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しおりを挟む※とある護衛騎士フレデリックのお話・完。
「次に平民マローナの娘、平民マリア。お前の罪を読み上げる」
宰相であるミュラー公爵は、新しい羊皮紙を取り出し、その内容を読み上げました。
「お前は、公爵令嬢と偽り、公爵家の大公女殿下であるテュティリア様へと贈られた国王陛下直々の贈り物を我が物顔で受け取り、使用していただけでなく、一部を売り払い、得た金を使って複数の貴族の令息に貢いでいた。貴族令息の喜ぶものを買い与え、信用を得ようとしていたな。そこには元第二王子グリード殿下も含まれていた。さらに、公爵家の時期当主である大公女殿下であるテュティリア様に冤罪をかけ、元第二王子グリード殿下に、婚約破棄をするように仕向けたあげく、テュティリア様を谷底へと突き落とし……手にかけ、殺害した……っ……失礼……」
宰相は口に出して読むに連れて、感情が表に出たらしく、悔しげにうつむき一言断りを入れてから、取り出したハンカチで涙を拭っています。
法廷に集まる貴族の、テュティリア様と同年代の子を持つ親たちも、つられて涙を拭っていました。
「……これらの罪で、何か言いたいことはあるか?」
「あるに決まってんでしょ! 何でヒロインである私が裁かれなきゃいけないのよ! グリード王子がお茶会で言ってたわ。ティタリアよりも、私を婚約者にするって! 私は王族に嫁ぐ身なんだから、こんなこと許されないわよ!」
頭のおかしい平民マリアの喚く内容に、貴族だけではなく、裁かれる罪人達もが顔色を変えてそのマリアを見ています。母親とゴラムは、まさに蒼白でした。
そもそも、手にかけたテュティリア様のお名前を間違えて言った事と言い、あの娘は本当に知能が無いのではないでしょうか。
「その王族であったグリードは、おぬしに関わったせいで王族ですら居られなくなったがな」
国王陛下が、隠そうともせずに溜め息を吐き出します。心痛お察しします。
「何を言っているの? 偉そうなおじさんは黙ってて」
よもや、国王陛下に対する言葉遣いですらなく、国王に向かって黙ってろと言い出したマリアに、グリード王子ですら、悔しげな表情が一変し憎しみすら籠った視線でマリアを見ていました。周囲の貴族達からも怒号が飛び交います。
「もうよい。宰相」
「はい陛下。平民の娘マリア。追加で国王陛下への不敬罪が加わったお前に、陛下は反省の色なしとご判断された」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私、この人が国王陛下って知らなかったのよ!?」
「最初にご紹介しましたが、お前は何を聞いていたのだ?」
「……っ……」
「娘。我がテュティリア宛に贈っていたドレスを我が物顔で受け取っていたのはなぜだ?」
「そ、それは……だ、駄目って、お父さんもお母さんも言わなかったもの!」
「宛先は確認しなかったのか?」
「し……たわ……」
自白の種のせいで嘘は言えませんからね。陛下は、少女の本心を探るおつもりのようです。
「ではなぜ、宛て主の許可を取らなかった?」
「…………い、いずれ、私のものに……なったからよ」
「何故そう思い込んでいた?」
「グリード王子と私が結婚すれば、私が大公女でしょう?」
「おぬしとグリードの婚姻は我が国王で有る限り、起こり得ない。おぬしの母親とゴラムが婚姻してなかったのが何よりの証拠だ。思い上がるでない! 何を根拠に言っておる!」
「……わ、私がヒロインだからよ!」
訳のわからない事を頭を振り乱して言い出した少女に、国王陛下は首をふり……
『この国はお前が知っているゲームの世界じゃねーよ。お前が王族に嫁ぐ? 平民の分際で? 20年くらい前にも、お前のような女が転生していたな。俺の敬愛する姉上を邪険にしていたクソ女と全くもって考え方が同じだ。どんなクソゲーやったかは知らんが』
「なっ……なっ……」
「兵よ」
国王は古代語でマリアに語りかけました。何故かマリアは意味を理解したようで、顔を真っ赤にして混乱しています。陛下は有無を言わさずに兵を呼びました。
「この娘の口を閉じよ! もう戯れ言はよい。連れていけ」
『どう「ーーーんーーんーー!」
マリアが何か言う前に、マリアは口を閉じられ、早々に退場させられました。
この後の残っていた罪人2人とグリード元王子は大人しいものでした。
伯爵家の子息オズヴァンと騎士家の息子ゲインは平民マリアにある意味騙されて居たのですが、少し考えてマリアの言葉の真偽を確かめなかった為に起こしてしまった悲劇ではありました。
「ーゆえに、君たちの罪も平民マリアと共にテュティリア様を亡き者にした共犯の罪だ。そもそも『植物魔法』も『シード改良』も王族にしか扱えない魔法だと、家庭教師に習ったはずだが?」
「そ、それは……マリアが……テュティリア様に苛められたと……」
「マリアは……自分こそが国王陛下にも愛されていると、王族の色のドレスを身に纏っていて……てっきり、マリアにも『植物魔法』が扱えると……」
「周囲の者に真偽を確認しなかった理由は? シルヴィア様はテュティリア様以外にお子はいない。これは王族通信で平民でも知っておる内容だぞ?」
