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12 一年前の事件4『欲望の果て』
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弱ランプを数か所に灯しただけの薄暗い部屋の中で。
立ち尽くす第一王子ボンボンの目の前には部屋の中にいるはずの無い、背の高い男のシルエット。
幻覚だと思いたい。
が、薄暗い中で顔はハッキリとは見えないものの圧倒的存在感を放つシルエットは残念ながら現実だろう。
そのシルエットが放つただならぬ気に圧されてボンボンは後退り、今自分がしっかりと鍵を二つも掛けたドアに後頭部をぶつけてしまう。
逃げ場のない恐怖に叫びそうになった瞬間、低く響き渡る美声が話し掛けて来る。
「微かに助けを呼ぶ声に転移してみれば――
醜いぞ、ボンボン。
お前は男として以前に、人として醜悪過ぎる」
(――は!?
今私を『ボンボン』と呼び捨てたかッ!?
――――――ちッ、
父上にだって呼び捨てされた事ないのにッ!!)
(*父(国王)は『我が宝ボンボンきゅん』と呼ぶ)
ボンボンはカッとなって、恐怖も忘れて声を荒げる。
「この私を呼び捨てにするとは不敬の極みッ!
貴様、誰だッ!?
――はッ!!」
目が慣れて来て、薄暗い部屋の中でも一番弱ランプの灯りが届かないその場所に立つ姿が少しずつ明らかになって来た。
「――プ、
プラリネッ!」
床に倒れたまま媚薬による欲情に悶え苦しんでいるはずのプラリネは床ではなく。
ロングストレートの美しい黒髪を謎風に靡かせた背の高い男の腕の中に居る。
媚薬のせいで抵抗する力も気力も無いのだろう、男に抱きかかえられたまま大人しくその身を預けている様だ。
―――というか。
すっかり薄暗がりに目が慣れたボンボンが眉をひそめる。
‥‥もしかして変装のつもりだろうか?
男は顔の上半分に鉄製の仮面を着けている。
なので顔の上半分は隠され見えないのだが、誰がどうみてもモーブ猊下だ。
黒髪は世界的にも珍しいし、わが国にはモーブ猊下一人だけだ。
しかもサラサラストレートロングヘアはモーブ猊下の代名詞だし、更に強調するかのように謎風に舞っている。
美し過ぎて男にはまるで興味が無い自分でも3ヵ月間ぐらいは見惚れていられる…
分からないワケが無い!
だが、キリリと口を引き結んだモーブ猊下の大真面目な様子を見れば、決してふざけているのでない事は明らかだ。
‥ッ、そう言えばうっかり『貴様、誰だッ!?』などと言ってしまったな――
「‥‥フッ、
私が誰か、まるで分かっていない様だな‥‥」
ああホラ、面倒くさい感じになっている。
い、いや、いくら恐ろしい相手だからといって忖度している場合じゃない!
「プラリネは私の愛妾になるのだ!
さぁ、返してもらおう!
一刻も早く私の愛を注ぎ、楽にしてやらねばならないからな!」
「――なに!?」
《ビキキッ!》
「‥ひぃぃッ!?
何の音‥‥あッ‥」
――目力――
多分モーブ猊下は仮面の奥で目をカッと見開いたのだろう。
その影響だと思われる亀裂がモーブ猊下の鉄仮面の目の部分から何本も放射状に伸びている。
仮面オークション、仮面舞踏会、仮面乱交パーティー‥‥
39年の人生の中で様々な仮面を見て来た私だが、こんなに恐ろしい仮面は初めて見る――
あぁ、もう帰りたい。
いや、ここは私の部屋だった‥‥
―――ッッ!?
こ、恐いッ!
モーブ猊下の口が弧を描いてッ
わ、笑っているッ!?
――ホラーッ――
顔の上半分をヒビ割れだらけの鉄仮面で隠した男の笑顔はホラーでしかない!
な、何で一国の王子が自室でこんな恐い思いをしなきゃいかんのだ!?
誰か助け――ダメだッ
明日の朝まで人払いをしてしまっていた!
クソッ、クソがッ!!
