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いつもと違う、今夜のこと
しおりを挟む「……お風呂、入ってくる」
泣き腫らした顔をごまかすように、そう呟いて立ち上がると、
カイは背中越しにぽつりと呟いた。
「……待ってる」
その言葉だけで、胸が跳ねた。
(“待ってる”って……なにを?)
脱衣所で鏡を見たら、思っていたより目が赤くなっていて、
熱っぽさがまだ頬に残っていた。
(……わたし、カイに“好き”って言われた)
(それだけで、全部が救われたみたいな顔してた……)
(でも、今夜――)
考えるのをやめた。
お湯の中で、心もほどけるような気がして、
深く息を吐いた。
部屋に戻ると、カイはベッドの端に腰をかけていた。
照明は落とされ、間接照明だけが、静かに影をつくっている。
目が合う。
(近づいた方がいいのかな……でも、何か言われるのを待つのも、違う気がする)
恐る恐る隣に座ると、
カイは何も言わずに、そっと手を伸ばしてきた。
指先が、濡れた髪を払って、頬に触れる。
「……まだ、泣きそうな顔してんな」
「してない……つもりだったんだけど」
「バレバレ。……でも、かわいい」
「……っ、言いすぎ」
「言っただけ。好きなやつに言うの、普通だろ」
目を逸らしながら呟くその声が、
たまらなく嬉しくて、どうしていいかわからなくなる。
気づけば、自分から――
彼のシャツの袖を、そっと引いていた。
「……今夜は」
「……ん?」
「やさしく、してほしい……」
その言葉が、自分の口から出たことに一番驚いていたのは、アナベル自身だった。
カイはしばらく黙って、ただ彼女を見つめていた。
そして小さく、喉を鳴らすように言った。
「……ばか」
そう言いながら、
そっと唇が落ちてくる。
いつもと違って、
焦ってもないし、強引でもない。
ただ、あたたかい。
何度も、何度も、重ねられるキスに、
アナベルは自然と目を閉じた。
愛されてるって、信じていいのかな。
今だけじゃなくて、
明日も、明後日も――
そんな風に思ったのは、
初めてだった。
その夜は、
痛みよりもぬくもりの方がずっと多くて、
終わったあと、カイの腕の中で泣くこともなく、
ただ静かに眠ることができた。
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