65 / 80
学び舎の祟り
学び舎の祟りー25
しおりを挟む
一通り話し終え、疲れたように目を瞑る探偵に僕は声を掛けた。
あと一つ、解決しなければならないことがある。
「佐倉君たちが、僕たちをこんなところに閉じ込めたの?何のために?」
「それは」
そこで、饒舌だった探偵の口が動きを止めた。
「ここの扉だって、誰かの仕業だとしたら、どうやって扉を開けられないようにしたの?」
「それは、恐らく扉が開かないように、何か障害物を置いて」
「障害物ったって、扉が閉まってすぐに開けようとしたのに開かなかった。そんなにすぐ、バリケードになるようなものを用意できる?」
「あらかじめ近くの教室にでも用意してたんじゃないのか?」
「そりゃあ、わたし一人の力ならわからないけど、石みたいっていうか石そのものの丸藤さんが体重をかけても開かないなんて、一体どんなものを置いたって言うの」
「……鉛の塊とか、彫像とか」
「そんな重いもの、あの短時間で音もたてずに動かせるわけないじゃない」
僕の声に、探偵が押し黙る。
「人間にこんな芸当出来るわけないよ、あれだって」
前に感じた違和感。
丸藤さんは、音楽室の騒ぎは牧野さんと佐倉君の仕業だって軽く片付けてしまったけれど。
「気のせいなんだろうって、僕だって思う。でも、あの時変な感じを受けたのは本当だし、さっきだって」
まるで風のように急に現れて、僕の背中を押した何か。
人間の仕業とも、思えなかった。
「仮に、僕たちをここに閉じ込めたのが佐倉君たちの誰かだとしても、なんで閉じ込めたりなんてしたの?口封じをしたいなら、それこそ殺しでもしなければ」
そこまで言って、僕はぞっとした。
いや、もし僕一人で閉じ込められていたら?
きっと一人でパニックに陥って、それで。
「本当は、殺すつもりだった?」
「……彼らの仕業なら、そこまではしないだろうさ」
ふう、と息を吐いて、探偵が棚に体重をかける。
彼の重さに棚が悲鳴を上げた。
「事件のことを嗅ぎまわるナオたちのことはさぞ気にはなっただろう。けれど、そこまで物騒なことは考えないはずだ。なにせ、小俣をコンクリートに落とすことをためらったような人間だ。……犯人が、人間なら」
そう口を開いた時だった。
ドン、と大きな音を立てて、棚からコピー用紙の箱が落ちてきた。
それは僕の鼻先をかすめ、探偵の脇へと落下する。落ちた衝撃でふたが空いたのか、中の書類が宙に舞う。
「うわあっ」
驚いて僕は立ち上がる。すると再びドン、と響く音。今度は、重量のある木箱が丸藤さんを直撃した。
「丸藤さん!」
黒い影に当たった衝撃で、木箱がばらける。いつ使ったのかもわからないような、ガラクタみたいなものがあふれ出る。
あれが人間の頭に当たったら大事だ。きっと血が出たり、脳震盪を起こしたり、最悪の場合死んでしまう可能性だってある。
のだけれど。
「こんなくだらないものを、なんで後生大事に取ってあるんだ?」
そうぼやきながら、彼は床に彼は散乱したカエルのおもちゃや独楽なんかをつまみ上げた。
「大丈夫、なの?」
「まあ、石だからな」
しかめっ面をして、探偵が身体についた埃を払う。
「人間の皮膚みたいに柔い造りはしてないんだ」
「それなら、いいけど」
いや、良くはない。僕は思い直す。
今はたまたま当たらなかったけれど、あんなものが自分に当たったら。
というか、なんで急に?
