Passing 〜僕達の「好き」〜

*花*

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私は楓羽に腕を掴まれたまま学校内を駆け巡り、やってきたのは玄関。「何するの?」と聞こうとする暇もなく、無断で外へ飛び出して、最終的にたどり着いたのは、学校の表側にある、巨大で目立つ、日当たりのよい木の下だった。

「あっ……楓羽、おかえり…………」
「ただいま優牙~……何とか帰還しましたぁ~……」

楓羽はわざとへろへろと疲れ果てた声を出して、木の下にいた優牙に甘えるようにして、歩み寄っていった。優牙は、ぽんぽんと優しく頭を撫でていて、撫でられている楓羽は、とても嬉しそうに見えた。さっきまでの苦虫を噛み潰したような顔は見事なまでに消え失せていた。
ようやくここで、私は声を発する。

「ねぇ……楓羽。何でここに呼び出したのよ?そろそろ授業始まるチャイム鳴ると思うんだけど」
「ここに呼び出した理由?んっとねー、運動会のことなんだけどさ」
「……運動会?」

楓羽は頭に手を組みながら、呑気に言ってきた。さっきのような冷徹な声は、いつもの明るく、澄んだ声に戻っていた。濁りが一切ない。生い茂った木の葉の間から、眩しく輝く太陽の光がチラチラと覗かせ、楓羽の顔をところどころ照らしていた。

「そうそう♪体育祭!」
「体育祭と楓羽になんの関係があるの……?そもそも、あなた達って体育祭に参加するの?」
「もっちろん♪参加するよ!!ね、優牙~?」
「う、ん…………でも、僕的には参加したくないんだけど……ね」

優牙は、うつむき加減で、悲しげな表情を浮かべて言った。木陰にいるせいか、顔が暗く
、より一層、憂鬱そうに沈みきって見えた。どうやら、私と同じく運動が苦手な感じなのだろう。ところが、楓羽は「え~?」と煽るような声を上げた。馬鹿にしているような、上から見下してる感があるような、ふわふわとしたトーンの声に、妙にイラッとした。

「ちょっと、それは酷いじゃない……!」

つい、反射的に言葉が出てきた。楓羽も、その後ろにいる優牙もちょっと驚いたような顔をした。少しの間があってから、楓羽が堪えきれなくなったように、プッと吹き出し、「ははっ!」と大きな声を上げて笑った。それから、笑いを抑えようとしているのか、上を向いたり、口元を押えたりしていた。それでもなお、「ふっ」とか「はっ」などと、ポロポロと笑いがこぼれていた。その態度に、私はさらに腹を立てて、「はぁ?!」と怒鳴り声を出した。思わず、白兎という素が出そうになる。本当に何なんだ、こいつは。人を煽っておいて、何が面白いんだ。
奥にいた優牙は、オロオロしながらもこちらへ駆け寄ってきた。そこで、優牙の顔も光に照らされ、黄色の瞳が煌々と艶めき、金色のヴェールがかけられた。

「ちょっと……!兄さん……!」
「ふふっ……ごめん、ごめん……!まさか、そう言ってくると思わなくて……!あ、優牙ね、走るのイヤイヤ無理無理って言ってるけど、実際、ちょー速いから!!優牙の走りを甘く見ない方がいいと思うよ~?♪」
「ちょ…………!!あ、時雨、ちゃん……僕、そんなに速くないからね……?ね……??」

私に強く念を押すように見ては、むすっと頬を膨らませ、楓羽をジト目で見ていた。それから、ため息をつくと共に、がっくりと肩を落とし、また奥の方へとぼとぼと歩いて行った。大きな背中が、どんどん貧弱そうに小さくなっていく。そして、木の下に体育座りで座り、暗がりにこもってしまった。顔をうずくめて、縮こまっている。

「……ちょっと、どうするのよ」
「ん?大丈夫でしょ♪じゃ、話を本題に戻そうか」

私はちらりと優牙を心配そうに見てから、「うん」と曖昧に頷いた。妙に口角が上がった口が少しずつ開く。なぜだか、心臓の鼓動が早まってきていた。

――楓羽から告げられた言葉は意外なものだった。

「時雨ちゃんはさ、体育祭で、昊明と一緒の組になりたいとか思ってる?」


……え?……えっ!?

私の動揺の声を口に出そうとした時には、既に授業の開始のチャイムが鳴り響いていた。楓羽は、どこか怪しさが残る、柔和な笑みを浮かべていた。
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