キスが出来る距離に居て

ハートリオ

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「ぶわっかも~~~んッ!」



長であるアスター博士の雄たけびで『魔法と魔術の研究室(仮)』はビリビリと振動する。



「セロシアメンバー!
ワシが君に頼んだのは、カトレア伯爵家に入り込み、伯爵夫妻が何か魔法にかけられている様子はないか、邸内に魔道具や魔法陣などは無いか、伯爵夫妻を影で操っている様な怪しい人物はいないかを探って欲しいという事で、ハァ、ハァ、」

「落ち着いて下さいよ、博士!
また血圧上がっちゃいますよ?」

「オランジュメンバーはお茶でも淹れて来るんじゃ!
ほらッ、行った、行った!」



ここ、『魔法と魔術の研究室(仮)』はたった三人で構成されている。

アスター博士、オランジュメンバー、俺の三人だけ。

だからオランジュメンバーが席を立つと真っ赤な顔で激昂している博士と二人っきりになってしまう。

オランジュメンバー、早く茶を持って戻って来てくれ‥‥



「ああ、いや、ワシが悪かった!
セロシアメンバーはクールだし欲が無いから大丈夫じゃと‥‥
だが‥‥あの時のワシらだってそうだったじゃないかッ!
ただ研究の為に、カトレア伯爵家に潜入しようと‥‥」

「!?
えッ‥‥それは!?」



俺は博士に頼まれて、自分も興味ある『魔法に関する事』を調査する為、カトレア伯爵邸に入り込もうと昨日のお茶会に参加したんだが‥‥博士も昔、同じ事を!?



「最初から、ちゃんと話すべきじゃったのう‥‥
60年前、わしらも継ぐ気も無くカトレア伯爵家の相続レースに参戦したんじゃ」

「”ワシら ”って‥‥」

「ワシとシランとアウレアとアウレアの妹のジャスミン‥‥この4人でカップルを組んでカトレア伯爵家のダンスパーティーに参加した」

「‥‥博士がダンスパーティー‥‥
博士がダンスパーティー?」

「二度言うな。
ワシだって若い頃はイケメンでモテモテだったんじゃぞ。
まぁ、シランには遠く及ばなかったがな。
アレは規格外、モテの加護でも受けとるんじゃろう」

「確かにシラン様は博士と同い年とは思えない程若々しくてダンディーで‥‥
五十代‥‥いえ、四十代でも通ると思います。
迫力ある落ち着きオーラを纏っていなければ、外見だけなら三十代でも‥‥
今でもおモテになると思いますが、アウレア様一筋という感じでしたね」

「フン、ワシだって年のわりに若いと言われとるんじゃ‥‥ブツブツ‥‥」

「博士?」

「とにかく、ワシとジャスミン、シランとアウレアでカップルを組んで、アウレア・シランカップルが選ばれた。
二人はすぐにカトレア伯爵邸に滞在する事になって‥‥
ソレっきりとなったんじゃ」

「ソレっきりって‥‥」

「二度とこの研究室に戻ってこなかった。
全く継ぐ気の無かったカトレア伯爵夫妻に納まって‥‥」

「シラン様とアウレア様もこの研究室のメンバーだったんですか!?」

「四人で作った研究室じゃ。
お前が心の底からバカにしている合言葉はシランとアウレアが作ったんじゃぞ」



‥‥ガタッ!



「何でそこで今日イチで驚いておる?
座れ、話を戻すぞ。
‥‥元々カトレア伯爵家には不思議な噂が絶えなかった。
ワシらが注目したのは、『カトレア伯爵家を継いだ者は、まるで人が変わった様に優秀になり、カトレア伯爵家を盛り立てて行く』というところじゃ。
若く経験の浅いカップルがいきなり王家以上の資産を保有するカトレア伯爵家を継ぎ、それまでと遜色なく維持、さらに発展させていくなど‥‥しかもそれがずっと続いているなど、もはやお伽話じゃ。
ワシら四人は何かカラクリがある、それは魔法や魔術の傀儡術ではないかと考え、実際にカトレア伯爵家に潜入して調べる事にしたんじゃ。
まんまと二人が潜入に成功して、二人とも調査する気満々じゃった。
『成果があっても無くても一週間後に研究室に報告に行くから』
そう言って手を振って別れたッきり、もう二人に会えなかった‥‥」

「え‥‥会いに行ったりはしなかったんですか?」

「もちろん行った。
だが、そこに居たのはもうワシの知っている二人じゃなかった。
カトレア伯爵夫妻に‥‥別人になっていたんじゃ」

「別人に?
”別人の様に ”ではなく?」

「二人は、身も心も完全に夫婦になっておった」

「‥‥それは、元々カップルなんですから‥‥」

「本当は、アウレアはワシの恋人だったんじゃ!」



‥‥ガタッ!



「ワシとアウレアが本当のカップルだった‥‥
見た目のバランスを考えて、偽りのカップルでダンスパーティーに参加した‥‥
ワシらはいつも四人で行動していたが、アウレアは一途で、モテモテ・シランに靡く事は無かった。
シランも決して親友であるワシの恋人に手を出そうとしなかった。
そもそもシランはバカみたいにモテたのに純粋で研究バカで‥‥ああそうだ、セロシアメンバーはその頃のシランに似ているかもしれんな。
金銭欲が無くて、恋愛にも興味が無くて、ひたすら研究に没頭してた‥‥
ところがカトレア伯爵となった彼は‥‥凄味のある微笑でワシを追い払った。
あぁ‥‥ワシは何て事をしてしまったんじゃ!
君も、きっと変わってしまう!
君じゃなくなってしまう!」

「大丈夫よ。
私がセロシア様を見張っててあげる」



不意に俺の背後から若い女性の声がして、俺も博士も驚きのあまり固まる。

‥‥この声って‥‥まさか!?

俺が振り返るとそこにはオレンジ色の髪に明るい青い瞳の美少女‥‥もとい女性。



ポーチュラカ嬢がニッコリ笑って立っている!?
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