あと6日で王太子を振り向かせたい王女は護衛にドキドキしている場合ではない！

40 嵐の前のランチタイム

男達は学生服を着て地味で平凡を装っているが整った顔立ちの隠れイケメン達だ。

「驚きました…目が合った気がしたのはリアルだったのですね」
「感服です――こんな事は初めてです」

静かに頭を垂れる2人にピウスが問う。

「ならず者達を吊るしたのはあなた達ね？」
「はい――我が主に関わる御方に害をなそうとする者を我が主は許しません」
「『我が主』って…ウィースさんではないの？」
「ウィース様は何もご存じありません」
「‥待て、じゃあお前達の主とは誰だ！？何故俺を守る！？」
「それは‥」
「待って」

厳しい声を出すウィースに影の1人が答えようとしたところをピウスが止める。

「…だって私が聞いていいお話かしらと思って。1人の平民男性を3人の王族が『影』となって守っているのですもの」
――！？――

ピウスの言葉に全員が息を呑む。

「王族！？アクーメンも…お前達も！？」
「何故それを」
「主しか知らないはず」
「ピウス姫、あなたは一体…」

ピウスは4人が何故動揺するのか不思議だ。

「…まぁ…だって妖精の祝福を受けられるのって皇族と王族だけですのよ？…あら、コレ一般常識ではなかったかしら？」

かなりの知識に精通している積もりの4人でもそんな話は初耳である。

そんな度肝を抜かれ中の4人の前にピウスは大きなバスケットをドンと置き。

「お昼休みが終わってしまうわ。ランチにしましょう！今日は『影』さん2人の分も…5人分作って来ましたの！お好きな物が分からないから適当ですけれどお口に合えば嬉しいわ…深刻なお話は後で。私抜きでなさってね？」

そう言ってバスケットを開けばちょっとしたパーティー並みの華やかな弁当が現れる。

ウィースの好物、アクーメンの好物、それに…

「ああ！茸とチーズのキッシュ！私の大好物です！」
「3色野菜と燻製肉のサンド…まさかこの国で出会えるとは！」

思わず無表情の仮面が落ちて喜色を表すニューフェイス。

そう、『食べる』ってとっても大事と笑うピウス。

恐ろしい仕事をやってのける『影』に普通に接するピウスは決して頭がお花畑なのではない。

血生臭い王宮で育った王族だから知っているのだ。

『影』を。
要求される仕事の厳しさを。
その存在の報われなさを――

アクーメン達『影』はその深い眼差しに心が震える。
その優しさを受け取りランチを楽しむ。

皆でしばし何もかも忘れて美味しい弁当に舌鼓を打って。
今日のデザートは2種類のエクレア。
香り高いコーヒーで甘みの余韻を飲み込んで大満足のランチが終了するとピウスはふわりとウィースに視線を向ける。

「ピウス姫…」
「私は大丈夫よ。皆さんとゆっくりお話しなさって」
「だが‥」
「私は大丈夫よ。…あなたが何者でも」

柔らかな微笑…

あたたかいものに包まれる心地にウィースも自然と笑顔になる。

頷いて教室に向かうピウスにアクーメンが護衛に就く。

（…本当に何か起こる時って一気に色々起こるのね…でも私は…）

歩きながらピウスは姿勢を正す。

（私は強くならなければ…！）

決戦の卒業パーティーはもう明日に迫っている――