あと6日で王太子を振り向かせたい王女は護衛にドキドキしている場合ではない！

36 ラーミナ、舞う！

ピウスの手に現れた剣は細く美しい――

かなりの長剣だ。

振り回せば地面や木の枝に引っ掛かって万事休すとなりそうな長さだが…

ヒュンヒュンヒュンッ

ピウスが剣を振り回してもどこにも引っ掛からない。

その上速すぎて何をどうしているのかよく分からない――

そこに驚くよりも剣を操るピウスの優雅で華麗な様子に男たちは見惚れてしまう。

「‥ハッ！見惚れてる場合じゃねえ！お、大人しく言う事聞きゃ手荒にゃしねえ」
「‥そ、そうだ！お姫様にゃ似合わねえ物騒なモンは捨てていい子にしろ！」
「「さもなきゃ‥」」

ならず者達がゴツくてデカい剣を抜刀‥
カンカーーン！
ヒュヒュッ…

「‥なっ」
「はぁぁ！？」

抜刀した途端ピウスの剣がならず者達の剣を弾く。

細い剣先に軽く弾かれただけなのにならず者達の剣はビューーーンと空中を舞い…

またも背の高い木がシュルシュルと蔦が伸ばして剣をキャッチ。

2人の剣はどう足掻いても取り戻せない高所でブラブラ揺れている。

「あああ俺の剣が！まだ兄貴にローン払い終わってねえのに…」
「俺もだぜ！何人も切り刻んでやった切れ味最高のお気に入りの剣がぁ…」

「多くの妖精が住まう森の中でこの私を害そうなど浅慮の極み…」

そう言って口角を上げるピウス。

（（こ…恐い！美女の微笑が恐過ぎるッ！））

妖精は万物に宿っている。

美しく強い剣の妖精は妖精界の憧れの的。

そんな剣の妖精に愛されているピウスに森の妖精達は味方してくれる。

「ぬぅぅクッソこうなったら素手だ！女1人に男2人、素手だって楽勝だぜ！」
「戦うと？承知」

ピウスはスッと前に腕を伸ばし剣先を天に向け剣を持たない方の手は胸の前で何かのマークをかたどる。

実に神秘的、実に

「「‥カッコいい‥」」

またも見惚れて金縛り状態のならず者達に

ヒラリ
ピウスの剣が舞う。
「右眉」
ジャッ
「‥ウッ！？」

ヒラリ
「左口ひげ」
ジョリッ
「‥ハッ！？」

ヒラリ
「顎ひげ中央」
ジョジャッ
「‥ひぃ！？」

ヒラリ
「顎ひげ左右」
ジョジャジョジャッ
「‥あッあああッ！」

ピウスが手を止めたので恐る恐る互いの顔を見るならず者達。

1人は右眉と顎ひげ中央が
もう1人は左口ひげと顎ひげ左右が

見事に剃られている！

「「‥ッぎゃぁ～～～ッ！」」

相棒の惨状を見た後今度は自分の顔をまさぐって…

「俺の眉毛…自慢の顎ひげが‥半分ずつ無い！」
「毎日キレイに整えてる口ひげ…やっと理想の長さまで伸ばした顎ひげ‥あああ」

涙目になるならず者達にピウスが柔らかく問い掛ける。

「次は髪？それとも下半身？
うっかり全部削ぎ落してしまうかも‥」

「「‥ッぎゃぁ～～～ッ！」」

ならず者達が必死の形相で逃げて行く。

ヤバイ！
あの王女はヤバ過ぎる！
そ…そそ削ぎ落とされてしまう～～～！
女にされてしまう～～～！

さっきまで世間知らずの極上の処女を『女にしてやる』と舌なめずりしていた男達。

今は両手でしっかり股間を守りながら逃げ去って行くのである…