13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

第4章 恋と権力の果てに

直接支配への暴走

　——その夜、ルイの滞在する宮廷の一室は静寂に包まれていた。  

　ルイは、窓際に立ち、暗闇の中でワイングラスを傾けていた。  
　だが、その瞳は、もはや理性の光を失いつつあった。  

　（カトリーナは……僕のもののはずだろう？）  

　彼女の手を何度も掴み、身体を奪い、  
　それでもまだ彼女の心はヴィクトルの元へ向かおうとする。  

　その事実が、ルイの理性を一歩ずつ崩壊させていた。  

　（あの男が……ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼンが邪魔だ）  

　（そして、カトリーナ自身が……僕のものになろうとしない）  

　喉の奥から、低い笑いが漏れた。  

　「……なら、選ばせる余地など最初からなければいい」  

　——彼女を"直接"支配する。  
　それが、もはや唯一の方法だった。  



　カトリーナは、宮廷からベルナール王国の王家への書簡を送る準備を整えていた。  
　その夜、書類を確認するために、来賓館の書斎へと向かう。  

　扉を開けた瞬間——  

　「カトリーナ様、殿下がお呼びです」  

　従者が、静かにそう告げた。  

　「……今は、王家への書簡をまとめている最中です」  

　「いえ……殿下は"すぐに"と」  

　妙な違和感があった。  
　だが、カトリーナは躊躇せずに立ち上がる。  

　ルイが何を仕掛けてくるか、  
　それを確認するためにも、話をつける必要があった。  

　——だが、それは罠だった。 

　ルイの部屋へ向かう廊下。  
　いつもと違い、周囲に人の気配がない。  

　足を止めた瞬間、背後から布が被せられた。  

　「っ……！！」  

　息をする間もなく、視界が暗くなる。  
　強い腕が、彼女の身体を拘束した。  

　「——すぐに殿下のもとへ運べ」 

　従者の声が、遠くで聞こえる。  

　（……やられた）  

　意識が遠のく中、カトリーナは最後に思った。  

　——ヴィクトル……。  



　——カトリーナが目を覚ましたとき、そこはルイの寝室だった。  

　意識がはっきりしないまま、  
　ゆっくりと瞼を開く。  

　重い絹のカーテンが、風に揺れている。  
　窓から差し込む月明かりが、広い寝台を照らしていた。  

　——そして、その端に座る男。  

　ルイは、ゆっくりと微笑んだ。  

　「……やっと目を覚ましたか」  

　「……」  

　カトリーナは、すぐに状況を理解した。  

　手首に柔らかい絹の拘束が巻かれている。  
　だが、それは決して彼女を傷つけるものではなかった。  

　——甘く、優しい、けれど確実な"支配"。 

　「……最悪ね」  

　カトリーナは、低く呟いた。  

　ルイは、微笑みながらワインを傾ける。  

　「君がどれだけ抗おうと、僕のものになるのは決まっている」  

　「……何を勘違いしてるの？」  

　カトリーナは静かに冷笑を浮かべた。  

　「あなたが何をしようと、私は変わらない」  

　「そうか？」  

　ルイは、ワイングラスをテーブルに置いた。  

　そして、ベッドの端に腰掛け、  
　カトリーナの頬にそっと指を滑らせる。  

　「……君は、僕に抗えない」  

　「……」  

　「君がヴィクトルのもとに戻ることはない。  
　この国に留まることもない。  
　君は僕のものとして、王国へ帰るんだ」  

　カトリーナは、じっとルイの瞳を見つめた。  

　——そこには、純粋すぎる狂気があった。  

　「……ヴィクトルが、来るわよ」  

　静かに、カトリーナは囁いた。  

　ルイの表情が、微かに歪む。  

　「……来ても、無駄だ」  

　「そうかしら？」  

　カトリーナは冷笑を浮かべた。  

　「ヴィクトルは、"私を取り戻すためなら何でもする"男よ」  

　ルイは、カトリーナの顎を掴み、顔を近づけた。  

　「なら、試してみるか？」  

　「……」  

　カトリーナは、目を細めながら答えた。  

　「ええ。試してみたら？  
　"ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼン"を、本当に敵に回した時の恐ろしさを」  

　ルイは、一瞬だけ黙った。  

　しかし、次の瞬間——  

　「その前に、もう二度とヴィクトルのもとへ戻れないようにしてやる」 

　そう囁きながら、  
　ルイはカトリーナの手を引き寄せ、口づけを落とした。