王族通信とは、王族の事情が書かれた庶民にも配られている新聞の事です。この国の王族は、『植物魔法』によって国への貢献度合いが他国に比べて高いので、国民の王族への期待度も違いますからね。教会では生き神のように崇拝しているものもいます。
宰相の問いに、2人はグリード元王子に視線を向けると、口を開きました。
「「グリード殿下が、マリアが公爵家のゴラム様と同じ色であると申されて……」」
2人の証言に、ゴラム・フンバットは顔色を青ざめました。
「ゴラム・フンバットの色は王族とは関係ないと、誰もが知っていたであろう? ゴラムは王家とは何の繋がりもない男爵家の血筋だ。入婿の分際で公爵の地位すらない男だぞ? 公爵家に住んでいたとは言え、ゴラムは元の男爵位のままだ。仮の公爵位はテュティリア様が18歳までの事で、公爵位を使う場合はテュティリア様の著名も必要だ。こんな常識も、君たちは勉強していなかったのか?」
「そ、それは……」「……」
「もうよい。宰相、次はグリードだ」
「はい陛下」
2人の話は一貫して、他人の言葉に踊らされたというもので、自身の意見がない事で、そうそうに切り上げられました。
最後に、グリード元王子は一歩前に出ましたが、その一歩はあまりにも弱々しいものでした。
宰相が読み上げた罪状は、平民マリアと共謀し、テュティリア様を亡き者にした内容でした。
「グリードよ。何か申すことはあるか?」
国王陛下自ら、グリード様に問いかけます。
「……ありません父上。宰相が言った事に間違いはありません。俺は、例えマリアに騙されていたとしても、一時的とは言えティリアよりマリアを選びましたから」
「そうか……ならばこれで、裁判は終了とする。後の罰の結果は貴族通信にてしらせる」
こうして法廷は閉められました。
グリード様は多少は反省の色が見えたとは言え、殺人の共謀は厳刑です。十数年とは言え、王族に名を連ねて居ましたので、王宮の咎め棟への一生の幽閉が決まりました。外出と外との交流等は行えませんが、中級貴族ほどの生活は保証されるようです。
2人の子息は金貨30枚の賠償と10年間の教会への奉仕活動が決定しました。教会ではガイア神と王族への絶対的な信仰を教育されますので、今後王族への反旗を翻す心根すら沸かなくなるでしょう。
金貨30枚というのは、彼等の家にも刑が及ぶのを阻止するための処置ですね。「息子がやった事です」では済まされませんからね。 他貴族達に王族への反意ありと捉えかねられません。彼等は10年後、息子が戻ってきたら、爵位を返上する事を陛下へと進言しましたが、陛下はそれを断り、賠償金として先の金額を王家へ支払うことで、その家族へのお咎め無しとされました。
次にゴラムとその愛人マローナには、鉱山への無償奉仕が無期限で決まりました。過酷な労働に加え、あそこでは常識なんて関係ありませんから、男女差なく平等に労働に勤しめます。サボろうものなら、少ないご飯を抜かれ、鞭で打たれますので、逆らう気持ちが折れるのが先か、叩き打ちされて餓死するのが先かというところでしょうか。
最後にマローナの娘マリアですが、1月後に処刑が決まりまして、高位貴族達と民衆からの強い希望で中央広場にて斬首刑が決まりました。執行されるその日まで、マリアは牢屋の中で、ぶつぶつとうわ言のように「こんなはずじゃ」「私はヒロイン」「私は悪くない」と呟いていたらしいのですが、刑が執行される5日前には、国王陛下自らがマリアの元を訪れ、古代語を交えた会話を交わした後からは、マリアは大人しくなったそうです。
古代語を会話できるほどに理解できる知能があったことには驚きですが、その知能を常識の方に向ける努力が欠けていた人物でしたので、残念な頭をしていた事には変わりありませんね。
マリアの処刑日には、多くの民衆がマリアに石を投げつけ、罵倒を浴びせていました。
化粧とドレスで着飾っていた時にはそこそこ可愛らしい顔立ちだった筈ですが、今はその面影もありません。彼女は本当に男爵家の血も継いでいたのでしょうか? 父親であるゴラムは、ありふれた髪色でしたし、母親は元娼婦でした。ゴラムの幼く見える顔立ちはむしろ、テュティリア様の方に強く受け継がれていましたが、彼女にはその面影すらありません。
暴れるマリアが断頭台に固定されると、国民からの「コロセ」コールが沸き上がります。
テュティリア様の功績は平民達の生活にも根付いておりました。重機型ゴーレムによる土木建築業のやり易さの改善に加え、新薬の元となる薬草の年中収穫による、回復薬の量の増産により薬の値下げがされ、末端の民にも安価で薬が手に入るようになりましたし、厳しい土地でも育つ食用植物の種を無償で各領地へと配っていたため、餓えで苦しむ民が減ったことも支持があった要因ですね。
そんな豊穣の聖女のごときテュティリア様は、度々露店で民の食べる食料を買い、はしたなくもその場でかぶりつくような民に親しみやすい天真爛漫な御方でしたので、昔のシルヴィア様を知る城下の者は、今回の悲劇に関して、民の悲しみと憎しみはそれはそれは大きいものでした。
マリアの首と胴が切り離され、民衆の歓喜の声と、テュティリア様を偲ぶ声で、王都が揺れる程でした。
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