ことぶき不動産お祓い課 事故物件対策係 ~魔女の城編~

鷲野ユキ

文字の大きさ
70 / 77

人食い3

しおりを挟む
「でもいつ殺したんだよ。僕たちも考えたけれど、湯布院さんを殺せるタイミングは湯布院さんが自室にこもるって言って会議室を飛び出たタイミングぐらいじゃないか。それを追いかけて……殺したのはお前なんじゃないのか?」
「は、俺が?しかも四十八願さんと協力して?ふん、バカバカしい。湯布院を殺せるタイミングは他にもあっただろう、例えば誠一さんが殺される前。あの時まで俺たちは各自部屋にこもってたからな」
「佐倉さんが湯布院さんの部屋のバリケードを崩して、部屋に入ったって言うの?」
「その通り」
「でも、誠一さんが亡くなる前に茉緒さんは誠一さんを探して廊下をウロウロしてたんじゃないかしら。呑気にバリケードなんて崩してたら、茉緒さんに見つかっちゃうんじゃないの?」
「バリケードを崩すのに、湯布院が協力したらどうだ?」
「協力?」
 黄水晶の間の扉は蝶番が外されていた。扉を外し、部屋の内側からバリケードの椅子を降ろすのを手伝えば――。
「しかも黄水晶の間の隣には馬虎さんの遺体がある。血まみれのだ。そんなところに好き好んでいくやつもいないだろ」
 僕だったら絶対近寄らない。
「けどなんで、湯布院さんは佐倉さんを招き入れたの?」しかもわざわざ協力してまでだ、社には理解できなかった。
「理由は分からない、けれどなにか湯布院にとって有利な取引でも持ちかけたのかもしれない。なにせ万年金欠の湯布院だ、金をちらつかすだけでも飛びついたのかもしれないぜ」
「そうやって部屋に入って湯布院を殺して、血にまみれた手を洗って部屋に戻って遺書を書いて、さらにバリケードを組み直したって言うのか?いくらスムーズに部屋に入れたとしても、後処理でそんなに時間がかかってたら誰かに見つかるだろ。しかもその後誠一さんを殺すだなんて無理があるんじゃないのか?」
「それは……」
 とそこで、絶好調だった修は口を閉じてしまった。
「ほら、無理だろ。それとも後から細工したっていうのか?そうなると、皆が寝ている間に部屋を出た、お前が何か細工でもしたって考えるほうが自然じゃないか」
「は、なんで俺が?」
「みんなが会議室で寝てる間に部屋を出たのは、お前と茉緒さんと佐倉さん、四十八願さんだけだ。茉緒さんと佐倉さんは一緒に部屋を出た。とてもあんな細工してる場合じゃないだろ。ってなると、一番怪しいのはお前じゃないか」
 しかも、社が血の跡を見たのは男子トイレの洗面台だ。それは犯人が男だからじゃないのか。
「違う、俺じゃない……」
「それに佐倉さんは今、一酸化炭素中毒で意識が戻らないんだ。万一佐倉さんが犯人だとしても、自分まで危険な目に遭わせるはずないだろ」
「……本当にそうなんだろうか」
「え?」
「佐倉は、なぜ自分の身まで危険な目に遭わせた?」
「だから、彼女は巻き添えを食っただけだろ」
「もし修さんが考えるように佐倉さんが犯人だったと仮定したら、すべての目的を果たせたから、もう死んでも構わないって思った……とか?」おずおずと華ちゃんが口を開いた。
「なら、湯布院にわざわざ罪を被せる必要がない」
「それは、確かに」
「それってもしかして、まだ佐倉さんにはまだ、殺したい人がいるってこと?」
「ああ。その為に、あえて自分を動きやすい位置に配置したのだとしたら?」
「でも彼女は今、意識不明の重体なんだぞ」
「それがフェイクだとしたら?」
「フェイクだって?そもそもなんで佐倉さんがみんなを殺さなきゃならないんだよ。動機が分からないじゃないか。自分が疑われてるからって、矛先を逸らせようとするのはやめろよ」
「動機なんてどうでもいい、でも自分を危険な目に遭わせてまで、やり遂げたい何かが彼女には何かがあったはずだ」
「やり遂げたいって。でも佐倉さんには四十八願さんが付いていてるんだ、目が覚めたらさすがに四十八願さんが気づくだろ?」
「四十八願さんが?」
 それを聞いて、にわかに修の顔が厳しくなった。
