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supplementary tuition番外編
追憶の彼女 02
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可愛らしい人だと、思った。
そして見た目に違わず、中身も可愛らしい女だった。
「え?滑り台?」
「うん、滑り台。宿題終わったから一緒に滑ろうよ」
自分の周りには滑り台で遊ぶ大人はいない。
公園にいながら用具で遊ばない自分への気遣いだろうか。
それなら少し遊んで見せた方がいいのかもしれない、と子どもながらに考えを巡らせていると、手を掴まれ、東屋から連れ出された。
握られた手は思っていたより小さい。
兄よりも一回りは小さな手、そして兄よりも柔らかい。
当時の自分からしたら高校生は随分大人に見えていたが、実際は違うのだろうか。
「私ね、滑り台が一番好きなんだ。階段を登る時にワクワクして、滑り降りるとスカッとするでしょう」
肩越しに振り返る彼女の長い髪が、セーラー服の襟と一緒にサラサラと風に吹かれる。
目が眩むような眩しさに、胸を掴まれた。
高校生の夢月と、今の自分が出会っていたら、恋に落ちたのだろうか。
夢月は自分を選んでくれただろうか。
──── 夢月にキスをされてから、やけにあの頃を思い出す。
有都は目の前を通り過ぎていくセーラー服の一群に目を盗られながら、懐かしい彼女の姿を重ねた。
どうしても手に入れたくて、実力行使で強引に事を進めた。
想い続けた4年間を取り戻すくらいの勢いで。
それでいいと思いながら、夢月の初さに触れる度に迷いもした。
手を繋ぐことから始める様な、そんなプラトニックな関係が夢月には似合っているのかもしれない。
奥手で不器用で擦れていない、まっさらな女だから。
それが、あんなキスしてくるなんて…………
「真崎くーん、他の女眺めてニヤつくのはヤバくない?」
不意に佐竹が肩を組んできて、有都は佐竹と一緒だった事を思い出した。
そう言えば、学院祭の買い出しに出ていたのだ。
「別に制服見てただけ」
「…………え、そー言う趣味?」
「夢月に似合いそーだろ、あの制服」
「時々リア充かもしだすのヤメテ」
夢月の名を出したとたんに佐竹が唇を尖らせる。
夢月が学校にいた頃はそれ程感じなかったが、夢月が休職し接点を無くしてからの佐竹は露骨に妬みを示す。
玩具を無くした子どものようだ。
「いーよな、お前はさ、あの夢月せんせーが恋人とか、もうマジで夢のようじゃんっ」
「そーだな」
「あっさり『そーだな』とか言うんじゃねーよ!ノロケか、このっ」
横断歩道で立ち止まる有都の背に佐竹が拳を当てる。
校内では唯一、夢月との関係を知る存在となった佐竹だが、有都は入籍や夢月の妊娠をまだ告げていない。
恋人、と言う事実だけで佐竹のキャパシティを軽く超えている。
養護教諭との甘い関係を妄想するのも、キャパオーバーの警告だろう。
「学院祭までにカノジョが欲しー、せめて学院祭当日に告れる出会いをくださいっ」
佐竹が学院祭に拘るには理由がある。
恐らく佐竹だけではなく大半の3年生はそれを意識しているだろう。
学院祭の最終日を飾る後夜祭のキャンプファイヤーには、嘘か真か長年語り継がれるジンクスがあるらしい。
痛切な思いを噛み締めるように叫ぶ佐竹を前に、入籍も妊娠も当分打ち明けまいと有都はこっそりと決めた。
そして見た目に違わず、中身も可愛らしい女だった。
「え?滑り台?」
「うん、滑り台。宿題終わったから一緒に滑ろうよ」
自分の周りには滑り台で遊ぶ大人はいない。
公園にいながら用具で遊ばない自分への気遣いだろうか。
それなら少し遊んで見せた方がいいのかもしれない、と子どもながらに考えを巡らせていると、手を掴まれ、東屋から連れ出された。
握られた手は思っていたより小さい。
兄よりも一回りは小さな手、そして兄よりも柔らかい。
当時の自分からしたら高校生は随分大人に見えていたが、実際は違うのだろうか。
「私ね、滑り台が一番好きなんだ。階段を登る時にワクワクして、滑り降りるとスカッとするでしょう」
肩越しに振り返る彼女の長い髪が、セーラー服の襟と一緒にサラサラと風に吹かれる。
目が眩むような眩しさに、胸を掴まれた。
高校生の夢月と、今の自分が出会っていたら、恋に落ちたのだろうか。
夢月は自分を選んでくれただろうか。
──── 夢月にキスをされてから、やけにあの頃を思い出す。
有都は目の前を通り過ぎていくセーラー服の一群に目を盗られながら、懐かしい彼女の姿を重ねた。
どうしても手に入れたくて、実力行使で強引に事を進めた。
想い続けた4年間を取り戻すくらいの勢いで。
それでいいと思いながら、夢月の初さに触れる度に迷いもした。
手を繋ぐことから始める様な、そんなプラトニックな関係が夢月には似合っているのかもしれない。
奥手で不器用で擦れていない、まっさらな女だから。
それが、あんなキスしてくるなんて…………
「真崎くーん、他の女眺めてニヤつくのはヤバくない?」
不意に佐竹が肩を組んできて、有都は佐竹と一緒だった事を思い出した。
そう言えば、学院祭の買い出しに出ていたのだ。
「別に制服見てただけ」
「…………え、そー言う趣味?」
「夢月に似合いそーだろ、あの制服」
「時々リア充かもしだすのヤメテ」
夢月の名を出したとたんに佐竹が唇を尖らせる。
夢月が学校にいた頃はそれ程感じなかったが、夢月が休職し接点を無くしてからの佐竹は露骨に妬みを示す。
玩具を無くした子どものようだ。
「いーよな、お前はさ、あの夢月せんせーが恋人とか、もうマジで夢のようじゃんっ」
「そーだな」
「あっさり『そーだな』とか言うんじゃねーよ!ノロケか、このっ」
横断歩道で立ち止まる有都の背に佐竹が拳を当てる。
校内では唯一、夢月との関係を知る存在となった佐竹だが、有都は入籍や夢月の妊娠をまだ告げていない。
恋人、と言う事実だけで佐竹のキャパシティを軽く超えている。
養護教諭との甘い関係を妄想するのも、キャパオーバーの警告だろう。
「学院祭までにカノジョが欲しー、せめて学院祭当日に告れる出会いをくださいっ」
佐竹が学院祭に拘るには理由がある。
恐らく佐竹だけではなく大半の3年生はそれを意識しているだろう。
学院祭の最終日を飾る後夜祭のキャンプファイヤーには、嘘か真か長年語り継がれるジンクスがあるらしい。
痛切な思いを噛み締めるように叫ぶ佐竹を前に、入籍も妊娠も当分打ち明けまいと有都はこっそりと決めた。
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