「笑わせるな。
使い古され疲れ果てた粗チンに何が出来る。
夢を見るのも大概にしろ。
フン、まぁいい。
お前は分相応な夢を見るがいい」
「なッ‥‥ハッ!?」
全て真っ暗になった?
が、ふと気付くとモーブ猊下は消えており。
「‥ハァッ、アァッ」
苦し気なこの声は――
声のする方――部屋の奥にフラフラと歩いて行くボンボン。
ゴクッッ
思わず喉仏が大きく動く。
プラリネ――
今日のデビュタントを機に国一番の淑女と崇められるであろう美少女。
そんな君のそんな姿が見られるなんてね?
すっかり萎えていた股間が息を吹き返す。
自分で自分の体を弄り自慰行為に及びながらベッドの上で苦し気に悶えているのは本当に君なのかい?
ボンボンは堪らずベッドに近付き、自分で股間を攻め立てていた彼女の手首を掴んで股間から無理矢理はがし、優しく教えてあげる。
「自分でシたって媚薬は抜けないよ?」
「ハッ!
私の坊や‥‥何故ここに!?
媚薬ですって!?
この突然の苦しみは媚薬のせいなの!?
プラリネに飲ませはしたけど、私は飲んでいないのに、何故ッ!?」
「――ハハッ?
何故母上の真似を?
だが、よく特徴を捉えているな!
話し方なんか、ソックリだ!
ソレ、ご褒美の――」
「ちょッ!?
やめ、やめなさいッ!
何をッ!?
アッ、アッ、
アーーーッ」
「コレが欲しくてしょうがないんだろう?
ホラ、君の身体は正直だ。
吸い込まれてしまったよ?
おかしいな、初めてじゃないのかい?
ああ、もうイッて――
クククッ、なんて淫乱なんだい?」
ボンボンが自室だと思っているそこは母親である王妃の部屋である。
そしてプラリネに見えているのは王妃――
実の母親だ。
モーブ猊下がボンボンにしたのは王妃の部屋への転移。
たったそれだけ。
幻惑などの魔法は一切掛けていない。
だが、色に狂ったボンボンの目には、母親の姿がプラリネに見えていて…
この後、人払いされた王妃の部屋からは2匹の獣の咆哮が朝まで続くのである――
立ち尽くす第一王子ボンボンの目の前には部屋の中にいるはずの無い、背の高い男のシルエット。
幻覚だと思いたい。
が、薄暗い中で顔はハッキリとは見えないものの圧倒的存在感を放つシルエットは残念ながら現実だろう。
そのシルエットが放つただならぬ気に圧されてボンボンは後退り、今自分がしっかりと鍵を二つも掛けたドアに後頭部をぶつけてしまう。
逃げ場のない恐怖に叫びそうになった瞬間、低く響き渡る美声が話し掛けて来る。
「微かに助けを呼ぶ声に転移してみれば――
醜いぞ、ボンボン。
お前は男として以前に、人として醜悪過ぎる」
(――は!?
今私を『ボンボン』と呼び捨てたかッ!?
――――――ちッ、
父上にだって呼び捨てされた事ないのにッ!!)
(*父(国王)は『我が宝ボンボンきゅん』と呼ぶ)
ボンボンはカッとなって、恐怖も忘れて声を荒げる。
「この私を呼び捨てにするとは不敬の極みッ!
貴様、誰だッ!?
――はッ!!」
目が慣れて来て、薄暗い部屋の中でも一番弱ランプの灯りが届かないその場所に立つ姿が少しずつ明らかになって来た。
「――プ、
プラリネッ!」
床に倒れたまま媚薬による欲情に悶え苦しんでいるはずのプラリネは床ではなく。
ロングストレートの美しい黒髪を謎風に靡かせた背の高い男の腕の中に居る。
媚薬のせいで抵抗する力も気力も無いのだろう、男に抱きかかえられたまま大人しくその身を預けている様だ。
―――というか。
すっかり薄暗がりに目が慣れたボンボンが眉をひそめる。
‥‥もしかして変装のつもりだろうか?
