眼ノ球

*花*

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一章 夢は現実に

二.過去

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こんな俺、柏木かしわぎ晋太しんたがこのようになってしまったのは過去に原因があった。

俺が幼い時の事だった。母はほぼ女手一つで俺と兄を育ててきていた。時に優しく時に厳しいメリハリのついた人だった。父は仕事がとても忙しく、ほぼ家に帰って来ないことが普通だった。だから、家には母、俺、兄の三人で暮らしていた。そして、祖母、祖父は俺達とは別々の家に住んでいた。

俺の家は決して裕福ではないが、兄がいてくれるおかげで毎日楽しく過ごすことが出来た。母も仕事が休みの時は、一緒に遊んでくれた。


俺の人生はここで変わってしまった。一気に奈落の底へと突き落とされることになる、そんなある日の事だった。

母、兄と一緒に公園で遊んだ後の帰り道だった。

「楽しかったな!晋太」
「うん!」
「私も楽しかったよ~さぁ、今日の晩ご飯は二人の好きなカレーにしましょうか!」
「やったー!!」

二人同時に嬉しそうに叫んだ。そんな俺達を見て、母もにこにこと微笑んでいた。そして俺が心を躍らせながら、早く信号が青に変わらないかなと待っていた時だった。不意に俺は手に持っていたボールを落としてしまった。それはころころと横断歩道を転がって行った。

「あっ!待って!!」

俺は飛び出してしまった。
信号がまだ変わっていないのに――
俺は急いでボールを取った。そして戻ろうと振り向こうとした時。

「晋太!!」

と言う叫び声が後ろから聞こえた。そして、とんと背中を押された。俺はその弾みで少し前に進んだ。
それと同時にきぃぃと言うブレーキ音とどんと鈍い音が聞こえてきた。

「……お母…………さん?」

そこには、ぐったりと倒れている母と、黒い車が止まっていた。すると中から二人の人が出てきて、声をかけていたり、電話をしていたりしていた。でも、母はその呼びかけに、うんともすんとも反応しなかった。

「お兄ちゃん……」

俺は兄の方を見つめた。兄は唖然として、母のことをじっと見つめたまま、その場で硬直していた。周りにいた人達も、ざわざわしていた。

あの時、俺が飛び出していなければ……
ボールなんて取りに行かなければ……
お母さんは…………

俺は途端に全身の力が抜け、その場にぺたりと座り込んだ。そして、大声を上げながら泣いた。今更後悔しても遅い。悪いのは俺なのに。でも、涙が止まらない。俺はありったけの声を出して泣いた。その声は住宅地に響き渡り、電柱に止まっていた烏も驚いたように、どこかへ飛んで行った。


俺は最低な弟。酷い弟。柏木家の中で最も醜いやつだ。
自分の勝手な行動で、母を殺してしまったのだから――


その後、母は病院に救急搬送されたものの、結局のところ、亡くなってしまった。
母は死に際、か細い声で、俺にこんな言葉をかけた。

「生きて」――と。

その言葉を最後に、ゆっくりと瞼を閉じていった。次第に、俺の手を握る母の手は、だんだんと弱くなっていた。俺はまた泣きそうになったが、泣くのをこらえた。逆に頑張って、笑顔になろうと努めた。

だって……お母さんに怒られちゃうから。泣いてばかりいるなって。
それに最後くらい、笑顔じゃなきゃ……ね……

そしてとうとう力尽きたのか、母の手はぶらんとたれてしまい、俺の手に支えられるようになっていた。俺は兄の方を見ると、兄は悲しそうながらも、少し微笑みかけて、肩をぽんと叩いた。

これからは俺達で何とかしていこう。
とでも言うように。

俺はそんな兄の表情を見て、母は本当に死んでしまったんだと、改めて実感し、やっぱりこらえきれず、涙が俺の頬をつぅと涙がつたった。そして、ぽたっと母の手のひらに落ちた。

そして俺は決心した。

母のためにも、俺はこの人生を精一杯生きてやる――と。



このことが原因となり、よく自分のことを責めるようになった。そして、何事にもネガティブ思考で考えるようになってしまった。また、自分は不幸なんじゃないかとも考えるようになった。でも、いつしかこの言葉が、俺の支えになっていた。

このことは決して変わらない。
たとえ自分のことが死ぬほど大嫌いだとしても。


俺はこの人生を生きてやると。










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