【R18】体に刻む恋のspell

神楽冬呼

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supplementary tuition番外編

体育祭に潜入せよ 4

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どう言えば、分かってくれる?
何をすれば伝わる?


有都はもどかしく切ない思いで夢月の肌に触れた。
身体を重ねる度にこの肌に募る想いを沁み込ませてきた。
何度も何度も奥底まで…………
それでも足りない。
想いの丈が、言葉にも行為にも追いつかない
静かに脈打つ白い首筋に唇を寄せる。
舌を這わせると、夢月の肌が震え、甘い声で哭いた。

…………オレのもの。オレだけの。

肌の上へと赤い印を残すと、夢月の手が腕を掴んできた。
せがむように力を込めた指先が、躊躇いがちに二の腕へと這い上がる。
その触れ方が、情欲を掻き立てた。
食い尽くしたいと思う唇が肌を、求めてしまう。
夢月の微かな喘ぎが鼓膜をくすぐり、理性を奪っていくようだ。

「おーい、真崎ぃ」

知っている声に溺れそうな意識を引き戻された。
びくりと肩を震わせた夢月が手を離し、不安な面持ちを見せる。
消化不良の昂る熱を抑え込み、有都は乱れた夢月の服を直しながら気持ちを整えた。

「佐竹くんかな?」
「だな。次の試合始まるのかも」
「真崎くんのチーム強いもんね」

夢月はさっき試合の途中で抜け出していた。
ファンクラブ然り、あの場に居たくない何かが夢月にはあるのかもしれない。

「勝たないほうがいい?」

別に勝ち負けに拘りはない。
内申を踏まえて体育祭をサボれないだけで、夢月が校内に残るならこのまま一緒にいたいくらいだ。

「…………ううん、今度はちゃんと応援するから勝って。最後の体育祭だもん、思い出残さないとね」

迷いを吹っ切るように夢月は微笑む。
花がほころぶようなその微笑みはずっと変わらない。

「分かった」

花弁を愛でる様に触れるだけのキスをする。
階段の下では隣の棟から走ってくるであろう足音が、「真崎」と連呼しながら忙しなく近づいてきた。

「佐竹一人か様子見てくるから、ここにいろよ。佐竹だけなら一緒に下まで降りっから」
「うん」

夢月の頭に帽子を乗せながら口端で笑うと有都は、軽やかに階段を降りる。

「何やってんだよ、こんなとこで」

降りて直ぐに佐竹と遭遇し、有都は佐竹の肩を無言で押しやった。
少し階段から離れないと口止め前に角度によっては夢月が見えてしまう。

「え、ちょっ、ちょい待ち」

だが遅かった。
佐竹が階段のほうを指差し、あたふたと狼狽える。
振り返ると丁度夢月の膝から下が見えてしまっている。

「お、お前、…………え?誰??浮気!?」
「ちげーよ、とりあえずお前は声デカい」
「何がちげーんだよ、だって夢月先生休職中に体育祭に女呼ぶって怪しすぎんだろ」
「いーから、とにかく黙れ」

隣の棟と繋がる廊下から佐竹を強引に階段へと引っ張る。
夢月と仲が良いとは言え、佐竹の狼狽え方が少し気にかかるところだ。
犬が懐いているレベルではない気がする。
やりとりが聞こえたのか、夢月がそろそろと階段を降りて来た。

「真崎、お前さ、浮気は良くねーよ…………」
「意外とわかんねーもんなんだな」

確かに普段薄化粧の夢月にしては濃いし、髪は長く、らしくない服を着てはいるが、そんなに違って見えるだろうか。
夢月の顔を確認しても尚、佐竹は気づかないらしい。

「…………こんにちは、佐竹くん」

まじまじと夢月の顔を眺めて佐竹が目を細めた。

「えっ!?………………もしかして、ゆっ ──── !」

叫び出しそうな佐竹の頭を有都が平手で叩く。
いてーな、とぼやきながら佐竹が目を見開いて夢月の爪先から頭までじっくりと眺めた。
そんな視線に晒すことすら不快になる。

「可愛いっすね」

くしゃっとした笑顔で佐竹が夢月に笑いかけた。
無自覚にやっている事なのか、その無邪気さに夢月が薄っすら頬を染める。

「へへ、元気そうで良かったっす」
「LINEありがとね」
「ファンクラブ見に来たんすか?」

有都は佐竹の言葉に目を瞠った。
しかも、夢月とLINEで繋がっていて、ファンクラブの事を教えたのも佐竹である。

「てめーかよ、余計なこと言ったの」

些細なことにさえ苛つく自分を抑えながら、有都は隣に立つ夢月の肩を抱いた。

「それ言えば夢月せんせー来るかなってさ」
「来るかな、じゃねーんだよ」

佐竹に夢月との関係は知られてはいるが、いまいち緊張感がない。

「夢月はオレとの事が公になれば復帰できなくなる。他の学校に勤めるにしても、生徒と関係した事実がネックになって採用されないかも知れないんだぞ」

佐竹の軽率さが、その無邪気さが鼻についたのは確かだ。
だけれど苛立ちを増幅したのは、稚拙な嫉妬。
夢月にしてみたら佐竹は大切な生徒の一人で、佐竹は教師としての夢月を慕っているだけなのだろう。
それでも、夢月が他の男の目に、女として映ることが堪らなく嫌なのだ。

「待って、真崎くん」

厳しく言葉を叩きつけた有都の前に夢月が歩み出た。
佐竹を背に庇う様に。

「ごめんなさい。軽率だったのは、私だよ。色々不安に負けて、ちょっと寂しくて…………勝手に来ちゃったから」

──── 寂しい?

夢月は消沈して眉を下げ俯いた。
物憂げに切なく歪めた目元に、有都は息を飲む。
今朝、玄関先で見せた寂しげな表情と被る。

「もう帰るから、安心して」

手に入ったとたんに、これだ。
ちゃんと見えてなかった。
夢月は寂しい時に寂しいと言えない。
辛い時に辛いと泣けない。
そう言う不器用なところを見落とさずに、しっかり守ると決めたのに…………

浮かれてた。
自分の気持ちばかりに囚われていた。

「ごめん、夢月。帰らないで、観ていって」

その不安げな頬を片手で包みこむと、夢月は濁りのない澄んだ瞳を上げる。

「…………いいの?」

遠慮気味に尋ねながらも、その目は嬉しそうに瞬いた。
頷く変わりに微笑んで見せる。

時々、想いが先行して大切な事が見えなくなる。
足りないのは想いを伝える事だけではない。
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