男は顔の上半分に鉄製の仮面を着けている。
なので顔の上半分は隠され見えないのだが、誰がどうみてもモーブ猊下だ。
黒髪は世界的にも珍しいし、わが国にはモーブ猊下一人だけだ。
しかもサラサラストレートロングヘアはモーブ猊下の代名詞だし、更に強調するかのように謎風に舞っている。
美し過ぎて男にはまるで興味が無い自分でも3ヵ月間ぐらいは見惚れていられる…
分からないワケが無い!
だが、キリリと口を引き結んだモーブ猊下の大真面目な様子を見れば、決してふざけているのでない事は明らかだ。
‥ッ、そう言えばうっかり『貴様、誰だッ!?』などと言ってしまったな――
「‥‥フッ、
私が誰か、まるで分かっていない様だな‥‥」
ああホラ、面倒くさい感じになっている。
い、いや、いくら恐ろしい相手だからといって忖度している場合じゃない!
「プラリネは私の愛妾になるのだ!
さぁ、返してもらおう!
一刻も早く私の愛を注ぎ、楽にしてやらねばならないからな!」
「――なに!?」
《ビキキッ!》
「‥ひぃぃッ!?
何の音‥‥あッ‥」
――目力――
多分モーブ猊下は仮面の奥で目をカッと見開いたのだろう。
その影響だと思われる亀裂がモーブ猊下の鉄仮面の目の部分から何本も放射状に伸びている。
仮面オークション、仮面舞踏会、仮面乱交パーティー‥‥
39年の人生の中で様々な仮面を見て来た私だが、こんなに恐ろしい仮面は初めて見る――
あぁ、もう帰りたい。
いや、ここは私の部屋だった‥‥
―――ッッ!?
こ、恐いッ!
モーブ猊下の口が弧を描いてッ
わ、笑っているッ!?
――ホラーッ――
顔の上半分をヒビ割れだらけの鉄仮面で隠した男の笑顔はホラーでしかない!
な、何で一国の王子が自室でこんな恐い思いをしなきゃいかんのだ!?
誰か助け――ダメだッ
明日の朝まで人払いをしてしまっていた!
クソッ、クソがッ!!
「笑わせるな。
使い古され疲れ果てた粗チンに何が出来る。
夢を見るのも大概にしろ。
フン、まぁいい。
お前は分相応な夢を見るがいい」
「なッ‥‥ハッ!?」
全て真っ暗になった?
が、ふと気付くとモーブ猊下は消えており。
「‥ハァッ、アァッ」
苦し気なこの声は――
声のする方――部屋の奥にフラフラと歩いて行くボンボン。
ゴクッッ
思わず喉仏が大きく動く。
プラリネ――
今日のデビュタントを機に国一番の淑女と崇められるであろう美少女。
そんな君のそんな姿が見られるなんてね?
すっかり萎えていた股間が息を吹き返す。
自分で自分の体を弄り自慰行為に及びながらベッドの上で苦し気に悶えているのは本当に君なのかい?
ボンボンは堪らずベッドに近付き、自分で股間を攻め立てていた彼女の手首を掴んで股間から無理矢理はがし、優しく教えてあげる。
「自分でシたって媚薬は抜けないよ?」
「ハッ!
私の坊や‥‥何故ここに!?
媚薬ですって!?
この突然の苦しみは媚薬のせいなの!?
プラリネに飲ませはしたけど、私は飲んでいないのに、何故ッ!?」
「――ハハッ?
何故母上の真似を?
だが、よく特徴を捉えているな!
話し方なんか、ソックリだ!
ソレ、ご褒美の――」
「ちょッ!?
やめ、やめなさいッ!
何をッ!?
アッ、アッ、
アーーーッ」
「コレが欲しくてしょうがないんだろう?
ホラ、君の身体は正直だ。
吸い込まれてしまったよ?
おかしいな、初めてじゃないのかい?
ああ、もうイッて――
クククッ、なんて淫乱なんだい?」
ボンボンが自室だと思っているそこは母親である王妃の部屋である。
そしてプラリネに見えているのは王妃――
実の母親だ。
モーブ猊下がボンボンにしたのは王妃の部屋への転移。
たったそれだけ。
幻惑などの魔法は一切掛けていない。
だが、色に狂ったボンボンの目には、母親の姿がプラリネに見えていて…
この後、人払いされた王妃の部屋からは2匹の獣の咆哮が朝まで続くのである――
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