【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉

文字の大きさ
30 / 57

◆交錯②

しおりを挟む
 それから三日が経ったが、デートの翌朝に交わしたメッセージを最後に、舞花ちゃんから連絡はない。
 雨に濡れて、あの日そのまま家に帰ったことが理由だろうか。
 つまらない男だと、俺の評価が下がったのかもしれない。
 それとも、大丈夫だと俺に言いつつ、雨のせいで熱を出して寝込んでいるのだろうか。
 だが、彼女の具合をうかがう内容の同じメッセージは何度もできなくて、なんとなくモヤモヤしたまま日にちだけが過ぎてしまった。

 しかし今日、それがわかる。
 彼女が勤務する㈱大井コーポレーションにアポイントを取っている日だ。
 受付のいつもの場所に彼女がいなければ休んでいるということなので、美里ちゃんに状況を聞ける。
 気になるなら電話なりメッセージなり、自然な形で連絡すればいいのに、どうして俺はそれができないのか……
 そんな自分が情けない。

 午前十一時、㈱大井コーポレーションのビルのロビーへ足を踏み入れる。
 自動扉が開くと同時に受付を見ると、いつもどおり彼女はそこに座っていた。

「いらっしゃいませ」

 彼女は俺を見ると少し気恥ずかしそうな顔で、ペコリと頭を下げた。体調は大丈夫そうだ。

「良かった」
「……え?」
「あれから連絡がなかったし、もしかしたら寝込んでるのかもと心配だった」

 俺の言葉を聞き、彼女がふわりと笑った。

「大丈夫ってメッセージで言ったじゃないですか」
「そうだけど……」

 だったらどうして急にメッセージが途絶えたのか、……なんて、聞けやしない。
 具合が悪いわけではないなら、きっと俺がなにかやらかしたのだ。
 あのデートで、知らず知らずのうちに、彼女の機嫌を損ねることを俺が言ってしまった可能性が浮上してくる。

「俺、嫌われたかな」

 本気でそう思ったわけではなかったが、気がつくと苦笑いと共にボソリとつぶやいていた。
 そんな俺の言葉を耳にした彼女が、一瞬驚いた顔をした。

「そ、そんなことないですよ!」

 彼女はうつむき加減で頬を少し赤らめていて、その表情を見る限り、嫌われたわけではなかったようだ。

「専務とお約束ですよね。少しお待ちください」

 業務に戻った彼女が秘書室に内線電話を入れる。
 仕事をしているときの彼女は凛々しさと清楚さが備わっていて、今まではあまり意識しなかったけれど、そういうところも魅力的だ。

「この前は途中で雨が降ってきたから、仕切りなおしで今度どこかに出かけない?」

 俺が小声で話しかけると、彼女は恥ずかしそうにコクリと笑顔で頷いた。
 俺とまた出かけてもいいってことだよな?

「また連絡するよ」

 俺も彼女に笑みを残し、専務室へと足を運ぶ。

 最近わかったが、舞花ちゃんと話したあとは自然と笑顔になる気がする。
 彼女がかわいらしい笑みを俺に向けるから、俺も自然とそうなるのだろう。
 彼女のおかげで、確実に俺は元気をもらっている。その証拠に、今日は仕事がキツくてもがんばれそうだ。

 そのあと午後からもいくつか会社を訪問し、腕時計に目をやると午後六時を過ぎていた。
 これから会社に戻ってデスクワークか。
 駅まで歩く途中、今日家に帰るのは何時になるのだろうと、溜め息を吐きだしそうになる。

 ふと気づいたが、今歩いているこの大通りは、たしかあの時と同じ道ではないだろうか。
 舞花ちゃんたちとの飲み会の日、このビルのカラオケ店で二次会だったと、左手にそびえる建物を見上げた。
 ということは、もう少し先に歩いていけば……あった! 俺は“Suteraステラ”の看板を発見する。
 あの店で間違いないと思う。遥ちゃんが働いている雑貨店だ。
 空の色がだんだん夕暮れから夜の闇へと変化していて、仕事を終えて家路へ向かう人間が駅へと急いでいる。
 そんな雑踏の中、俺は“Sutera”の店の前で足を止めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

Marry Me?

美凪ましろ
恋愛
 ――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。  仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。  不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。 ※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。 ※彼の過去だけ、ダークな描写があります。 ■画像は、イトノコさまの作品です。 https://www.pixiv.net/artworks/85809405

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅
恋愛
きみのことなんてしらないよ 関係ないし、興味もないな。 ただ一つ言えるのは 君と僕は一生一緒にいなくちゃならない事だけだ。

処理中です...