?……お前には説明したな。このサーカスだけでは経営は成り立たないんだ。どこかで資金を得られないと解散してしまう。そうなったら団員は……お前の家族はどうなる?魔法のスクロールももらえなくなるんだぞ?」
フーリンはうつむいたまま、瞳の方向のみ団長に向けていた。
「で……でも……これ以上は……耐えられない……僕も……みんなも」
元々、旨く喋ることができないフーリンは、それでも懸命に訴える。
魔法で回復されるたびに壊れていく仲間たちをこれ以上見るのは耐えられなかった。
本来、魔法の治癒能力というのはその者がもつ力を魔法の力で増力させる、もしくは自然や精霊の恩恵を使い修復させるものだ。致死に至る程のケガや病を修復する能力は無い。つまり団長が聖職者から仕入れているスクロールは通常の治癒魔法の粗悪品。まがい物の魔力で強引に血肉を取り繕っているに過ぎない。使い続ければ体がボロボロになるのはもちろん、痛みや苦しみ、恐怖心から心も壊れていく。
もちろん粗悪品の魔法スクロールだからこそフーリンにも使える。
そしてこれ以上使い続けることが仲間を……家族を壊してくことも分かる。
「はぁ~」
団長が苛立ちを交えてワザとらしくついた大きなため息にフーリンの体は少しビクついた。
「フーリン。お前の気持ちはよくわかる。私だって大切な家族が傷ついていくのは心が痛いのだ」
団長はゆっくりとフーリンに近づき、肩をポンとたたく。
「依頼人にも、もう少し上質なスクロールを寄越す様に言っているが……なかなかケチな連中でな、そこでだ」
団長はそこまで言うと先程まで整理していた残業の成果の中から一つの箱を取り出した。
「これが何だか分かるか?」
ボロボロの木箱の箱の中を恐る恐る見たフーリンの目に飛び込んできたのは小さな人の頭だった。
カラカラに干からびていたからか大分小さいが、それにしても小さすぎる、子供や赤ん坊のものより大分小さかった。
「驚いたか?これはな“小人の頭”というものだ」
そう言うと団長は早々に箱の蓋を閉めてしまった。
「いけないいけない、この頭は外気に弱くてな……何だ?知らんのか?これは小人の頭と言ってな、はるか北東にあるエルフの森に住む“賢人エルフ”の頭なんだよ。」
「エルフは古から伝わる純血主義でな、だがたまーに多種族との子供を授かるっていうオイタをやらかす奴が出てくる。大概は一族から迫害を受けどうにかなってしまうんだが、ごくまれに特殊な能力を授かって生まれてくるものがいる。そいつはそう言った異端児の頭部ってわけさ」
「お前も聞いたことぐらいあるだろう。万物見通せぬものなし。神をも超える予知の能力。それが小人の頭だ」
黒猫は訝し気な目で団長がもつ小箱を眺めていた。
『そんなものはない。確かに異端のエルフには特殊な能力がある。それは首から上を切り取られたとはいえ変わらんだろう……だがそれは恐ろしい怨念が残った姿だ。未来を視るのではなく視た未来に合わせるだけだ……呪いの形でな』
フーリンは不思議そうに箱を見つめると、団長は肩を叩き耳元でささやく。
「このアイテムを土産にエスが主催するカード大ゲームに参加しろ。そして今回最大の目玉“グリモワール”を手に入れるのだ」
フーリンの目が一瞬見開き、そして静かに閉じられる。
この世の全ての魔法が詰まった書。
それがあれば仲間を開放することも……。
囁いた主の意思と異なり、青年は忌まわしき箱に未来を賭けた。
そして箱が少しだけ動いたことを、その場にいた誰も気が付かないでいた。
テントで残業の成果を待っていた団長は、気分が高揚した面持ちで団員を迎えた。
聖職者から言い渡された依頼を完ぺきに成し遂げた報酬はいかほどの物か。
しかしそれらの事は団員には何一つ告げられはしなかった。
ただ、人形のように働くだけ。
体が動かなくなっても魔法の力で動かされ、心が壊れてもそれさえ感じられないようにされている。
上機嫌な団長とは逆に成果を持ち帰ったフーリンは仲間の悲痛な声が頭から離れず沈痛な表情で立ち尽くしていた。
