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お前の正体を知っている6
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「うーん、手がかりになりそうなのはこれくらいかなぁ。ああ、あとお財布が入ってないんだよね。犯人が奪って行ったのかな」
そう言って華ちゃんが鞄のなかをライトで照らす。入っているのは本が数冊と着替えの類くらいで、ひどく身軽な印象だった。
「まさか、物盗りの犯行だなんて言わないよな?」
この状況で強盗殺人だなんて、普通あり得ないだろう。
「住み込みで働いてるなら、どこかにロッカーとががあってそこに入れてるのかもだけど」
けれどロッカーなどどこにもなかったような気がする。それに馬虎さんは車の運転をしていたはずだ。運転免許証、車に置いてきたのかな。
どうやら一通り華ちゃんは瑠璃の間を調べて満足したらしい。で、犯人の証拠になりそうなのはこの写真のみだという。
「とりあえずこれ、他の人の目に入るとややこしいことになると思うから、社くん持っててよ」
そう渡されて、写真をポケットに大切にしまうものの社は腑に落ちない。
「でもこれで、どうやって犯人を特定するんだよ。誠一さんにこれを見せて自白でもさせようっていうの?」
そんなの、とんだ空想だって笑われて終わりな気がするけれど。そもそも修の父親が馬虎さんかどうかなんて、DNA鑑定などしようのない今この状況じゃ、わかりようがないのだから。
「だって仕方ないじゃない、指紋鑑定も出来ないし、凶器がどこから持ち込まれたかもわからない。鑑識が来ないとなんにもわからないんだもん。ねえ社くん、馬虎さんの霊を呼び出したり出来ないの?」
「出来るわけないだろ!僕は霊媒師じゃないんだぞ」
華ちゃんの無茶ぶりに、思わず社は大きく腕を上下に振った。そのはずみで手にした新聞紙がガサガサと音を立てた。
「それより社くん、その手に持ってるゴミはなに?」
「ゴミ?ああ、そこのトイレで拾ったんだ。なんで新聞紙があるんだろうって思って。でも今はこれは関係ないだろ」
苛立ちからか社が強く答えるものの、華ちゃんの視線はそこから揺るがない。
「それ……その黒っぽいの、血じゃない?」
「へ?」
言われて社は恐る恐る新聞紙を目の前に持ってきた。それを華ちゃんのライトが照らす。
上の方に大きく「株式新聞」と書かれている。ずいぶんとひねりのない名前だ。けれどその大文字よりも目立つのは、細かい虫みたいな文字を潰すかのように広がった黒い染み。その中央に、細い穴。
「うわわ、なんだこれ」
慌てて社はそれを空に放り投げてしまった。カサリ、と音を立て、新聞紙がベッドの脇に落ちる。
「これ……この穴、包丁で刺した穴じゃない?」
しげしげとライトで照らしながら華ちゃんが言った。「破けたような感じじゃない、スパってきれいに切れてるし」
「なんで犯人はこんなことをしたんだ?」
「決まってるじゃない、返り血を浴びないためよ。犯人は新聞紙に刃を当てて、そのまま馬虎さんの背に切りかかった。そして、振り向いた馬虎さんの顔を目がけてもう一突きした。ごらんのとおり結構な出血量よ、普通にやってたら犯人も血まみれじゃない」
「でも、新聞紙ごしにうまく刺せるかな」
「確かに。……でもあるいは、本当は犯人は殺すつもりがなかったとしたら?」
「殺すつもりがない?こんなグッサリいってるのに?」
「いや、もともとは殺すつもりだったんだとは思うわよ、けれど犬尾さんたちも失敗に終わってる。だから犯人はやけになってたのかも。一か八か殺せればラッキー。けれど失敗した場合、顔を見られるとマズイ。そのための顔隠しにもしたかった、とか」
「犬尾さんたちもって。じゃあ馬虎さん殺しの犯人と、シャンデリアを落としたり火事を起こした犯人は一緒ってこと?湯布院さんの自作自演説はどうなったんだよ」
「それは、そうだけど……」
まだ馬虎さんに強い恨みを持っている人間が犯人、という方が図式としては分かりやすい。嫁を奪った男に強い恨みを抱いて──。けれどそこに関係のない犬尾さんたちを混ぜると、よけいわけがわからなくなりそうだった。一体、誠一さんは彼らに何の恨みがあるって言うんだ。
思考が再び堂々巡りに陥って、埒が明かなくなってきた時だった。
「誰かいるのか?」
声とともに、強い光で二人の姿が照らされる。そして、入り口に転がる馬虎さんの遺体も。
