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◆交錯③
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そっと中を覗くと店内に遥ちゃんの姿があり、気がつけば俺は店のドアを開けてふらっと中に入っていた。
「いらっしゃいませ。……あ!」
店の中に他に客はおらず、店員も遥ちゃんだけのようだ。
入ってきた客が俺だとわかって、彼女はひどく驚いた顔をした。
「和久井さん、どうしたんですか?」
「たまたま通りかかった。前に、店の前で会ったでしょ? 遥ちゃんが働いてる店はたしかこの辺りだったよなぁ、って」
「よく覚えてましたね」
驚きながらも笑みを浮かべる遥ちゃんに、俺も薄っすらと微笑み返す。
実際に店内に入ってみると、思いのほか広い店だとわかった。
それに、煌びやかなアクセサリーから海外の雑貨まで、扱っている品数も多い。
「遥ちゃんひとり?」
「はい。閉店前でお客さんも少ないですから、今の時間はひとりです」
「そっか」
「最近、夜に入ってくれていたバイトの子が辞めちゃったんで、実は人手不足なんですけどね」
人手が足りずに、この規模の店の仕事をこなすのは大変だろう。
「あ、そうだ。最近まで聖二さんの妹の明未さんもここで働いてたんですよ?」
「え?! 宇田さんの妹?」
「はい。とても綺麗な人です」
「知らなかったな、宇田さんにそんな綺麗な妹がいるとは」
宇田さんとは会社で仕事の話以外はしない。そこまで仲のいい先輩後輩ではない。だから妹の存在なんて知らなくて当然だ。
「最近までって……辞めたの? その妹さんも」
「今はちょっと体調が悪くてお休みなんです。実は今、明未さんもうちで一緒に暮らしてるんですよ」
「はぁ?!」
いやいや、意味がわからない。遥ちゃんと宇田さんは熱愛同棲中だ。
そこへ彼氏の妹が転がり込んできたのか?
「なんで彼女と同棲してる兄貴のとこに来るかなぁ」
「具合が悪いから仕方ないじゃないですか。体調が戻るまでの間だけですし。それに、呼んだのは聖二さんのほうで、明未さんはなにも悪くないんです」
そこまで聞いて、俺は自然と盛大な溜め息が出た。
なにを考えているんだ、あの人は。
いくら妹が大事だからって、最愛の彼女と同棲しているマンションに呼ぶのはおかしくないか?
「遥ちゃんはやさしすぎるよ。嫌な顔のひとつもしてやればいいのに」
「そんな! 私、本当に嫌じゃないんですよ」
「人が良すぎる」
だけどそこが遥ちゃんの一番の魅力なのを俺は知っている。
癒し系で、少し天然で、心根のやさしいところ。
無防備で危なっかしいから、見ているとつい心配したくなるのだ。
でも今は宇田さんがついているから、俺の出番などない。
俺はそんなことを頭で考えながら、うろうろと店の商品を見て回った。そして、とある物に自然と目が止まる。
「シュシュですか?」
何気なく商品を手に取っていた俺に、遥ちゃんが後ろから声をかけた。
「これって、“シュシュ”って言うの?」
「はい」
「女の子が髪につけるやつだよね?」
「そうです。和久井さん、誰かにプレゼントするんですか?」
プレゼントというには、はっきり言って安っぽい気がする。
だけど貰う立場からすれば、これくらいの値段のほうが重くなくて気が楽だったりするのだろうか。
なんでもない日の、思い付きで買った軽いプレゼントなら。
「いらっしゃいませ。……あ!」
店の中に他に客はおらず、店員も遥ちゃんだけのようだ。
入ってきた客が俺だとわかって、彼女はひどく驚いた顔をした。
「和久井さん、どうしたんですか?」
「たまたま通りかかった。前に、店の前で会ったでしょ? 遥ちゃんが働いてる店はたしかこの辺りだったよなぁ、って」
「よく覚えてましたね」
驚きながらも笑みを浮かべる遥ちゃんに、俺も薄っすらと微笑み返す。
実際に店内に入ってみると、思いのほか広い店だとわかった。
それに、煌びやかなアクセサリーから海外の雑貨まで、扱っている品数も多い。
「遥ちゃんひとり?」
「はい。閉店前でお客さんも少ないですから、今の時間はひとりです」
「そっか」
「最近、夜に入ってくれていたバイトの子が辞めちゃったんで、実は人手不足なんですけどね」
人手が足りずに、この規模の店の仕事をこなすのは大変だろう。
「あ、そうだ。最近まで聖二さんの妹の明未さんもここで働いてたんですよ?」
「え?! 宇田さんの妹?」
「はい。とても綺麗な人です」
「知らなかったな、宇田さんにそんな綺麗な妹がいるとは」
宇田さんとは会社で仕事の話以外はしない。そこまで仲のいい先輩後輩ではない。だから妹の存在なんて知らなくて当然だ。
「最近までって……辞めたの? その妹さんも」
「今はちょっと体調が悪くてお休みなんです。実は今、明未さんもうちで一緒に暮らしてるんですよ」
「はぁ?!」
いやいや、意味がわからない。遥ちゃんと宇田さんは熱愛同棲中だ。
そこへ彼氏の妹が転がり込んできたのか?
「なんで彼女と同棲してる兄貴のとこに来るかなぁ」
「具合が悪いから仕方ないじゃないですか。体調が戻るまでの間だけですし。それに、呼んだのは聖二さんのほうで、明未さんはなにも悪くないんです」
そこまで聞いて、俺は自然と盛大な溜め息が出た。
なにを考えているんだ、あの人は。
いくら妹が大事だからって、最愛の彼女と同棲しているマンションに呼ぶのはおかしくないか?
「遥ちゃんはやさしすぎるよ。嫌な顔のひとつもしてやればいいのに」
「そんな! 私、本当に嫌じゃないんですよ」
「人が良すぎる」
だけどそこが遥ちゃんの一番の魅力なのを俺は知っている。
癒し系で、少し天然で、心根のやさしいところ。
無防備で危なっかしいから、見ているとつい心配したくなるのだ。
でも今は宇田さんがついているから、俺の出番などない。
俺はそんなことを頭で考えながら、うろうろと店の商品を見て回った。そして、とある物に自然と目が止まる。
「シュシュですか?」
何気なく商品を手に取っていた俺に、遥ちゃんが後ろから声をかけた。
「これって、“シュシュ”って言うの?」
「はい」
「女の子が髪につけるやつだよね?」
「そうです。和久井さん、誰かにプレゼントするんですか?」
プレゼントというには、はっきり言って安っぽい気がする。
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