『わたくしを誰だとお思い?』~若く美しい姫君達には目もくれず38才偽修道女を選んだ引きこもり皇帝は渾身の求婚を無かったことにされる~

ハートリオ

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3 晩餐会

64 謝罪

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ドアの方へ歩き出していたハート公王が振り返るとソルが頭を下げている。

困惑し、『どうぞ頭を上げて下さい』と言うハート公王――

ソルはゆっくり顔を上げ、静かに口を開く。


「――首の後ろの『聖女の印』、とうの昔に消えておりましたが、公王陛下が面会に来られる度に『消えていない』と嘘をつき続けました」

「…それは…」


「――記憶を失くしていたわたくしは印の存在も自分で彫ったものだという事も忘れておりましたので、印の事を知ったのはハート公王陛下が最初に面会に来られた時でした…」


☆☆☆


ハート公王…当時16才学生の第一王子殿下が最初に面会に現れたのはソルをブリッジ修道院に預けてから3ヶ月後の事だった。


「やぁ!久しぶり!…もっと早く会いに来たかったんだけど、ここには決まり事が多くてさ、中々面会の許可が下りないんだよ‥それより、ここへ来た日の夜に高熱を出して何日間も寝込んだんだって!?…ついさっき聞いてビックリだよ!…全く、君に何かあったらすぐ連絡する様言っておいたのに――それで大丈夫なのかい?‥ベールに遮られて君の顔色とかは分からないんだが‥」


出会ってからずっと朝に昼に夜に恋焦がれ続けているソルに会えた喜びで早口になるハート第一王子に対してソルは冷静に言う。


「実は大丈夫ではありません――体は大丈夫ですが、高熱で苦しんだ後、熱が引くのと一緒に自分に関する記憶をすっかり失くしてしまったのです」

「‥なッ!?――何も覚えていないのかい!?」

「ええ、ですからあなた様に教えて頂きたいのです――わたくしは誰で、何故こちらへ預けられたのでしょう?」

「‥そッ…それはッ」


ハート第一王子は返事に詰まる。

彼も不思議な金色の美少女について何も知らないのだ。

救出した日は夜遅かったし、翌日は金色の美少女に『聖女の印』が現れパニックになってしまい、とにかく『聖女の印』もろとも金色の美少女を隠さねばと大急ぎでブリッジ修道院に預けて――何の話もしていないのだ!

彼が知っている事、金色の美少女が唯一彼に伝えている事は救出した日の翌日の満月の日が8才の誕生日だという事だけ。


「‥ッ、すまない、分からないんだ…君をここへ預けた日の前日に荒くれ者達から君を救出して…その時が初対面で、ろくに話もしていなくて――君をここへ預けた日が君の8才の誕生日だという事しか分からない」


苦し気に説明するハート第一王子に、少女は落ち着いて質問を続ける。


「わたくしは犯罪被害者という事でしょうか…それなら騎士団に連れて行かれるべきでは?――騎士団ではなく何故修道院なのですか?」

「ウッ…それは――」


と言葉に詰まった後、正直に話すしかないとハート第一王子は腹を決める。


「実は君の首の後ろには『聖女の印』がある。会った次の朝現れたんだ――ベールを被ってもらっているのはその為なんだ。印の現れた者は姿を隠さなきゃならないからね。修道院の者達には『珍しい金髪を隠す為』と言ってある。修道院に知られたら君を奪われるから秘密にする。印が現れても覚醒せずに印が消えれば普通の人として結婚出来るから…私は君に現れてしまった印が消えるのを待つ。30年覚醒しなければ印は消える…もっと早く消える可能性もある!…そうすればすぐ結婚だ!」

「結婚…?
あなた様はわたくしの年令しか知らないのですよね?
それでどうして結婚となるのですか?」

「君は私の天使だからだッ!――信心深い私に神様が君を贈ってくれたのだ!――だから君は私のものなのだよ…安心して、大切にするから――だから、首の後ろの印が消えたら直ぐに私に教えて欲しい!――いいね?――そうするね?」

「‥‥‥‥‥」

「そうして欲しい…」


その時ソルがベールを被っていたのは実に幸運だった――ハート第一王子にとって。

ベールのお陰でソルが思いっきり呆れた顔をしているのに気付かずに済んだのだから…
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