眼ノ球

*花*

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二章 剥き出しの闇

二.会社

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朝から疲れた。俺は肉体的にも精神的にもズタボロの体で、社内に「おはようございます」と挨拶をした。だがそこでも、皆の様子が変だった。

「…………」

反応が返ってこない。いつも「おはようございます」と返してくれる人達は、無言のままパソコンとにらめっこしている。そして上司さえも挨拶を返さない。ずっと何かの資料を眺めているばかりだった。俺はキョロキョロと辺りを見回しながら、自分の席に座った。
とりあえず俺は同期の隣の席の、ちょっとした話仲間である佐々木ささき隼平しゅんぺいに声をかけてみることにした。

「……おはよう、隼平」
「……ん?あぁ……晋太、おはよ……」

隼平は少しもこちらを向かず、パソコンに向き合って、ぼそぼそ言った。

……おかしい。おかしいぞ。

いつも元気で明るい隼平だが、今日はだるそうで、元気がないように見えた。そんな姿の隼平を少し見てから、自分の仕事に取り掛かった。
いつもなら、上司に厳しく叱られる大声が社内中に響き渡り、せかせかと働く人もいれば、裏で愚痴ってる奴らもいる。そんなブラック会社が、今日はさらにブラックに染め上げられている。社内では、無言の空間が続いていた。


昼休みの時間に入ると、皆一斉に昼食を食べ始めた。そこでも話し声は一切聞こえてこなかった。俺も朝買った弁当を食べようとしていた時、アイがようやく声を出した。

「オイ、晋太。チョットツイテコイ」
「は……何で……」
「イイカラ」

ちえっ。一生懸命働いて、働いて、腹が空いていて、死にそうな時に。何なんだこいつは。

俺は、仕方ないと弁当を食べることを諦め、ひもじい思いで、渋々とアイについて行った。アイについて行く道中では、腹がぐぅ、ぐぅと何回も音を立てていた。

あぁ……弁当が食いてぇよぉ……



アイについて行って、行き着いた場所は、会社近くのこじんまりとしたカフェだった。こんな状況だからといって、会社を抜け出していいものなのか。俺は、周りに聞こえないよう、ひそひそ声で話しかけた。

「おいおい、会社抜け出しても大丈夫なのか?」
「……マァ、何トカナルッショ!」
「何とかならなかったらどうするんだよ!」

と言いつつも、俺達は店員に案内された席へ座った。もちろん、ここの店員も笑顔を見せず、覇気のない声で俺達を案内した。店員も客もアイのことには気づいてない様子だった。客は、じっと新聞の方に目をやっていたり、食べ物を食べたりしていた。でもその雰囲気は、やはり暗かった。

「……で、何だよ」

俺は少しむすっとした声で聞いた。腹が減っているせいか、何だか妙にイライラしてくる。するとアイは、俺のことをじっと見つめてきた。ブレない瞳。真剣な目つきだ。

「……今ノ状況ヲ説明シテヤルタメ二ココヘ来タ」
「……!お前……!何か知ってるのか……!?」
「マァナ、イイカ、ヨク聞ケヨ」

俺は無言でこくりと頷いた。それから、ごくりと大きく唾を飲み込んだ。心臓の鼓動が、どっ、どっと早くなることを感じた。
アイは俺に目線を合わした。それと同時に脳に、キィーンと微かに音が鳴り、アイ話した。

「今朝……と言うか、今もだが、やけに皆暗く感じるだろう?」
「あぁ」
「それは全部、俺が招いてしまった事なんだが……このことには『眼玉』が関係しているんだ」

申し訳ないと謝るように、目を伏せた。
まだ俺の頭はパンクしていない。大丈夫だろう。多分。俺はちらりとアイの方を見ると、アイもこっちに目線を送ってきた。
それからアイは話を続けた。

「お前……コンビニから出ようとした時、あの店員の様子が変だと気づいたただろう?」
「……うん」
「あれは人々に取り憑いている『眼玉』のせいなんだ。あれは……人々の悪な気持ちを具現化させて、見えてくるんだ。でも、その眼玉は、普通の人には見えないものなんだよ……でもお前には、俺がいるだろ?だから見えてしまうんだよ」
「じゃあ、あの変な文字も、体に渦巻いてる紫色の霧みたいなのも……」
「あぁ、でもあれはまだ可愛い方だと思うがな」
「えっ……!?そうなのか……?」
「もっと酷いと、眼玉の大きさもめっちゃ大きくなって、文字の量も気持ち悪いくらい湧き出てくるんだ。霧も多くなって、濃くなって……下手すると、お前に襲ってくるかもな」

やばい。そろそろパンクするぞー……いつまで保つ……俺の頭……

「……で……なんで俺なんだよ……」
「それも、俺が原因なんだよなぁ……ほら、お前がみたやつって、目の色、紫だったろ?」
「あぁ」
「あの紫の瞳は、人々の悪の気持ちが固まって出来たもので、俺はお前の兄から生まれたからな。出来方が全然違うんだよ。だからかな……?まぁ、とにかく、用心はしておいた方がいいってことだよ!」
「えぇー……」

なんか色々面倒くさいことになったな。
なんで俺、こんな社会で生きていかないといけないんだよ……

俺は深くため息をついた。
さっきまでの話と言い、腹が減りすぎているといい、もう疲れた。
俺がすっかり意気消沈している時、その様子に気づいたアイは俺を少しでも安心させたいのか、こんなことを言ってきた。

「オレ言ッタダロ!『オ前ヲ守ル』ッテ!」
「ああ確かに……でも、本当か?」
「アァモチロン。コウ見エテモ約束ハシッカリ守ルンダゾ!!」

と言い、ペラペラと自分のことについて話してきた。自分はああだこうだ言ってきたので
、俺は適当に返事をしてやった。するとアイは「キィー!!!」と鋭く鳴いてきて、俺にどしどしと突進してきた。でもあんまり痛くなかったし、その行動が何だか、つい可愛いなと思ってしまい、「ふふ」と力ない笑いが口からこぼれた。腹が限界だ。

「…………俺、めっちゃ腹空いてるんだけど」
「アァ、悪イナ。コレデ話ハ終ワリダヨ。ゴメンナ?」
「……まあ、いいよ。でも、これで仕事に身が入っていかなかったら、全部お前のせいなんだからな……?」
「ダカラ悪イッテェ。伝エテオキタカッタンダヨ」
「はいはい……じゃあ、俺、仕事戻るから」
「オウ!」

そして俺達はカフェを後にして、会社へと戻って行った。少し気が軽くなった気がした。だが、こんな社会いつまで続くんだ――と俺は、誰にも見えない不安を奥底で抱えた。
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