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supplementary tuition番外編
倦怠期ってなんですか?7
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『とにかくさ、有くんと話しなよ』
春香が言う通りだ。
いつもどうしても有都には直接ぶつけられずに、美咲に相談してしまうが、それで終わらせていては駄目なのだ。
相談したところで、憶測の域を越えない。
不安や疑問が、歪みになる前に勇気を出すべきなのだ。
夢月はぎゅっと、有都のシャツを握ると躊躇いがちに顔を上げた。
「……………………じゃあ、なんでソファで寝てるの?」
「えっ……………………」
有都の身体が僅かに強張り、罰が悪そうに視線が泳ぐ。
「…………あー、それな」
しばしの沈黙のあと、有都が夢月の手を掴み歩き出した。
駅を離れて車道脇の歩道を進んで行く。
「ま、真崎くん…………」
見知らぬ町並みにどこへ行くのか不安になり名を呼ぶが、路地を抜け突き進む有都は止まらない。
3分程歩いただろうか、路地を抜けると急に顔に風が当たり、陽射しが目を差した。
そこは高台、白いフェンスの前に草臥れたベンチが二つ並ぶ小さな広場だ。
「いつから知ってた?ソファで寝てんの」
向かい合うように有都が立ち、息を吐く。
「少し前…………、一緒に寝るのいや?」
夢月が目を上げると、有都は逸らす様に横を向いた。
「…………………………………………たくなんだよ」
有都には珍しく、はっきりと聞き取れないくぐもった声を出す。
聞き取れずに首を傾げる夢月をチラリと横目で確認し、有都は片手で顔を覆った。
「ヤりたくて我慢できなくなるんだよ」
有都が片手で隠した顔は真っ赤だ。
つられて夢月も顔が一気に蒸気した。
察しろと鼻で笑っていた美咲の言動が腑に落ちる。
タピオカが理性って、そう言うこと?
有都は性欲さえ自在にコントロールするかの様にいつも冷静で、余裕あり気に見えていただけに、そんな切羽詰まった状況だとは思っていなかった。
真っ赤になりながら打ち明ける姿が意外過ぎて、夢月はじっと見詰めた。
「…………幻滅なんかするワケねーだろ。こっちは我慢すんのに必死なんだよ」
「我慢しなくていいのに…………」
「良くねーよ、子どもがいるんだぞ?オレは夢月相手に加減できねーし、ついヤり過ぎる…………」
思い遣りと欲求の狭間で揺れる、それは普段有都からは感じない新鮮な戸惑い。
結婚生活に、妊娠に、戸惑っていたのは自分だけではないと夢月は実感した。
「…………良かった、倦怠期じゃなくて」
湧き上がる嬉しさを安堵の息に乗せ、夢月は微笑む。
有都はそんな夢月の笑顔を見てから、高台から望む景色へと視線を投げた。
ミニチュアのような町並みの中で、車が電車が動いている。
遠くには空へと伸びるタワーマンションが建ち並び、その上をオモチャのような飛行機が飛んでいた。
「こうして見ると、小さいよな。広過ぎて小さく見える」
「そうだね…………さっきまで悩んでた事がちっぽけに見えちゃうね」
その壮快な景色の中では、たくさんの人が息衝いて、たくさんの恋があり、夫婦がいる。
それぞれのドラマがあり、想いがある。
先程まで頭がもげそうなほど悩んでいたことも、大したことではないと思えてしまう程に、遥か先まで景色は続く。
「倦怠期なんて…………」
ポツリと有都が言葉を溢す。
「上手くいかなくなった時に持ち出す逃げ口上だろ。だから仕方ないって、自分を納得させたり諦めたりして、努力を惜しむ時に使うんだよ」
まるで自分に言い聞かせる様な、淡々とした口調に夢月は聞き入る。
有都は両親を見て来ている。
片親だった自分より、きっと夫婦と言うものを知り、様々な事を感じているのだ。
「恋愛も結婚も、多分、そうやって一度逃げ込むとそこで終わる」
それだけに言葉が深みを持ち、浸透していくようだ。
傷みを糧にしてきた人の言葉の重み。
サラサラと風が前髪を撫ぜ、有都は目を細めた。
「オレは、終わりたくない」
真摯に熱情を潜ませた瞳が見下ろして来る。
何度も、何度も思う。
恋をしたのがこの人で良かったと、結婚すべきはこの人だったと。
「…………うん」
夢月は頷いて有都の胸に耳を寄せた。
腕を回してぎゅっとその身体にしがみつく。
有都が側にいてくれる様になるまでは、その町の中にぽつんと一人でいる様な気がしていた。
