【R18】体に刻む恋のspell

神楽冬呼

文字の大きさ
17 / 44
supplementary tuition番外編

嫁が可愛すぎる件について2

しおりを挟む
今日は4週に一度の妊婦健診だった。
学校が終わるのを待っていた夢月と落ち合い、夕方から病院へ向かった。

結局、清水蓮の紹介で初診となった病院から、救急搬送で入院していた病院を経て、今は悠都から紹介された小さな産科に通っている。
女医ではないが、実直そうな初老の医師なので妥協した。
家からも近く知人からの紹介のみを患者とする、こじんまりとした診療方針だ。

「いやぁ、調子はどうだい、我が娘よ」

病院の前で待ち構えていた悠都が何故か両腕を広げている。
予想外の出現に夢月は思わず立ち止まり、有都は悠都の前へ立ちはだかった。

親父オヤジ、なんでいるんだよ」
「父親として娘に熱い抱擁を、と思ったんだけど、有都君でいいや、我が息子よー」

抱き着こうとする悠都の顔面を有都が鷲掴む。

「よくねーよ!帰れ、邪魔」
「息子よ、随分と手が大きくなったのね」

顔を鷲掴まれたまま、悠都が嬉しそうに有都の肩を叩いた。
この父親は隙さえあれば夢月に手を出そうとする。
本気でどうにかしようと言う訳ではないと分かってはいても、その過剰なスキンシップに見ている側は苛ついて仕方ない。

「悠都さん、今日はお仕事お休みですか?」

有都の横から顔を出し夢月は動じることなく悠都に声をかける。
悠都の性格や挙動に随分慣れたらしく、嫌がる素振りは無い。

「今日、妊婦健診だって聞いて居ても立ってもいられなくてね」
「義父が妊婦健診付き添うとか聞いた事ねーよ」
「何を言ってるんだよ、大事な娘と孫の状態を把握するのは私の任務なんだよ」
「誰も課してねーわ、そんな任務」
「それに今日は涼子さんから預かった物を夢月ちゃんに渡したくてね」
「じゃー、それ渡してもう帰れよ」

有都が悠都に向かって差し出した手は、がっしりと悠都に掴まれる。

「駄目だよ、あとでゆっくり渡すから、一緒に鍋つつきながらね」
「一緒に鍋なんかつつかねーわ!」
「いや、私はね月に一度は娘と鍋をつつくと決めているんだよ」
「…………そんなの知らねー、一人でつつけ」

結婚を反対されるより遥かに良いのだが、ここまで嫁を気に入られるのも迷惑な話だ。
悠都を睨みつけ牽制していると、夢月の手が腕を掴んできた。

「いいじゃない、せっかく来てくれたんだし、診察の時間に遅れちゃうよ」

首を傾げた夢月の肩をさらりと髪が流れる。
大概にして夢月は悠都や涼子に弱い。
そして有都はそんな夢月に弱い。

「仕方ねーな…………」

夢月の手を引いて病院の中へと入る。

思えば、悠都は夢月に対面する前から、夢月に対して特別な念を潜ませているようだった。

母方の祖父が亡くなり、名古屋へ引っ越す話が出た時に、どうにか残りたくて清水蓮に相談した。
すると悠都が持ってきたのだ、夢月の身辺調査書を。
そこには、あの笑顔の影に隠すには大き過ぎる、深い孤独があった。
『一緒に頑張ろ』
そう言っていた時には、夢月はすでに独りだったのだ。
何も言わずに、励ますばかりで、夢月はいつも笑っていた。

『有都、彼女が何を背負い、どう生きているのか、考えてみたらどうなんだ。拗ねてる場合じゃないだろ』

グラスを傾けながら悠都は珍しく父親の顔をしていた。
自分がどれだけ子どもなのか、良く分かった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

お義父さん、好き。

うみ
恋愛
お義父さんの子を孕みたい……。義理の父を好きになって、愛してしまった。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました

せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~ 救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。 どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。 乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。 受け取ろうとすると邪魔だと言われる。 そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。 医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。 最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇ 作品はフィクションです。 本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。

処理中です...