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15 テュティリア視点
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巨大渦の洗濯機に巻き込まれた私は、そこからの記憶がありません。
激しく体と脳を揺さぶられたのでしょうね。目を開けた瞬間に見えた、目の前の青空の中で、星が廻るという摩訶不思議を体験しております。天体観察をしている気分とでも言いましょうか。プラネタリウムの星が跡を残して流れていくあの様子に、思わずウットリと手を伸ばしてしまいました。
「綺麗……」
天井の壁は思いの外近く、ほんのり温かみがあります。ですが、ゆっくりと星が廻る速度がゆっくりとなっていきますね……。ほんのり赤く色づいています。
「……大丈夫か?」
「……?」
一度ギュッと目を瞑ってから開くと、水色の長髪に星を散らした様な紺色の瞳と視線が絡みました。
私の手は、その方の頬に添えてあります。私の顔はみるみるうちに赤くなっておりましょうか。つられてチュートリアルのお兄さんも、頬を赤く染めて、私の手に手を重ねられましtttt……
「……っひょふん!」
い、いけません。イケメンの破壊力を舐めておりました。このように近くでイケメンさんと視線を交わす耐性は、あいにくと持っておりませんでした。私は両手で顔を覆ってしまいました。若干、左手首が痛いですが、渓谷を落ちる途中で飲んだ回復薬のおかげでうっすらと痕が残っているのみですね。
「どこか痛むか?」
「……っっ!!?」
チュートリアルのお兄さんは、私を横に抱えあげると、早足でどこかに向かいます。
今更ですが何故か私、全裸です。灰色の布で包まれておりますが。私の服であったであろうワインレッド色のドレスが細切れにされて地面に散らばっているのが見えました。
私、どうなっているのでしょうか??
チュートリアルを思い出したくても、邪念が、邪念が邪魔をします! 落ち着くのです、私の心臓! この後は何が起こってチュートリアルでしたっけ!? 私の裸をこのイケメンさんは見ていらっしゃったって事ですよね!? 落ち着くのです邪念よ!
しばらく大人しく(?)運ばれている途中で、落ち着いて洞窟内部を確認できるようになってきました。ここは狭い通路のようですが、地面などが舗装されていますね。天井の壁から突き出た光水晶に照らされて結構明るいです。通路端には見覚えのある箱型ゴーレムの姿があります。適度な距離から私達の後を付いてきておりますね。
「あれは君のか?」
「えっ……と、はい」
「……そうか。新しい魔物かと思ったが、敵意がなかったので、放置していた」
そうでしたーー!! 水晶の民の皆さんは戦闘民族でした!! 皆さん、SS級ダンジョンの地下洞窟に住んで居られますので、未知の動く蜘蛛型ロボットを新種の魔物として壊される心配もあったのですよね……全くもって失念しておりました。
「誤解を招く物を送り込んでしまって、申し訳ありません」
「いや。君と一緒に流れ着いたんだ。君の荷物だと解っただけで良かった」
「……一緒に流されて……そう、付いてきてくれたのですね」
きっとゴーレム達は巨大洗濯機の手前の崖に掴まっていたのでしょうか。AI機能搭載型ですから、あの渦は危険だと判断でもされたのでしょうね。結局は私が落ちてきてしまったので、続いて飛び込んで来てくれたのでしょう。なんというか、愛着が沸きました。
「意識はちゃんとあるようだな? 体調は?」
「大丈夫だと思いますわ」
「そうか。俺はクレイオロスだ。君は?」
「テュティリアです」
「テュティリア。何かあるといけない。1日様子を見る」
「は、はい」
チュートリアルのお兄さん、クレイオロスさんに連れて来られたのは、大きなドーム状の広場でした。
ここはまさに、私がゲーム内で畑を起こす場所でした。蜘蛛ゴーレム達を並べて待機を命じます。
広場の壁には鉄の板張りに鉄の扉が設置されています。クレイオロスさんは迷わず扉を開き、くぐりました。どこを見ても鉄の家具ばかりです。以外と暗い色系の布製品も多いですね。木製がないので、冷たい印象があります。
クレイオロスさんはそのまま隣室へと、まっすぐに向かいました。
寝台でしょうか? 部屋の中央にデデンと置かれております。クレイオロスさんは、鉄の台に布が幾重にも重ねられて革で包んだマットレスの上に私を置きました。以外と広さと弾力があります。
「君は疲れている。明日、事情を聞くので寝よう」
「あ、はい」
寝ろと言われたので、ごろんと横になりましたが、その横でクレイオロスさんも横になり、私と背中がくっついております。
え? ナニコレ? ドンナジョウキョウ?
バクバクとうるさく鳴る心臓の音に、私は全く動けない状態で混乱中です。薄い布1枚しか羽織ってない女性(と呼ぶには少々肉つきが足りませんが)の隣で良く平気で寝れますね?? クレイオロスさん。家と連動して心も鉄ですか!?
寝ろと言われたので、きっと外の時間は夜にでもなっているのでしょうか? いつまで寝るのでしょうか? いつまでこの状態でしょうか? ゲームでは、私は記憶喪失なのですよね? 記憶喪失だったから、主人公はこの状況に疑問を抱かなかったのでしょうか? どうしましょうか? 何故か体が寒いです。でも脳は熱いです。ふるふるする私に気づいたクレイオロスさんが、私を後ろから抱き締める形の姿勢で……
「寒いか? こうすれば暖かくなる」
耳元で甘く囁かれた私のキャパはオーバーし、意識もプッツンしてしまいました。
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