家族がいない、家庭がない、それが自分なのだと諦めていた。
だけど、今はこの温もりがある。
お腹に宿る命がある。
春香が言う通りだ。
いつもどうしても有都には直接ぶつけられずに、美咲に相談してしまうが、それで終わらせていては駄目なのだ。
相談したところで、憶測の域を越えない。
不安や疑問が、歪みになる前に勇気を出すべきなのだ。
夢月はぎゅっと、有都のシャツを握ると躊躇いがちに顔を上げた。
「……………………じゃあ、なんでソファで寝てるの?」
「えっ……………………」
有都の身体が僅かに強張り、罰が悪そうに視線が泳ぐ。
「…………あー、それな」
しばしの沈黙のあと、有都が夢月の手を掴み歩き出した。
駅を離れて車道脇の歩道を進んで行く。
「ま、真崎くん…………」
見知らぬ町並みにどこへ行くのか不安になり名を呼ぶが、路地を抜け突き進む有都は止まらない。
3分程歩いただろうか、路地を抜けると急に顔に風が当たり、陽射しが目を差した。
そこは高台、白いフェンスの前に草臥れたベンチが二つ並ぶ小さな広場だ。
「いつから知ってた?ソファで寝てんの」
向かい合うように有都が立ち、息を吐く。
「少し前…………、一緒に寝るのいや?」
夢月が目を上げると、有都は逸らす様に横を向いた。
「…………………………………………たくなんだよ」
有都には珍しく、はっきりと聞き取れないくぐもった声を出す。
聞き取れずに首を傾げる夢月をチラリと横目で確認し、有都は片手で顔を覆った。
「ヤりたくて我慢できなくなるんだよ」
有都が片手で隠した顔は真っ赤だ。
つられて夢月も顔が一気に蒸気した。
察しろと鼻で笑っていた美咲の言動が腑に落ちる。
タピオカが理性って、そう言うこと?
有都は性欲さえ自在にコントロールするかの様にいつも冷静で、余裕あり気に見えていただけに、そんな切羽詰まった状況だとは思っていなかった。
真っ赤になりながら打ち明ける姿が意外過ぎて、夢月はじっと見詰めた。
「…………幻滅なんかするワケねーだろ。こっちは我慢すんのに必死なんだよ」
「我慢しなくていいのに…………」
「良くねーよ、子どもがいるんだぞ?オレは夢月相手に加減できねーし、ついヤり過ぎる…………」
思い遣りと欲求の狭間で揺れる、それは普段有都からは感じない新鮮な戸惑い。
結婚生活に、妊娠に、戸惑っていたのは自分だけではないと夢月は実感した。
「…………良かった、倦怠期じゃなくて」
湧き上がる嬉しさを安堵の息に乗せ、夢月は微笑む。
有都はそんな夢月の笑顔を見てから、高台から望む景色へと視線を投げた。
ミニチュアのような町並みの中で、車が電車が動いている。
遠くには空へと伸びるタワーマンションが建ち並び、その上をオモチャのような飛行機が飛んでいた。
「こうして見ると、小さいよな。広過ぎて小さく見える」
「そうだね…………さっきまで悩んでた事がちっぽけに見えちゃうね」
その壮快な景色の中では、たくさんの人が息衝いて、たくさんの恋があり、夫婦がいる。
それぞれのドラマがあり、想いがある。
先程まで頭がもげそうなほど悩んでいたことも、大したことではないと思えてしまう程に、遥か先まで景色は続く。
「倦怠期なんて…………」
ポツリと有都が言葉を溢す。
「上手くいかなくなった時に持ち出す逃げ口上だろ。だから仕方ないって、自分を納得させたり諦めたりして、努力を惜しむ時に使うんだよ」
まるで自分に言い聞かせる様な、淡々とした口調に夢月は聞き入る。
有都は両親を見て来ている。
片親だった自分より、きっと夫婦と言うものを知り、様々な事を感じているのだ。
「恋愛も結婚も、多分、そうやって一度逃げ込むとそこで終わる」
それだけに言葉が深みを持ち、浸透していくようだ。
傷みを糧にしてきた人の言葉の重み。
サラサラと風が前髪を撫ぜ、有都は目を細めた。
「オレは、終わりたくない」
真摯に熱情を潜ませた瞳が見下ろして来る。
何度も、何度も思う。
恋をしたのがこの人で良かったと、結婚すべきはこの人だったと。
「…………うん」
夢月は頷いて有都の胸に耳を寄せた。
腕を回してぎゅっとその身体にしがみつく。
有都が側にいてくれる様になるまでは、その町の中にぽつんと一人でいる様な気がしていた。
家族がいない、家庭がない、それが自分なのだと諦めていた。
だけど、今はこの温もりがある。
お腹に宿る命がある。
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