【完結】これはきっと運命の赤い糸

夏目若葉

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やはり御曹司でした③

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「驚きました」
「驚いたのはこっちだ。なんで美桜と青砥桔平が一緒にいるんだ?って」

 美桜って勝手に呼び捨てにされているけど、話が逸れるのでこの際そこは流しておく。
 どうして川井さんが桔平さんを知っているのかという疑問も沸いたけれど、それは愚問なのだろう。
 川井さんは仕事柄、私が思ってる以上にあのビル内のことに詳しそうだ。

「ニヤニヤしてたけど、もう付き合ってんの?」
「い、いえ……付き合っては……」

 まだそんな仲ではないけれど、正直付き合えればいいなと思ってる。
 桔平さんも同じ気持ちでいてくれたら……と願っているのが本音だ。

「じゃあ、あの男は辞めとけ」

 桔平さんのことを考えていたら自然と顔が緩んでいたけれど、今の川井さんの言葉で一瞬にして我に返った。ガーンと後頭部をなにかで打たれたような衝撃だ。

「ほんとに恋愛運が悪いんだな。また今回も……。とにかくまだセーフで良かった。今なら引き返せるだろ?」
「引き返す? そんなの無理ですよ」

 人の恋路をなんだと思っているのか。
 あっという間にこんなに育ってしまった私の恋心を、なにもわかっていないから引き返せだなんて言えるのだ。

「あの男と付き合っても、未来がないから言ってるんだ」
「どういうことですか?」
「いずれあそこは、お家騒動が起こる」
「そんなの桔平さんとなんの関係が……」

 少しムッとしながらも食いついて話を聞けば、川井さんから“お家騒動”というキーワードが出てきて、すぐに理解できずに言葉に詰まってしまう。

「え、まさか……青砥桔平があの若さで、自分ひとりで常務の地位にまで上りつめたとでも思ってるのか?」

 そうだ。以前志田ケミカルの常務だと聞いて驚きはしたけれど、タイミング的にクリーニングの話になって、なぜ常務なのか知ることはできなかった。
 たしかに川井さんの言うとおりで、なにか理由がなければ通常の出世だけでは急に大企業の常務になんてなれはしない。

「川井さんって……志田ケミカルのこと調べてるんですか?」
「まぁな。ていうか、美桜が知らなさすぎるんだよ。これは普通に発表されてることだから守秘義務とか関係ないから教えてやるけど、青砥桔平が常務なのは、現社長の志田 栄亮しだ えいすけの甥だからだ」
「詳しく教えてください!」

 血縁が関係しているのだろうと予想したけれど、やはりそうだった。
 桔平さんの苗字が“青砥”だったから、すぐに結びつけることができなかったけれど。

「志田ケミカルは、現会長の志田 正蔵しだ しょうぞうが創業者だ。社長の栄亮はその息子で二代目だが、正蔵には娘もいる。栄亮の姉のあざみだ。あざみが青砥 一馬あおと かずまという男と結婚し、産まれた子供が桔平」
「あ……それで苗字が青砥あおとなんですね」

 苗字がどうであれ、桔平さんが創業者の孫であることに変わりはない。御曹司だったのだ、と改めて思い知ってしまった。

「一馬は、最初は志田ケミカルの経営には関わっていなかったが、結婚後しばらくして積極的に関わるようになった。会社がさらに大きくなり、一馬の野心に気づいた正蔵は危機感を抱いて、早々に社長の座を息子の栄亮に譲り、自分は会長として院政を敷いた。排除された形の一馬は正蔵と険悪になって左遷され、恨んでるって話だ」

 桔平さんのお父さんとお祖父さんは、会社が原因で不仲なのだと川井さんが教えてくれた。
 でもそれは、もう昔の話ではないのだろうか。桔平さんが生まれたくらいの、三十年くらい前の。

「で、でも……恨んでるとか、それって周りが想像して勝手に言ってる部分もあるんじゃないんですか?  噂話というか作り話みたいな」

 桔平さんのお父さんに野心があったとか、お祖父さんが危機感を抱いたとか、そういった感情の部分は本人にしかわからないことなのに。
 いつの間にか誰かが尾ヒレを付けて、面白おかしく吹聴したのもあるのではないかと考えてしまう。
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