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私は、なに?
しおりを挟むカイの腕の中は、あたたかかった。
だけど、泣きたいのをこらえるには、近すぎた。
「……ねえ、カイ」
「……ん」
「わたしって、なに?」
彼の腕が、ぴくりと強張る。
アナベルは顔を伏せたまま、
掠れた声で続けた。
「“恋人”じゃないよね……」
「“好き”って言われたことも、ない」
「キスも、触れるのも……いつも、カイが勝手にして、私は……」
「何も言えなくて、ただ流されてるだけで……」
「……でも、わたし、嬉しかったの。少しだけ」
ぽろぽろと、こぼれる涙。
止めようとしても止められなかった。
「でも今日、“おもちゃ”って言われたの……“哀れ”だって……」
「わたし、そう見えてたんだって思ったら……怖くて……」
カイは何も言わなかった。
ただ、ぎゅっと抱きしめる腕に力が入った。
「好きって、言ってよ……」
「嘘でもいいから、誰かに言われたかった……」
「“ちゃんと大事にされてる”って……思いたかったんだよ……」
その瞬間だった。
カイが、アナベルの肩を掴んで、顔を覗き込んだ。
「……嘘じゃねえよ」
声は低くて、でも震えていた。
「言わねぇだけで、ずっと思ってたよ」
「俺は、他の誰にも興味なんかねえし……ずっと、お前だけ見てきた」
「……でも、こんな言葉で、お前が泣き止むとも思ってなかった」
アナベルの頬に触れた指が、涙を拭う。
「……好きだよ」
「今さらだけど、お前がいないと、俺……マジでバカになる」
目が合った。
いつもふざけていたはずのその瞳が、
今はただ真っ直ぐに、揺れていた。
アナベルは、胸の奥がじんわりと溶けていくのを感じた。
「……遅いよ、ばか」
「うるせぇ」
そう言いながら、カイは額を寄せてきて、
そっと唇を重ねた。
今までのどのキスよりも、
優しくて、切実だった。
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