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第2章 再会
忘れられなかった男
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カトリーナは、机の上の書類に目を通しながら、思考がまとまらないままペンを握りしめていた。
(……私、何を考えているの?)
ヴィクトルが去った後、彼の言葉が頭から離れない。
「お前、俺のこと好きなのか?」
「13年前も、今も——俺の気持ちは変わってない」
あれは、単なる冗談?
それとも、本当に彼は——
(そんなわけないでしょう? 13年も経ってるのよ)
——それでも。
カトリーナは、自分の指先を見つめる。
震えてはいない。だが、胸の奥が、締めつけられるように痛かった。
13年。
彼と過ごした時間よりも、会わなかった時間の方が長い。
異国で過ごし、新しい人々と出会い、新しい人生を歩んだ。
なのに——
なぜ、ヴィクトルだけが忘れられなかったのか。
異国での13年間、カトリーナは新たな人生を築いた。
貴族としての立場を得て、社交界での交渉役となり、仕事に没頭した。
そして、恋人を作ろうとしたこともあった。
貴族の青年、商人、外交官——
何人かの男性と親しくなり、付き合おうとしたこともある。
だが——
どれも、長続きしなかった。
理由は簡単だった。
デートより先に進むことができなかった。
相手が手を握ろうとすると、ふと過去がよぎった。
唇を寄せられそうになると、無意識に身体がこわばった。
——心のどこかで、「こんなことをしてはいけない」という感覚があった。
何が「いけない」のか、自分でも分からなかった。
けれど、どんなに相手が優しくても、どんなに関係が順調でも——
その先に進むことができなかった。
相手を嫌いなわけじゃない。
ただ、心の奥底に、何かが引っかかっていた。
そして、次第に分かっていった。
——私は、13年前のまま、止まっているのかもしれない。
ヴィクトルが忘れられなかった理由
(どうして?)
13年前の私は、ヴィクトルのことをそんなにも「特別」だと思っていたの?
でも、当時はそんな自覚はなかった。
ただ、「彼には負けたくない」と思っていた。
「彼に認められたい」と思っていた。
……いや、それは言い訳かもしれない。
(私は、本当は——)
カトリーナは、ゆっくりと顔を伏せた。
この13年間、どんなに仕事に没頭しても、どんなに他の誰かと一緒にいても、
——ヴィクトルのことだけは、思い出さない日はなかった。
彼がいない世界に、私は馴染めなかった。
彼に匹敵する存在も、見つからなかった。
どんなに遠くに行っても、どんなに時間が経っても——
ヴィクトル・フォン・ヴァルトハイムだけは、私の心から消えなかった。
カトリーナは、書類の上にそっと指を置いた。
(13年も経って、今さら何を考えているの?)
私は、異国の貴族。
本国の人間ではない。
彼とはもう、何の関係もないはず。
——そう言い聞かせても、胸の奥のざわつきは消えない。
彼は私に、「逃げるな」と言った。
私は、逃げていたの?
13年前の感情から。
自分の本当の気持ちから。
もし、私は——
今もヴィクトルのことが、好きだったとしたら?
カトリーナは、自嘲気味に笑う。
(……今さら、何を考えているの?)
そんなこと、確かめる意味なんてない。
過去は過去。
私は、今を生きるべき。
それなのに——
なぜ、彼の言葉を、あんなにも気にしているの?
カトリーナは、窓を開けた。
夜風が吹き込む。
月が輝いている。
まるで、13年前の夜のように。
——あの時と、何も変わっていない。
彼が隣にいた時間。
彼が手を伸ばしてきた瞬間。
思い出したくないはずなのに、
気づけば、心の奥にずっと彼がいる。
(……私は、一体、どうしたいの?)
答えの出ないまま、夜は静かに更けていった。
(……私、何を考えているの?)
ヴィクトルが去った後、彼の言葉が頭から離れない。
「お前、俺のこと好きなのか?」
「13年前も、今も——俺の気持ちは変わってない」
あれは、単なる冗談?
それとも、本当に彼は——
(そんなわけないでしょう? 13年も経ってるのよ)
——それでも。
カトリーナは、自分の指先を見つめる。
震えてはいない。だが、胸の奥が、締めつけられるように痛かった。
13年。
彼と過ごした時間よりも、会わなかった時間の方が長い。
異国で過ごし、新しい人々と出会い、新しい人生を歩んだ。
なのに——
なぜ、ヴィクトルだけが忘れられなかったのか。
異国での13年間、カトリーナは新たな人生を築いた。
貴族としての立場を得て、社交界での交渉役となり、仕事に没頭した。
そして、恋人を作ろうとしたこともあった。
貴族の青年、商人、外交官——
何人かの男性と親しくなり、付き合おうとしたこともある。
だが——
どれも、長続きしなかった。
理由は簡単だった。
デートより先に進むことができなかった。
相手が手を握ろうとすると、ふと過去がよぎった。
唇を寄せられそうになると、無意識に身体がこわばった。
——心のどこかで、「こんなことをしてはいけない」という感覚があった。
何が「いけない」のか、自分でも分からなかった。
けれど、どんなに相手が優しくても、どんなに関係が順調でも——
その先に進むことができなかった。
相手を嫌いなわけじゃない。
ただ、心の奥底に、何かが引っかかっていた。
そして、次第に分かっていった。
——私は、13年前のまま、止まっているのかもしれない。
ヴィクトルが忘れられなかった理由
(どうして?)
13年前の私は、ヴィクトルのことをそんなにも「特別」だと思っていたの?
でも、当時はそんな自覚はなかった。
ただ、「彼には負けたくない」と思っていた。
「彼に認められたい」と思っていた。
……いや、それは言い訳かもしれない。
(私は、本当は——)
カトリーナは、ゆっくりと顔を伏せた。
この13年間、どんなに仕事に没頭しても、どんなに他の誰かと一緒にいても、
——ヴィクトルのことだけは、思い出さない日はなかった。
彼がいない世界に、私は馴染めなかった。
彼に匹敵する存在も、見つからなかった。
どんなに遠くに行っても、どんなに時間が経っても——
ヴィクトル・フォン・ヴァルトハイムだけは、私の心から消えなかった。
カトリーナは、書類の上にそっと指を置いた。
(13年も経って、今さら何を考えているの?)
私は、異国の貴族。
本国の人間ではない。
彼とはもう、何の関係もないはず。
——そう言い聞かせても、胸の奥のざわつきは消えない。
彼は私に、「逃げるな」と言った。
私は、逃げていたの?
13年前の感情から。
自分の本当の気持ちから。
もし、私は——
今もヴィクトルのことが、好きだったとしたら?
カトリーナは、自嘲気味に笑う。
(……今さら、何を考えているの?)
そんなこと、確かめる意味なんてない。
過去は過去。
私は、今を生きるべき。
それなのに——
なぜ、彼の言葉を、あんなにも気にしているの?
カトリーナは、窓を開けた。
夜風が吹き込む。
月が輝いている。
まるで、13年前の夜のように。
——あの時と、何も変わっていない。
彼が隣にいた時間。
彼が手を伸ばしてきた瞬間。
思い出したくないはずなのに、
気づけば、心の奥にずっと彼がいる。
(……私は、一体、どうしたいの?)
答えの出ないまま、夜は静かに更けていった。
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