「お、おまえらが馬虎をやったのか……?この、人殺しめ!」
社の懸念は、そのまま現実となった。
そう言って華ちゃんが鞄のなかをライトで照らす。入っているのは本が数冊と着替えの類くらいで、ひどく身軽な印象だった。
「まさか、物盗りの犯行だなんて言わないよな?」
この状況で強盗殺人だなんて、普通あり得ないだろう。
「住み込みで働いてるなら、どこかにロッカーとががあってそこに入れてるのかもだけど」
けれどロッカーなどどこにもなかったような気がする。それに馬虎さんは車の運転をしていたはずだ。運転免許証、車に置いてきたのかな。
どうやら一通り華ちゃんは瑠璃の間を調べて満足したらしい。で、犯人の証拠になりそうなのはこの写真のみだという。
「とりあえずこれ、他の人の目に入るとややこしいことになると思うから、社くん持っててよ」
そう渡されて、写真をポケットに大切にしまうものの社は腑に落ちない。
「でもこれで、どうやって犯人を特定するんだよ。誠一さんにこれを見せて自白でもさせようっていうの?」
そんなの、とんだ空想だって笑われて終わりな気がするけれど。そもそも修の父親が馬虎さんかどうかなんて、DNA鑑定などしようのない今この状況じゃ、わかりようがないのだから。
「だって仕方ないじゃない、指紋鑑定も出来ないし、凶器がどこから持ち込まれたかもわからない。鑑識が来ないとなんにもわからないんだもん。ねえ社くん、馬虎さんの霊を呼び出したり出来ないの?」
「出来るわけないだろ!僕は霊媒師じゃないんだぞ」
華ちゃんの無茶ぶりに、思わず社は大きく腕を上下に振った。そのはずみで手にした新聞紙がガサガサと音を立てた。
「それより社くん、その手に持ってるゴミはなに?」
「ゴミ?ああ、そこのトイレで拾ったんだ。なんで新聞紙があるんだろうって思って。でも今はこれは関係ないだろ」
苛立ちからか社が強く答えるものの、華ちゃんの視線はそこから揺るがない。
「それ……その黒っぽいの、血じゃない?」
「へ?」
言われて社は恐る恐る新聞紙を目の前に持ってきた。それを華ちゃんのライトが照らす。
上の方に大きく「株式新聞」と書かれている。ずいぶんとひねりのない名前だ。けれどその大文字よりも目立つのは、細かい虫みたいな文字を潰すかのように広がった黒い染み。その中央に、細い穴。
「うわわ、なんだこれ」
慌てて社はそれを空に放り投げてしまった。カサリ、と音を立て、新聞紙がベッドの脇に落ちる。
「これ……この穴、包丁で刺した穴じゃない?」
しげしげとライトで照らしながら華ちゃんが言った。「破けたような感じじゃない、スパってきれいに切れてるし」
「なんで犯人はこんなことをしたんだ?」
「決まってるじゃない、返り血を浴びないためよ。犯人は新聞紙に刃を当てて、そのまま馬虎さんの背に切りかかった。そして、振り向いた馬虎さんの顔を目がけてもう一突きした。ごらんのとおり結構な出血量よ、普通にやってたら犯人も血まみれじゃない」
「でも、新聞紙ごしにうまく刺せるかな」
「確かに。……でもあるいは、本当は犯人は殺すつもりがなかったとしたら?」
「殺すつもりがない?こんなグッサリいってるのに?」
「いや、もともとは殺すつもりだったんだとは思うわよ、けれど犬尾さんたちも失敗に終わってる。だから犯人はやけになってたのかも。一か八か殺せればラッキー。けれど失敗した場合、顔を見られるとマズイ。そのための顔隠しにもしたかった、とか」
「犬尾さんたちもって。じゃあ馬虎さん殺しの犯人と、シャンデリアを落としたり火事を起こした犯人は一緒ってこと?湯布院さんの自作自演説はどうなったんだよ」
「それは、そうだけど……」
まだ馬虎さんに強い恨みを持っている人間が犯人、という方が図式としては分かりやすい。嫁を奪った男に強い恨みを抱いて──。けれどそこに関係のない犬尾さんたちを混ぜると、よけいわけがわからなくなりそうだった。一体、誠一さんは彼らに何の恨みがあるって言うんだ。
思考が再び堂々巡りに陥って、埒が明かなくなってきた時だった。
「誰かいるのか?」
声とともに、強い光で二人の姿が照らされる。そして、入り口に転がる馬虎さんの遺体も。
「お、おまえらが馬虎をやったのか……?この、人殺しめ!」
社の懸念は、そのまま現実となった。
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