ことぶき不動産お祓い課 事故物件対策係 ~魔女の城編~

鷲野ユキ

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魔女の城4

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「君……、僕に憑りついたり、しない?」
 恐る恐る社は声を掛ける。
『やだ、おじさんに憑りついてどうするの』
「僕まだ二十六なんだけど」
 おじさん、と言う言葉に若干傷つきつつ、社は転んだ態勢を立て直す。少なくとも今のところ思っていたより平和的だ。急に繁華街で包丁を振り回すような、生きてる人間に比べればぜんぜん怖くないじゃないか。
 ……見た目以外は。
『で、おじさん、こんなところに何しに来たの?』
 声と表情だけを見れば、まだあどけないと言ってもいいほどの少女だった。
「君こそ、こんなところでなにしてるんだい?こんなところで、ひとりぼっちで」
まさか君を祓うために来ました、とはさすがに相手が幽霊とはいえ言いづらく(下手に気分を害して襲われでもしたら、と思うと言えなかったのもある)、社が質問に質問で返すと返ってきたのは意外な言葉だった。
『よくわからないの』
「わからない?」
『気づいたらこうなってたから』
「そうか、じゃあ……」
 事故に遭ったことも知らないのかもしれない。社は、うっすらと社長から伝え聞いた、この建物にまつわる話について思いを馳せる。
『なんでアタシ死んじゃったのか、おじさん知ってる?』
 なぜ彼女一人が残されてしまったのだろう。みんな高天原に返してあげたはずなのに。
「それよりなんで、君はまだここにいるんだい?」
『わからないの。ねえ、おじさん、何か知ってたら教えて?今まで来た人たちにも聞いたんだけど、みんなアタシに気づかないか、気づいても悲鳴を上げて逃げてくばっかり。あんまりじゃない?花の女子高校生捕まえて悲鳴だなんて』
「女子高校生?なのにもう結婚したの?」
 晩婚化が叫ばれる昨今、珍しい人もいるものなんだな。そう思って社が返せば、
『こんな格好してるけど、本当に覚えがないの。なんでアタシこんな格好してるんだろう』
 と当の花嫁は、やはり自分の置かれた状況がわからない様子でドレスの裾をつまみ首を傾げている。
「それはやっぱり、事故のショックが大きかったからじゃないのかな」
『事故?』
 しっかりとその言葉尻を捕らえた花嫁が、食い入るように社のことを見つめてきた。
JKの熱視線。しかも顔立ちはかわいいに分類してまず間違いないだろう。これで喜ばないはずないのだが、いかんせん首元がグロテスクすぎて喜ぶに喜べない。
『事故って?ここでなにかあったの?アタシ、それに巻き込まれて死んじゃったの?』
「う、うん、そう聞いてるけど。なんでも、この扉の先のホールで、天井が落ちてきたって。それに潰されて死んじゃったって」
『そう、なの?』
 なぜだか納得がいっていない様子で幽霊が聞き返してきた。首を傾げたついでに、ちょん切れた頭がグルンと横に倒れる。
「うわわわわ」
『あらごめんなさい』
 そう言って彼女は首の位置を直すと、頭に付けていたベールをストールのように首元に巻いてくれた。
『でも、事故ならまだ納得して成仏できる気がするんだけど。なんでアタシまだここにいるのかな』
「なんでって。そんなこと聞かれても」
 社にもわからない。事故があった、としか聞いていないのだ。
『でもいくら事故ったって、普通こんな死に方する?』
 そう言って花嫁が自分の首元を指さした。
「うう」そこから目線をそらし、社は呻く。
「でも、天井が落ちてくるほどの大事故だったんだ」
『でも、あんまりじゃない?ピンポイントで首を切られるなんて』
「それはまあ、運が悪かったとしか……」
『そんな、不運で片付けられると思う?今は死んでるから痛くないけど、きっと多分……すごい怖い目に遭ったんだと思う、アタシ』
「だから成仏できない?」
『わからない、生まれて初めて幽霊になんてなったんだもの』
 そりゃそうだろうな、出来れば一生なりたくないけれど。社は心の中で返す。
『別に、アタシだって好きでいるわけじゃないもの、こんなとこ』
「君の住んでたところじゃないのかい?」
『どうなんだろ。それもあまり覚えてないの』
 確かに、霊に記憶力もなにもないだろう。社は思った。だって脳とか機能してないんだろうし。
『でも、ずっとここにいるのも飽きてきちゃった。あれでしょ?ちゃんと成仏できないと生まれ変われないんでしょ?』
「その、君が成仏できるよう、僕がさっきお祈りしたんだけど。なにか感じなかったかい?」
『お祈り?ううん、全然』
 そう返されて社は納得がいった。こんな建物に住む一族だ。きっとなにか違う宗教の熱心な信者だったのだ。じゃなければ、こんなの作るだろうか。だからきっと、僕のお祓いが効かなかったんだ。
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