【R18】体に刻む恋のspell

神楽冬呼

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supplementary tuition番外編

体育祭に潜入せよ 3

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やっと、やっと実質共に手に入れた。
恋焦がれて、狂おしいほどに欲しかったひと…………

そのひとが何故か、今、観覧席にいる。

なんでだ…………?



バスケは嫌いではない。
ただ夢中になれるかと言うと、そうでもなかった。
遊ぶ程度でいい。
それに正直、今はバスケなんてどうでもいい。
体育祭も、学校にいることすら退屈だ。
ここ・・にはもう、彼女はいない。
有都は賑わう体育館のステージから見下ろし、息を吐いた。

「ファンクラブ復活おめでとう!」

そんな有都ににじり寄り島野が肩を組んでくる。
他校に彼女がいるこの男が、彼女に体育祭の話をし、彼女の友達がファンクラブメンバーと繋がっていたらしい。

「マジでファンクラブとかどーでもいい」
「おやおや真崎くん、噂の彼女にバレたら不味いのかな」
「あー、そうだな」

ファンクラブなんて面倒なもの、適当に遊ぶ相手を調達するには便利だったが、今となってはそれも黒歴史。
自分が過去にしでかした事は、今更どうにもならないのだから向き合うしかないが、夢月には出来る限り伏せたい。
春香にしても、新城柚李にしても、過去に関係を持った女との接触はストレスにしかならなかった。

「彼女、観にくんの?」
「来ねーよ…………」
「なんだよ、つまんねー」

興味をなくした島野が背を向けた。
クラスメートは2年の時から勝手に彼女がいると思い込んでいる。
適当に遊ぶのをやめた事で信憑性を増し、春香が周りをちょろちょろしたことで決めつけられてしまった。

有都はふと耳に入った微かな声に、反射的に顔を上げていた。
見た覚えのある顔がいくつかある女子の群れの隣、女が二人向き合って何かしている。
膝丈の裾から伸びる脚が妙に目につく。
フワフワと柔らかそうな布地が細身の身体に合わせて揺れた。
華奢な肩に、流れるような栗色の髪、そして振り返った顔立ちは家にいるはずのそのひとだ。

────── 夢月?!

見た事がない、下着のようにレースが使われているワンピースは遠目から見ても露出が高いし、可愛らしさの中に男心をくすぐる甘さがある。
仕事柄、普段彼女の服装は露出が少ないだけに、新鮮な衝撃を与えた。
しかも、童顔な顔に線の細い小柄な身体にはうんざりするくらい似合っている。
有都は眉を寄せ夢月と一緒にいる女を見た。

あの女の仕業か。

夢月が体育祭に来ようなんて発想を持つとは思えない。
持ったとしても、その行動力はないだろう。
今朝ここに来るような事は言ってなかった。
ただ少し寂しげで、甘えた目をしていただけで…………

「真崎、出番だぞー」

佐竹が意気揚々とストレッチをしている。
とにかく、一戦終えたら示し合わせて何処かで捕まえよう。



…………って、何で途中で消えんだよ。

試合を終えてみると夢月の姿が消えていた。
仕方ないので、美咲と言う女に目配せて体育館の外に連れ出してみるが、相変わらず小馬鹿にした態度が鼻につく。

「知らないわよ。トイレって言って戻んないの」
「…………じゃあ、連絡してみてください」

悪びれ無く応える女に若干苛ついてくる。
スタイルもそれなり美人の部類には入ると思うが、気の強さが前面に出ていて主張も激しい。
夢月とは正反対のタイプだ。

「自分でしなさいよ」
「体育祭中は携帯持ち歩けないんですよ」
「校則守るなんて流石優等生だね。連絡してもいーけどさ、夢月、鞄置いてったよ」
「なんでだよ」
「ただのトイレだからじゃない。過保護過ぎ」

そんな事言われずとも自覚済みだ。
この独占欲は異常だと思う。
出来る事なら、彼女を他の誰の目にも触れさせず、どこにも行けないように閉じ込めてしまいたい。
自分だけを見ていて欲しい。

「分かってる」

短く応えて有都は歩き出す。
理屈じゃない。
本能みたいに、もうどうにもならない。
自分を抑えられない。
有都は走り出す、校舎へ。

ちらほらと教員が外にいるのが目につく。
それを避けたとしたら体育祭当日ほぼ人が出入りしない場所へ行くはず。
自分の領域へ逃げるはずだ。
階段を一気に5階まで駆け上がると、廊下にその背中があった。

僅かに内に入った爪先が脚をしなやかに見せる。
脆弱な背中が頼りなさげに佇んでいる。
近くに人がいない事を確認しながら、有都は息を整えた。

「…………ったく、何してんだよ」
「人違いです」

声をかけるとシラを切るが、多分気付いている。

「ふざけんなよ。オレが夢月を間違えるワケねーだろ」

歩み寄り邪魔になる帽子を避け、細い腰を捕まえた。
すっぽりと腕の中に収まる夢月の身体にホッと安堵する。
その体温が、柔らかな感触が、抑制できない感情を宥めてくれるようで愛しさが膨らんだ。
すぐに離れたくない。

「こっち来て」

それに夢月は俯いて黙り込み目を合わせようともしない。
変なところで勘のいい夢月の事だから、ファンクラブの存在に気づいたのかも知れない。
何かを隠している顔だ。
尋ねてもその唇は小さく動くだけで、用を得ない。
下がり切った眉に戸惑いを乗せ、その瞳はしっとりと濡れ伏せた睫毛の影を映している。
化粧のせいか頬がうっすら色づいて見えた。

何だ、この顔すげーる。
まさか、この距離に照れてる?
今更、そんな…………

夢月の瞳が揺れて色めく。
思わず細い顎を掴まみ上げ、唇を重ねていた。
夢月との口付けは、いつまでも躊躇いがちな少女のようで、受け止める事に必死ながら、注ぎ込まれた想いを返すかの様に辿々しく応えてくる。
それでいて、漏らす吐息は高まる欲情を隠す事なく妖艶だ。
唇だけじゃなく、もっと深く全てを食い尽くしたくなる。
続けすぎると止められなくなる。
衝動を抑え唇を離すと、夢月と目が合った。

「それで、ほんとは?」
「ほんとは…………ファンクラブが復活するって聞いて」

まるで服を剥いだ時のように夢月はもじもじと顔を赤らめる。
ファンクラブの話など誰から聞いたのか、聞いたところでどうしようと思ったのか…………
浮気を疑われてる?
疑われても仕方ないと言えば、そうではあるが。

「………………………………ど、どうせですよ。こんな格好似合わないし、多分真崎くんの好みとは違うし、そもそも私は真崎くんのタイプじゃないし、私なんか真崎くんの事まだ知らないことばっかりで、奥さんなのに、全然知らないっ」

拗ねたような物言いが、可愛らしくて堪らない。
しかも、好みがどうのタイプじゃないだのと、記憶喪失だった自分が浴びせた言葉だ。
ずっと気にしていたのだろうか。
それで変装じみた格好をして、こんなに恥ずかしそうに顔を伏せるなんて…………
込み上げる愛しさに深く長い息を吐いていた。
何をどう伝えても伝えきれない。
愛しくて切なくて、湧き上がる熱を持て余す。
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