「佐倉が犯人なら、四十八願さんももしかしたら」
と身をひるがえし、背にした扉を開け走っていくではないか。
「お、おい!ちょっと待てよ!」
 手を伸ばすも捕まえることも出来ず、無情にもばたりと扉が眼前で閉まる。
「やってることが湯布院さんと一緒じゃない!やっぱり怪しいわ、佐倉さんが犯人だって言うのも本当かどうかわからないし、なのに逃げ出すなんて!」
 思いのほか敏捷な動きで逃げられてしまい悔しかったのか、華ちゃんが鼻息荒く扉を開き追いかけようとするものの、
「あれ?あ、開かない」と扉の前で立ちすくんでしまった。
「あいつ、閂かけやがったな!」
 会議室やレストラン、大浴場の扉の仕組みは基本ホールと一緒だ。外からも内からもかけられる閂がついていて、普段は外されたままになっているのだが。
「ふむ、外側の閂はかけられないよう外しておいた方がよさそうじゃの」
「社長、呑気なこと言ってないで開けるの手伝ってくださいよ」
 華ちゃんと社、さらには犬尾さんにも手伝ってもらって体当たりをしてみるものの、なかなか頑丈なようで開かない。
「皆さん、少し離れていただけますか?」
 そこへ駆けられる鶴の一声。
「ちょっと蹴破ってみますね」
「ちょっとって、そんな簡単に」
 そう犬尾さんが呆れた声を出し扉から離れる。そのすぐ脇をすごい速度で鶴野さんの放った蹴りがかすめた。
「ひぇっ」
 そして、バキン!という木の折れる音。どうやら扉が開いたようだった。
「外開きで助かりましたわ」
 何食わぬ顔で、蹴りを放った時に脱げたヒールを履き直しながら鶴野さんが言った。
 恐るべし、鶴野さん。
「ほれ、驚いてる場合じゃないぞ、早く修君を追いかけるんじゃ」
 あっけにとられた一同に、社長から拍車の声がかかる。そうだった、今僕たちは殺人犯を殺した殺人犯を追いかけているんだった。いや、殺人犯を疑う殺人犯?ああ、ややこしい。
「じゃあ、犬尾さんはあっちに」
 二手に分かれて探そうとした矢先、待ったの声がかかる。
「あまり離れん方がいいんとちがう?向こうは何するかわからんし」
「それもそうじゃの、じゃあ、とりあえずホールの方へまわって行こうかの」
 社長の提案で全員でホール目指しぞろぞろと進んでいくと、後ろから声が聞こえた。
「佐倉さまー?佐倉さま?」
「この声、四十八願さん?」
「おーい、四十八願さーん、大丈夫だったんですね!」
華ちゃんが大きな声で返すと、パタパタと足音とともに慌てた様子の四十八願さんが走ってきた。
「その、佐倉さまがいらっしゃらないのです」
「佐倉君が?意識が戻ったのかの?」
「わかりません、寝汗がひどいようでしたので水分をと思い……橄欖の間の近くのレストランには非常用の水が置いてあるので。それを取りに行ったら扉が開かなくなってしまって。ようやく出てきたのですが」
「戻ったら佐倉さんの姿が消えていた?」
「ええ」
「もしかして佐倉さんを連れ去る為に、修が四十八願さんを閉じ込めた?」
「それはあるかも。でも二人はどこに行ったの?」
「いずれにせよ、そう遠くにはいってないんじゃないかの?」
「レストランには四十八願さんがいた。なら、大浴場か?」
 そう思い大浴場を覗くも、そこには依然横たえられたままの誠一さんの遺体しかなかった。
「地下は?」
「リネン室とボイラー室への降り口も、ホールと同じく狭いのです。もし修さまが佐倉さまを連れているのだとしたら、二人で降りるのは難しいかと」
四十八願さんの言うとおり、地下には誰もいなさそうだった。
「じゃあ、近くの部屋は?」
「でもあやつは橄欖の間の鍵しか持っとらんはずじゃ、じゃと他の客室には入れん。となると……」
「ホールだわ。そこしかないじゃない、急ぎましょ」
 急かす華ちゃんに続いていくと、ホールの扉が開け放たれていた。やはりここに修が、佐倉さんを人質にとっているのだろうか。そう思いつつ扉を開けば、予想とは異なる風景が広がっていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...