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しおりを挟む※とある護衛騎士フレデリックのお話・続。
私は正直怒っておりましたので、この時の事を後に陛下から「言い過ぎ」という苦言を頂きましたが、こればっかりは、仕方なかったと思います。
ハンスを睨み付けるグリード元王子に、私は告げました。
「正直に言いますと、もう貴方は王族ではありません。グリード元王子殿下」
「なっ……なにを言っている! こんな時に冗談を言っている暇は無いのだぞ!」
私の言葉にハンス含む騎士達も頷いて肯定を示すと、グリード元王子は青い顔で私の顔を凝視されました。
「グリード元王子殿下は、本当の王族ではありません。貴方は、不義を働いた第二王妃のお子であるにも関わらず、陛下の温情にて養子にされていたのです。王家の色も、『植物魔法』をも扱えないのが何よりの証です」
「な、な……なんで……それを……」
私の話は、宮廷貴族並びに高位貴族なら誰しも知っている内容でした。グリード元王子は、必死に『植物魔法』が使えない事を隠そうとされていたようですが。
「当然、社交界に出ているものならば知っていることです。王位継承権第二位のテュティリア様に婿入りされるので、そんな事は、まったく問題はございませんでしたが」
しかし、グリード元王子と同年代や近しい年齢のものには知らされておりません。貴族社会に馴染む年頃になれば、社交界で知るべき情報だったでしょうが、その頃には既にグリード元王子はテュティリア様に婿入りされていたでしょうから、何も問題はなかったのです。
「そんな……」
「テュティリア様が貴方の伴侶である限り、グリード王子にも王族としての籍と王位継承権が残っておりましたが、それは貴方自身の手で捨て去ったのですよ」
失意のドン底のような表情で渓谷の暗い谷底を見つめるグリード元王子でしたが、今更後悔しても遅いのです。
「そんなヒドイ言い方しなくっても、いいじゃない! グリード王子は王妃様が産んだんでしょ? なら王族なのは変わらないわ! それに、お姉様の変わりに私と結婚すれば、何も問題ないじゃないの!」
知能の低い平民風情が何かわめいていましたが、そもそも何故この女はテュティリア様と自分が同格だと思い込んでいるのでしょうか?
「テュティリア様を侮辱する言い方は許しません。お前の罪は、国王陛下の御前で嘘偽りなく詳らかにせよ。連れていけ!」
ハンスが苛ただしく、騎士に命じ、騎士達も険しい表情で殺人者の女を取り押さえて連行していきます。
「な、なによ! 離しなさいよ! グリード王子! 助けてぇ! 痛っ! ちょっと! 私を誰だと思っているの!? 時期公爵夫人よ! いや! 離してぇ! 私は、ヒロインなんだからぁ!」
最後まで意味不明な事を喚く女に、グリード元王子は視線一つ向けませんでした。
★
謁見の間にて、重罪人の裁きを執り行うのは、国王陛下自身でした。普通の裁判ならば、高位貴族家から3つの家が選ばれ、裁判官として公正に裁判を執り行うのですが、今回ばかりは特殊な例と言っても良いでしょうか。
まず、裁判官に選ばれるのは裁判を受ける者より上位の爵位が必要でしたので、元とは言え、王子であるグリード様よりも高位の爵位と言われれば、第一王子である王太子のアルフォンス様か国王陛下しかいらっしゃいませんから。
この国の裁判は他国と違い、罪人の減刑などは行われません。罪人の罪を全貴族に報告し、定められた法に乗っ取った罰を与えますよと、周知させるための場です。
今回の裁判で裁かれる罪人は6人ですね。
王位継承権第二位のテュティリア様を害した罪ですね。
「罪人をこれへ」
中央の高台から、陛下のよく通るお声が響きました。連れて来られた罪人達は手枷と魔法封じの首輪を填められて、1列に並ばさせられます。罪人のほとんどが顔色青く俯いていました。
陛下の横に立つ宰相のミュウラー公爵が、丸められた羊皮紙の置かれたワゴンから1枚取り出し読み上げます。
「ゴラム・フンバット並びに平民の女マローナとその娘マリア、一歩前へ」
呼ばれた罪人達が一歩前へ出たのを確認し、宰相は続けます。
「ゴラム・フンバット。お前は、尊き王家の血筋を引く前王陛下の娘であり、自身の妻であったシルヴィア・メイズ・ホーエンハーム大公女殿下の命を奪い、尚且つシルヴィア様の娘であるテュティリア様の爵位を18歳まで仮受けしたにも関わらず、テュティリア様に相応の教育並びに生活支援等を怠った。それだけでは飽きたらず、娼婦の愛人を公爵邸に連れ込み、陛下からのテュティリア様への支援を全て着服し、愛人とその娘に与えていた」
宰相が読み上げられたゴラムの罪に、周囲の貴族からは悲鳴と怒号が飛び交います。
「次に平民の女マローナ。お前は公爵夫人でもなければただの平民でありながらも、公爵家を乗っ取ろうとしていたな。時期大公女であるテュティリア様へ毒を盛り、将来のテュティリア様が得るはずだった地位を娘にすげ替えようと画策していた。
幸いにも王家の血筋には植物の毒はあまり効かない。それに遅れて気づいたお前は、強力な魔物の毒を代わりに使って居たようだが、それがお前のミスだったな。毒の入手経路は素人同然で、毒を持ったまま公爵家の門を通るお前の姿を、テュティリア様の護衛騎士が何度も目撃していた。それに、長年毒に耐えておられたテュティリア様には毒への耐性が付いていたようで、魔物の毒に警戒され、一口も口にされなかったようだが」
罪人は皆、自白の種を事前に飲まされています。これは、テュティリア様が薬草管理センターで研究中に偶然にも見つけた種です。この種によって、冤罪をかけられる者が減りました。
罪人マローナは、奥歯を噛み締め、俯くだけで反論はできません。これは肯定を意味する行動で、例えここで口を開いたとしても、真実ならば肯定の言葉しか出てこないのだから、余計なことを口走ってしまうよりかは黙っているのは賢明とも言えました。
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