13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

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第1章 青春期

目覚めの先に

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 カトリーナ・エーレンベルクは、エーレンベルク家の当主となった。

だが、それは勝利の代償として支払われるべきものを、何一つ免れたわけではなかった。

——身体が、もう限界だった。

奴隷印を押し当てられた痛み。
暴力を受け続けた身体。
寝不足と疲労の蓄積。

全てが一気に彼女を蝕んだ。

クーデターを成功させた直後、執務室で次の計画を練っていたカトリーナは、ふと視界がぐらりと揺れるのを感じた。

「……あ、れ……?」

頭が割れそうに痛い。
全身が熱くて、でも、どこか遠く冷たい。

意識がふわりと浮き、次の瞬間——

「お嬢様!!」

使用人たちの悲鳴が響いた。

——暗闇が、すべてを呑み込んだ。

焦燥と、訪問者

「医者を……! すぐに呼べ!!」

屋敷の者たちが慌てふためく。

しかし、すぐに問題が発覚した。

「……ダメです、どこも医者を派遣してくれません」

「何故だ!?」

「これまでの旦那様と奥様の行いが悪すぎて……エーレンベルク家にはもう関わりたくないと……」

沈黙が落ちる。

誰もが焦燥に駆られながら、打つ手がないことを悟る。

その時、今まで沈黙していたカトリーナの弟が、ぽつりと呟いた。

「……姉上は、交友関係が皆無です」

誰もが知っていることだった。
カトリーナは常に孤高の存在で、他人と深く関わろうとしなかった。

だが——

「ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼン。」

彼だけは、カトリーナの人生において、唯一名前を聞いたことがある存在だった。

「……ダメ元で、彼の元を訪れます」

それが、唯一の希望だった。

***

「……カトリーナが倒れた?」

弟からの報告を聞いた瞬間、ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼンは初めて、自分の心が大きく乱れるのを感じた。

カトリーナ・エーレンベルク。
彼の唯一のライバル。

どんな状況でも、冷静に立ち向かうあの女が——倒れた?

「……おい」

ヴィクトルは、静かに弟を見下ろした。

「それは、どの程度の状態だ?」

「……医者が呼べません。誰もエーレンベルク家に関わろうとしないんです」

「……っ」

ヴィクトルは舌打ちした。

「馬鹿が……」

カトリーナは、家を奪ったばかりだった。
これから全てを立て直さなければならないのに——

「この俺が動けば、医者の一人や二人、どうとでもなる」

そう言い放つと、ヴィクトルはすぐさま行動に移った。

公爵家の名を使い、最高の医者を呼びつける。
そして、わずか数時間後には、エーレンベルク家へと馬車を走らせていた。

珍しく、心が急かされるのを感じながら——。



「これは……ひどい」

エーレンベルク家の寝台で、優秀な医者が唸った。

カトリーナの腕に刻まれた奴隷印。
それは、焼きごてで押し付けられた生々しい傷跡。

「治療しなければ、炎症が悪化する。最悪、腕の自由が利かなくなるぞ」

医者の言葉に、ヴィクトルの顔色が僅かに険しくなる。

「どうにかなるのか」

「消毒と削ぎ落としの処置を施せば、傷跡は完全に消えないが、機能回復はできる」

「……やれ」

医者はすぐに道具を取り出し、処置を始めた。

カトリーナは意識がないまま、呻き声を漏らす。

ヴィクトルは、その様子をじっと見つめていた。

「お前、どこまで自分を犠牲にすれば気が済むんだ」

誰に向けるでもなく、静かに呟く。

目覚めの先に

昼下がり——

カトリーナ・エーレンベルクは、微かに瞼を震わせた。

まどろみの中、ぼんやりとした意識が浮上する。

身体が妙に軽い。
痛みはあるが、昨日までとは違う。

「……っ」

ゆっくりと目を開けた瞬間、視界に映ったのは——

ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼン。

「……ヴィクトル……?」

思わず、掠れた声で名前を呼んだ。

彼は、椅子に座り、腕を組んでこちらを見下ろしていた。

珍しく、険しい顔をしていた。

「やっと起きたか」

低く、静かな声。

「……なんで、ここに……?」

問いかけながらも、答えはなんとなくわかっていた。

「……俺以外に、お前を助けるやつはいないだろう」

その言葉に、カトリーナは思わず息を呑んだ。

彼の金色の瞳は、いつもよりほんの少しだけ鋭さを和らげていた。

まるで——

安堵しているように、見えた。

ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼンは、冷酷で計算高い男だ。
公爵家の次期当主であり、無駄な感情に流されるような人物ではない。

彼は、わざわざ自分のためにここへ?

優秀な医者まで連れて?

ヴィクトルは、僅かに目を細めた。

「理由がなければ、俺はここに来てはいけないのか?」

「……そういうことじゃない」

カトリーナは、思わず視線を逸らす。

「私は……あんたに、助けを求めたわけじゃない」

「そうだな」

ヴィクトルはあっさりと認めた。

「だが、お前の弟が来た。俺の名を頼ってな。」

「……弟が?」

「お前の交友関係が皆無だからな。俺しか頼れなかったらしい」

その言葉に、カトリーナは苦笑した。

「……皮肉ね」

交友関係を作ることを避けてきた自分が、結局、他人に救われることになるとは。

「お前は、常に一人で生きようとする」

ヴィクトルが静かに言う。

「誰にも頼らず、誰にも甘えず、すべてを一人で背負う。それが、お前のやり方だ」

「……そうね」

カトリーナは、自嘲気味に笑う。

「でも、それがどうした?」

「……それが、どこまで通用するか試しているのか?」

ヴィクトルの言葉に、カトリーナはハッとした。

「試す……?」

「お前は、自分がどれほど耐えられるか、どこまで戦えるか、自分自身で試しているように見える」

カトリーナは息を呑む。

「お前が選んだ道だ。俺が口を挟むことではない」

ヴィクトルはゆっくりと椅子から立ち上がり、寝台のすぐ横に歩み寄る。

そして——

カトリーナの額にそっと手を当てた。

「熱は引いたな」

「……っ」

彼の手のひんやりとした温もりに、一瞬、胸がざわめく。

「お前はもう少し、自分を労るべきだ」

「……あんたがそれを言う?」

カトリーナは、薄く笑う。

「お前も、無理をするタイプだろう?」

「……」

ヴィクトルは、それには答えなかった。

ただ、カトリーナの手首に目をやる。

奴隷印が刻まれていた部分。

「……消せる限りの傷は、消した」

ヴィクトルの声が僅かに低くなる。

「でも、完全には消えない。あの家の爪痕は、お前に一生残る」

その言葉が、妙に現実的で、冷酷なほどに真実だった。

カトリーナは、自分の手首をそっと撫でる。

うっすらと残る傷痕。

たしかに、これは消えない。

過去も、あの家も、すべてなかったことにはできない。

それでも——

「……構わないわ」

「……」

「私は、過去に縛られない」

カトリーナは静かに呟く。

「私は、私の道を進むだけ」

ヴィクトルは、しばらく彼女を見つめていた。

そして、ふっと笑う。

「そうか」

それだけ言って、彼はカトリーナの手を離した。

「ならば、せいぜい俺の前で倒れるな」

「……?」

「俺の唯一のライバルが、くだらないことで命を落とすのは許さない」

それが、ヴィクトルなりのエールなのだと、カトリーナは気づいた。

思わず、口元が緩む。

「……ふん、余計なお世話よ」

「当然だ」

ヴィクトルは、満足げに微笑む。

その金色の瞳には、いつもよりほんの少しだけ、優しさが滲んでいた。
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