眼ノ球

*花*

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二章 剥き出しの闇

一.明暗

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「いらっしゃいませー……」

店員の覇気のない声。いつもなら「いらっしゃいませー」と明るく、爽やかに客を迎え入れるはずが、今日はもさもさしていて暗い。暗すぎる。
コンビニの中に流れている曲も暗く、少々気味悪く感じてくる。
こんな雰囲気に包まれた中、俺は「どうしたんだ……?」とひっそりと疑問を口に出した。それから弁当がある場所まで歩いて行った。
弁当を取り、ついでに冷たいお茶も買うことにした。そしてレジへ向かった。

「いらっしゃいませー……お弁当は温めますか……?」
「あ、はい。お願いします」

やっぱり暗い。ピッ、ピッとバーコードを読み込む音がやけに明るく感じる。ピーと電子レンジが鳴った。やる気のなさそうな店員は、レンジから弁当を取り出し、ゆっくりと袋に入れた。

「お会計はー……650円でーす……」
「はい」
「丁度お預かりしましたー……こちら、お品物です……ありがとうございましたー……」

俺は袋を持ち、ふと店員の顔を見た。

無表情。
いつものキラキラニコニコの笑顔はどこへ行った。

と心の中で驚いていた時だった。俺の見間違いかと思ったが、違った。

「お、おい……アイ……見ろよ……」
「ン?ドウシタ?」

店員の周りに何かが渦巻いている。ぐるぐるぐるぐると紫の霧のような物体が。そして、店員の頭の横ら辺に目玉。でも、アイとは見た目が似ているが、瞳の色は違った。濃い紫色だった。ずっと見てると吸い込まれていきそうな感じがする。

「何だ……?あれ……」

俺はその店員を遠目で見ていた。すると、だんだんと文字が、ふわふわと浮かび上がってくるではないか。文字の大きさは様々。『面倒くさい』や『だるい』など、否定的な言葉が、まとわりつくように沢山浮かんでいた。
俺がその光景を見ていると、店員の横ら辺にいる目玉が、ぎろりと鋭くこっちを見てきた。その目付きに、はっと息を飲んだ。俺は急いでこのコンビニから出た。
中からはもう一度「ありがとうございましたー……」とくらい声で送られた。

「何だったんだ今の……殺されるかと……」

目だけの威圧でこんなにも呼吸が浅くなるのか。心臓がバクバクと大きくなっている。俺は何とか落ち着こうと、深呼吸を繰り返した。すると横からアイが、「キャ、キャ」と鳴いてきた。

「どうした……?」
「ッ……詳シイコトハ後デダ!今ハ朝飯食ッテ、早ク仕事場ヘ行ケ!」
「あ、あぁ。分かった」

とは言っても、時間がない。朝ごはんを食べる暇なんてない。
俺は混乱している頭をなんとか整理し、アイの言われた通りに、足早に仕事場へ向かった。


向かう間にもやっぱり違和感があった。生き物全体がやけに暗い。動物も、植物も、人間も。皆、全部暗く、どんよりとした空気をまとっていた。グルグル渦巻く紫色の霧。そして、沢山の人々の周りに、あの目玉がいた。文字も沢山飛び交っている。
『うざい』『辛い』『苦しい』『死ね』などの言葉が、俺全体を埋めつくしてくるように、言葉が浮かんでいた。それと同時に、何だか俺の心もズキズキと痛んでいた。

「何なんだよ……!本当に……!」

俺はそんな人々を押しのけていき、何とか会社へと着いた。いつも行く会社も、今日は一段とブラックに見えてくる。

嫌だ。怖い。行きたくない。

不安な気持ちでいっぱいいっぱいだった。

でも、行かなきゃいけないんだ……

俺は震える足を一歩前へ出した。次は左足。右足。左足。恐る恐る中へ入って行った。


何でこんなにも社会が暗くなっているんだ?
昨日まではこんなことなかった。皆、明るさを保っていた。コンビニの店員だって、朗らかな顔、元気な声で客を迎えていたじゃないか。そこら辺を通る人も、知らん顔で通っていく。でも、こんな様子ではなかった。
今日の雲ひとつない快晴の大空も、今では曇天で、大粒の雨が降ってきそうな感じがした。
俺はふとアイの方に目を向けた。
アイはどこかを真っ直ぐに見据えていた。


本当に、どうしちまったんだよ。
なあ、アイ。この社会で、一体何が起きているんだよ。


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