【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉

文字の大きさ
53 / 57

番外編⑪

しおりを挟む
「今日って……どういうこと?」

 俺が静かな口調で聞けば、舞花は『えっと……』と言ったきり、しばし黙り込んでしまった。

「まさか誕生日じゃないよな?」
『ごめん……』

 舞花から出てきた言葉は申し訳なさそうな謝罪の言葉で、俺は信じられなくて息を飲んだ。

「ごめんって……今日が舞花の誕生日?!」
『実はそうなの』

 なんとなく予感していたものの、まさか本当に今日だったとは……。

「どうして言わなかったんだよ」
『ごめんなさい』

 今ここでそんな彼女を責め立てても仕方がないだろう。
 とにかく俺はこの事実を知ってどうすればいい? いったいなにができる?
 気持ちだけが焦って、軽くパニック状態だ。

「今夜、舞花の部屋に行くから」
『え?!』
「とにかく行くから! 待ってて」

 それだけ言って、俺は舞花との電話を切った。

 落ち着いて考えよう。
 今日は定時に仕事を終わらせて、まっすぐ舞花のもとへ行きたいところだが、午後はアポイントもたくさん入っていて仕事が山積みだ。
 仕事が終わってからだと、舞花のマンションへ何時に行けるかわからない。

 だけど一刻も早く終わらせるしかない。
 無理やりにでもなんとかするしかないだろう。
 誕生日は一年に一度しかない貴重な日なのだ。
 愛する恋人の誕生日にがんばらないでどうする!

 俺は自分のデスクへあわてて戻り、午後から訪問する会社の資料をまとめて鞄へ詰め込んだ。
 そして、夕方に戻ってきてからやろうと思っていた事務作業をテキパキと済ませ、上着と鞄を持って足早にエレベーターに飛び乗り、会社の外に飛び出した。

 アポイントの時間は簡単に変更はできない。キャンセルなんて尚更だ。
 俺は駅のホームで電車を待つあいだ、スマホに記した今日の予定表を睨みつけていた。
 移動の時間のロスがないように予定は組んだつもりだ。
 だけど、どこかで時間を作りたい。
 今夜舞花に会うのにプレゼントも持たずに行くわけにもいかないので、買い物をする時間をどうにかして作りたいのだ。

 幸い、二件目の会社訪問が終わった後なら少し時間が取れそうだ。
 それにその会社から、遥ちゃんが働いている雑貨店がわりと近い。
 前に遥ちゃんに会ったとき、ペアリングを勧められた。
 ペアリングでなくとも、あの店ならなにかプレゼントに適したものがありそうだ。

 プレゼントを持って、舞花のマンションへ行く途中に花でも買って……
 ……待て。
 あの店に行くのはやめておこう。
 舞花の誕生日にかこつけて、わざわざ俺が遥ちゃんに会いに行ったと勘違いされるのはご免だ。
 付き合っていなかったと何度説明しても、舞花は遥ちゃんのことを気にしていると思う。
 だから俺が店に行くことで誤解させて、せっかくの彼女の誕生日を台無しにしたくはない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

Marry Me?

美凪ましろ
恋愛
 ――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。  仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。  不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。 ※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。 ※彼の過去だけ、ダークな描写があります。 ■画像は、イトノコさまの作品です。 https://www.pixiv.net/artworks/85809405

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

政略結婚が恋愛結婚に変わる時。

美桜羅
恋愛
きみのことなんてしらないよ 関係ないし、興味もないな。 ただ一つ言えるのは 君と僕は一生一緒にいなくちゃならない事だけだ。

ハイスぺ男子は私のおもちゃ ~聖人君子な彼の秘めた執着愛~

幸村真桜
恋愛
 平凡なぽっちゃりOL、細井璃湖はある日、社内の高嶺の花として有名な福永恭弥に食事に誘われる。 「君にしか相談できないことなんだ」  今まで接点のなかった福永のそんな言葉に好奇心を刺激され誘いにのるが……そこで知った秘密は璃湖の日常を変えてしまうものだった。 ※10/21 タイトルがしっくりこず、変更しました

処理中です...