言葉に出そうとしても口が上手く動かない。指や足が小刻みに動き落ち着きが無い。
『にゃ~ん』
「んん?なんだ猫か。どっから拾ってきたんだライオンのエサか?」
何とも物騒な事を言われた黒猫はそそくさとフーリンの影に隠れる。
自分の方に団長の意識が向いたことで切っ掛けが出来たフーリンはたどたどしくも口を開く。
「団長……こんな……こと……もう……やめよう」
「止める?残業の事か?……お前には説明したな。このサーカスだけでは経営は成り立たないんだ。どこかで資金を得られないと解散してしまう。そうなったら団員は……お前の家族はどうなる?魔法のスクロールももらえなくなるんだぞ?」
フーリンはうつむいたまま、瞳の方向のみ団長に向けていた。
「で……でも……これ以上は……耐えられない……僕も……みんなも」
元々、旨く喋ることができないフーリンは、それでも懸命に訴える。
魔法で回復されるたびに壊れていく仲間たちをこれ以上見るのは耐えられなかった。
本来、魔法の治癒能力というのはその者がもつ力を魔法の力で増力させる、もしくは自然や精霊の恩恵を使い修復させるものだ。致死に至る程のケガや病を修復する能力は無い。つまり団長が聖職者から仕入れているスクロールは通常の治癒魔法の粗悪品。まがい物の魔力で強引に血肉を取り繕っているに過ぎない。使い続ければ体がボロボロになるのはもちろん、痛みや苦しみ、恐怖心から心も壊れていく。
もちろん粗悪品の魔法スクロールだからこそフーリンにも使える。
そしてこれ以上使い続けることが仲間を……家族を壊してくことも分かる。
「はぁ~」
団長が苛立ちを交えてワザとらしくついた大きなため息にフーリンの体は少しビクついた。
「フーリン。お前の気持ちはよくわかる。私だって大切な家族が傷ついていくのは心が痛いのだ」
団長はゆっくりとフーリンに近づき、肩をポンとたたく。
「依頼人にも、もう少し上質なスクロールを寄越す様に言っているが……なかなかケチな連中でな、そこでだ」
団長はそこまで言うと先程まで整理していた残業の成果の中から一つの箱を取り出した。
「これが何だか分かるか?」
ボロボロの木箱の箱の中を恐る恐る見たフーリンの目に飛び込んできたのは小さな人の頭だった。
カラカラに干からびていたからか大分小さいが、それにしても小さすぎる、子供や赤ん坊のものより大分小さかった。
「驚いたか?これはな“小人の頭”というものだ」
そう言うと団長は早々に箱の蓋を閉めてしまった。
「いけないいけない、この頭は外気に弱くてな……何だ?知らんのか?これは小人の頭と言ってな、はるか北東にあるエルフの森に住む“賢人エルフ”の頭なんだよ。」
「エルフは古から伝わる純血主義でな、だがたまーに多種族との子供を授かるっていうオイタをやらかす奴が出てくる。大概は一族から迫害を受けどうにかなってしまうんだが、ごくまれに特殊な能力を授かって生まれてくるものがいる。そいつはそう言った異端児の頭部ってわけさ」
「お前も聞いたことぐらいあるだろう。万物見通せぬものなし。神をも超える予知の能力。それが小人の頭だ」
黒猫は訝し気な目で団長がもつ小箱を眺めていた。
『そんなものはない。確かに異端のエルフには特殊な能力がある。それは首から上を切り取られたとはいえ変わらんだろう……だがそれは恐ろしい怨念が残った姿だ。未来を視るのではなく視た未来に合わせるだけだ……呪いの形でな』
フーリンは不思議そうに箱を見つめると、団長は肩を叩き耳元でささやく。
「このアイテムを土産にエスが主催するカード大ゲームに参加しろ。そして今回最大の目玉“グリモワール”を手に入れるのだ」
フーリンの目が一瞬見開き、そして静かに閉じられる。
この世の全ての魔法が詰まった書。
それがあれば仲間を開放することも……。
囁いた主の意思と異なり、青年は忌まわしき箱に未来を賭けた。
そして箱が少しだけ動いたことを、その場にいた誰も気が付かないでいた。
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