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初めての一目惚れ⑦

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 株式会社志田ケミカルプロダクツ
 化粧品製造・開発を中心とした会社で、このビルに入っている全会社の中で間違いなく一番大きな企業だ。 
 屋上のヘリポートも、主に志田ケミカルが使用しているらしい。
 そんな大企業の人だと知らなかったとはいえ、シャンパンがこの人にかからなくて本当に良かったと心から思った。

「お気遣い、ありがとうございます」
「シミになるよね」

 今日はパーティーの受付業務なので、会社の指示でベージュ系の明るいカラーのフォーマルスーツを身に着けていた。
 それに合わせて上品なネックレスやピアスを選んでコーディネートしたのに台無しだけれど、シャンパンの件は私が悪いので仕方がない。

「大丈夫です。後日クリーニングに出せば」

 目の前のイケメン男性に明るい笑顔で応対する。

「じゃあ、クリーニング代を請求して?」
「いえ! そんなことはできません!」

 顔を上げると、思いのほか至近距離で目が合って心臓が飛び出るくらい驚いた。彼の持つ独特の色香のようなものに当てられそうだ。

「オッティモの社員さんだよね? 会場の受付にすごい美人が立ってるの目に入ったから」

 イケメンがお世辞を言うのは反則だと思う。わかっていてもうれしくて頬が熱くなってくる。

「“オッティモ”ってイタリア語? “最高の”って意味の」
「はい。よくご存知ですね」
「イタリアは好きで、年に何回か行くから」

 さすが大企業にお勤めの方は違う。出張か旅行かはわからないけれど、国内へふらっと行くような感覚なのかもしれない。

「御社のように洒落た社名じゃないんだけど、俺はこういう者」

 彼がスーツの内ポケットから上品な名刺入れを出して、私に中身を一枚差し出す。その長くて綺麗な指に目を奪われそうになった。
 そして社名は、予想通り志田ケミカルだ。

「……え……」

 ㈱志田ケミカルプロダクツ 取締役常務
 青砥 桔平あおと きっぺい

 取締役常務……
 見間違いかと思ったけれど、何度見てもそう書いてある。

「志田ケミカルの常務様だったんですか?!」
「あはは。まぁ、一応」

 青砥さんの実年齢は三十歳くらいだと思う。どうしてこんなに若い男性が、そんな重職に就けたのだろう。
 名刺を見つめながら百面相を繰り返す私に、青砥さんが再びおかしそうに笑った。

「クリーニング代の代わりに今度食事でもご馳走させて? この下の階のレストランには行ったことある?」
「え! もちろんないです!」

 ここ最上階からひとつ下の階は高級レストラン街で、フレンチや和食などセレブが行く名店がずらりと揃っているが、どこのお店も私が行けるレベルではない。私などの庶民は予約すら断られそうだ。
 ブルブルと首を小刻みに横に振る私に、じゃあ今度一緒に行こう、と青砥さんは微笑んでくれた。その笑顔もまた、本当に綺麗で反則だ。

「スマホ出して?」
「え?」
「連絡先交換」

 おずおずとスマホを出すと、言われるがままメッセージアプリで登録をしてしまった。
 なにがなんだかわからない。
 だけど出会ってしまったんだ、私の胸を熱くさせる人に。

「美桜さん、って……名前まで美しいんだね」

 青砥さんの柔らかくて低い声が、私の脳を刺激する。
 三雲さんと出会った時も、仁科さんの時も、こんなに胸は高鳴らなかった。

 これがいわゆる、一目惚れというやつだろうか。
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