ことぶき不動産お祓い課 事故物件対策係 ~魔女の城編~

鷲野ユキ

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閉ざされた城1

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「では、まず皆様にお部屋の割り振りを行います」
 そう言って四十八願さんが、片付けられたテーブルの上にジャラジャラとルームキーを広げ並べ直した。
「お部屋は全部で十二部屋。それぞれのお部屋に誕生石が付けられております。一月の誕生石の柘榴の間は、この城の主である寿様がお持ちなのでそのまま使用していただきます」
 確かに、並べられたものの中にはガーネットの輝くカギは置かれていなかった。
「次いで、隣りの紫水晶の間は鶴野様に」
 そう言って、アメジストの輝くカギを鶴野さんに手渡した。
「鶴野君もすまんの」
「いいえ、一応こんなこともあろうかと、子どもたちの分の夕飯は用意してまいりましたから」
 一向に動じる気配もなく、鶴野さんがうなずく。さすがは鶴野さん、抜け目がない。
「続いて珊瑚の間ですが、こちらは宮守さまに。その次の金剛石の間は、宮守さまの助手の方に」
「やったあダイヤだ!」華ちゃんがはしゃいだ声でそれを受け取った。
「喜ぶのは良いけど、ぜったいそれ失くしたりしないでくれよ」
 一方社は気が気じゃない。宝石の価値は良くわからないが、とにかくこれが高いことは分かる。そんなものを渡されて喜べない。
 これ、本当にここがホテルとして操業開始したら、鍵ごと持って帰っちゃうお客さんもいるんじゃなかろうか。
「翡翠の間ですが、こちらは皆さまのお手伝いがしやすいよう、わたくしが使用させていただきます」
 確かに翡翠の間は大浴場や会議室の中間地点にある。そのほうが便利だろう。
「真珠の間は鈴鐘茉緒さま、紅玉の間を鈴鐘誠一さま、橄欖の間を鈴鐘修さま」
 続いて分家の三人が、おとなしくカギを受け取る。いつも一塊で行動しているものの、別段なかよし親子というようにも見えなかった。
「碧玉の間を犬尾さま、電気の間を佐倉さま、黄水晶の間を湯布院さま」
「電気?」
 つらつらと並べ立てられる宝石の名に、違和感を感じて思わず社は聞き返してしまった。
「電気って何ですか?宝石の名前じゃなさそうですけど」
「ああ、それね。電気石っていうのはトルマリンのことなのよ」
 とさすがは宝飾雑貨経営者。鍵を受け取りながら、物知り顔で佐倉さんが口を挟んできた。
「さすがの金雄殿も、しゃれた名前は付けられなかったようね。基本的に誕生石の和名を当ててるだけだから仕方ないんでしょうけれど」
 そう言いながら佐倉さんは渡された鍵をシャンデリアの光にかざした。
「これだけ美しいピンクトルマリンなら、わたしなら桜水晶とでも名付けるけど。実際わたしのお店ではその名前で売り出しててね、人気商品なのよ。アクセサリーはもちろん、モチーフに使ったガラスランプなんかも。でもまさに私にぴったりの部屋じゃない?ふふ、まるでこの城に私は呼ばれたみたい」
 カギを持つ彼女の左手には、ピンク色の宝石を抱える指輪が光っていた。あれも自ブランドの商品なのだろうか。確かに彼女のいでたちに、ピンク以外の色が入る余地はなさそうだった。
「では、残った瑠璃の間を馬虎で使用させていただきます」そう言って四十八願さんが青い石のついたカギを手元に戻した。この後馬虎さんに渡すのだろう。
 こうして一通り、社たちは一晩の宿を確保したのだった。
「なんだ、僕の部屋と華ちゃんの部屋は隣りじゃないんだね」
 その後ホールで振る舞われた夕食は、ほぼ手つかずの状態だった。それもそうだろう、招待客らは皆、パーティーでご馳走をたらふく食べているのだ。
そんな中、衰えることのない食欲を持つのは湯布院氏だけだった。そんな彼と一緒に食事をとることに気まずさを覚えた社は食事をタッパーに詰めてもらい、あてがわれた部屋へと引き上げることにした。
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