13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

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第1章 青春期

血と鉄の令嬢

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 カトリーナ・エーレンベルクが新当主として動き出してから、屋敷の空気は一変した。

無駄な土地の売却、財政の見直し、母の浪費の制限、不要な事業の整理——
以前、自らが立てた商売計画を実行に移し、確実に利益を上げる流れを作る。

「貴族が商売など——!」

かつて父が吐き捨てた言葉は、今や過去の遺物に過ぎない。

そんなものにこだわっているから、エーレンベルク家は滅びかけたのだ。

カトリーナの手腕は見事だった。
決断は迅速で、無駄なものには一切容赦しない。

——そして、容赦しなかったのは、親族や裏切り者に対しても同じだった。



「カトリーナお嬢様、久しぶりですねぇ」

「私たち、ずっとエーレンベルク家を案じていましたのよ」

クーデターが成功し、商売が軌道に乗ると、それまで見向きもしなかった親族どもが、次々と屋敷を訪れた。

まるで、腐肉に群がるハゲタカのように。

「カトリーナお嬢様、私どもにも少し援助を……」

「一族のために、共に力を合わせましょう」

偽善に満ちた笑み。
下心を隠そうともしない言葉。

カトリーナは、そんな連中をじっと見つめ——

次の瞬間、側にいた護衛に命じた。

「連れて行け」

「……え?」

「屋敷の財産を貪ろうとした時点で、貴方たちは裏切り者よ」

親族たちは青ざめ、言い訳を並べたが、聞く耳を持つ気はなかった。

彼らは地下室にぶち込まれた。

——そして、その後どうなったかは、誰も語らない。



財政を整理していく中で、何人かの使用人が怪しい動きをしていたことが発覚した。

機密情報を外部に流していた者、屋敷の財産を横流ししていた者。

彼らは、即座に拘束された。

カトリーナは、静かに処罰を決める。

「拷問器具を用意して」

冷静な声に、部下たちは一瞬息を呑む。

「……お嬢様、まさか……」

「私は慈悲深くはないわ」

カトリーナは自ら地下室へと降り、拷問器具を手に取った。

「命を助けてほしければ、全て吐きなさい」

冷たい瞳が、震える裏切り者たちを見下ろす。

何が行われたのか、具体的なことを知る者はいない。

ただ、翌日から屋敷の使用人たちは、カトリーナに対する忠誠を誓うようになった。

彼女が、容赦なく「処理する」人間であることを知ったからだ。




財政の立て直しがひと段落し、カトリーナは久しぶりに学園へ戻った。

しかし、そこには新たな戦場が待っていた。

「カトリーナ様、懇親会での出来事、噂になってますわよ?」

「クーデターを起こしたと聞きましたが、本当ですの?」

貴族たちは、興味津々に彼女を囲んだ。

貴族社会は、常に他人のスキャンダルを求める。

「お父様を監禁し、お母様を軟禁なさったとか?」

「ご実家の財政は立ち直ったのですか?」

「やはり、商売をなさっていると?」

——うるさい。

カトリーナは、冷静に相手を見渡した。

こういう時、動揺を見せたら負けだ。

彼女は、ゆっくりと微笑む。

そして——

「あまり余計な詮索をすると、全身を血で染め上げることになりますわよ?」

その囁きは、微笑みの裏に潜む刃だった。

その場の空気が、一瞬で凍りつく。

「……っ」

貴族たちの中に、明らかに顔を強張らせた者がいる。

彼らは知っているのだ。

エーレンベルク家の当主となったカトリーナが、どれほど非情な決断を下してきたかを。

彼女はもう、「優雅な令嬢」ではない。
血と鉄で家を支配する女だ。

貴族たちの目が、警戒と恐怖に染まり始めたその時——

「黙れ」

鋭い声が響いた。

視線を向けると、そこには——

ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼンがいた。

彼は悠然と歩み寄ると、貴族たちを一瞥する。

「これ以上くだらん噂話を続けるなら、全員ここから消してやる」

静かな声だった。

だが、その一言で、貴族たちは一瞬で退いた。

彼の言葉には、それだけの威圧があった。

「ふん……随分と、あっさり追い払ったわね」

カトリーナは、ヴィクトルを見上げる。

「当然だろう」

「私が脅した時より、あの連中の顔色が悪かった気がするのだけど?」

「お前は、貴族社会における恐怖の象徴になりつつある。
だが俺は、元々支配者だ」

ヴィクトルは、薄く笑う。

「だから、俺が口を開けば、余計なことを言う者はいなくなる」

カトリーナは、じっと彼を見つめた。

「……あんた、本当に変わらないわね」

「当然だ」

カトリーナは、小さく笑う。

懇親会の時とは違う。
今度は、全てのカードを自分の手の中に持っている。

貴族社会の噂話も、くだらない詮索も——

すべて、彼女の意志一つで封じることができる。

「私も、変わらないわ」

「そうだな」

ヴィクトルの金色の瞳が、微かに揺れる。

「だから、お前が潰れるのは許さない」

「……そう?」

カトリーナは、微笑む。

そして、学園の廊下を歩き出す。

彼女はもう、過去に縛られる少女ではない。

血と鉄の令嬢として、この学園すらも支配する存在になりつつあった。
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