初めのは、丸藤さんが棚に寄り掛かったせいだって思ったけれど。
木箱の方は、その棚とは違うところから落ちてきた気がする。
「ねえ、これってもしかして」
ポルターガイストってやつ?そう聞くわたしの声は細くなる。その言葉にまるで答えるかのように、ガタン、と向かいの棚から物が落ちた。
理科室の棚から物が飛び出たような、そんなトリックは通用しない。
ここにいるのは僕たちだけだ。
「やっぱり、人間の仕業じゃないんじゃ」
そうわめく僕の手を引いて、丸藤さんは僕をしゃがませる。
「とりあえず、静かにしろ」
そうとだけ言うと、彼は膝立ちで、わたしに覆いかぶさるように壁に手を突いた。
「俺に当たる分には問題ないからな。どんなトリックを使ってるのか知らないが、騒ぎが収まるまでこうしてるぞ」
そうわたしを守る探偵の顔は、影になって見えない。時おりドゴン、とかガタン、とか大きな音がして、時折丸藤さんが呻く。
いくら本体が石だからって、やっぱり痛いんじゃ。
心配になって、丸藤さんの頬に手を伸ばした時だった。
「ランちゃん、ナオー、もうどこにいるのよ」
あの妙に甘ったるい声。
「ミサキだ!」
僕の上げた声に気づいたのだろう、足音が確実にこっちに向かってくる。
ヒステリーを起こしたみたいにやみくもに物を投げていた何かの手が止まり、そして、
「ちょっと、なにこんなとこで」
ぎいいい、とあっけなく扉が開いた。
「仕事さぼって……ほんとに、何してたの?」
扉の先で、ミサキが呆然と立ち尽くす。
それもそうだろう、だって部屋の中はまるで台風が大運動会を開いたくらいに散らかっていて。
「いや違うんだこれは」
探偵が慌てて立ち上がり、早口でまくし立てる。
「何かに閉じ込められたんだ。どういう方法かわからないが、勝手に物が落ちてきて」
「あら、扉の前になんて何もなかったけど」
なぜかミサキがニヤニヤ笑ってる。
「ランちゃんも隅に置けないわねえ」
そう言って、細い目を猫みたいにさらに細めた。
そのミサキの後ろで、ツバキが口元に手を当てて呟いた。
「ちょっと、お邪魔だったかしら?」
邪魔どころか。
「助けてくれてありがとう」
わたしはミサキに飛びついた。
「あら、やっぱり怖かったのね」
よしよしと、ミサキが僕の頭を撫でる。
「急に、ポルターガイストみたいなのに襲われて」
「ああ、それでこんなに」
今頃気づいたと言うように、ツバキが目を丸くして室内を見回した。
「なんだ、急にランちゃんに襲われて怖い思いしたかと思ったじゃない」
「そんなことするか!」
探偵が珍しく大声で怒鳴った。
「ちょっと、静かにしなさいよ」
ツバキにたしなめられ、バツが悪そうに彼はそっぽを向くと、
「そうだな、見回りがそろそろ来るはずだ」
といつもの調子を装った。
その言葉に僕はスマホを覗き見る。二時五十分。
いつもの三角が戻ってきて、4Gとアンテナはしっかり立っている。
「……なんで?」
「とにかく、今日はここで引き上げる」
「でも、結局犯人は?」
探偵の推理だと、人間。
佐倉君ら、以前小俣にいじめられていた人間の報復。
けれど、今さっき起こったことは?
いったいどんなトリックを使えば、人間がこんなことを出来るんだ。
「確かな証言を待つしかない」
推理の証拠がない。すべてにつじつまが合う説明が付けられない。
そう、探偵は匙を投げるかのように肩をすくめた。
「だから、石は返す」
そう言って、彼は胸元から赤く光る石を取り出した。
心臓みたいなガーネット。それをツバキの方に放り投げる。
それは空から降る彗星みたいに光の尾を引いて、すうっとツバキの中に消えて行ってしまった。
「まあ、仕方ないわね」
ミサキもそううなずいて、僕らはぞろぞろと校舎から外へと歩き出す。その僕の隣で。
ツバキが何か呟いた気がした。
「ん?」
僕が顔を向けると、彼女は優しくほほ笑んだ。
「なんでもないよ」
そう手を振る彼女の横顔は、月の光を受けて、なんだか冷たく光っている。
「ただ働きさせて、悪かったね」
彼女の言葉に、探偵がため息をついた。
「小俣だ。……彼らの良心が本物なら、きっと彼女は意識を取り戻す」
それ以外に、この事件を解決する手段がない。
そう言い残して、黒い影は闇に消えて行ってしまった。
あと一つ、解決しなければならないことがある。
「佐倉君たちが、僕たちをこんなところに閉じ込めたの?何のために?」
「それは」
そこで、饒舌だった探偵の口が動きを止めた。
「ここの扉だって、誰かの仕業だとしたら、どうやって扉を開けられないようにしたの?」
「それは、恐らく扉が開かないように、何か障害物を置いて」
「障害物ったって、扉が閉まってすぐに開けようとしたのに開かなかった。そんなにすぐ、バリケードになるようなものを用意できる?」
「あらかじめ近くの教室にでも用意してたんじゃないのか?」
「そりゃあ、わたし一人の力ならわからないけど、石みたいっていうか石そのものの丸藤さんが体重をかけても開かないなんて、一体どんなものを置いたって言うの」
「……鉛の塊とか、彫像とか」
「そんな重いもの、あの短時間で音もたてずに動かせるわけないじゃない」
僕の声に、探偵が押し黙る。
「人間にこんな芸当出来るわけないよ、あれだって」
前に感じた違和感。
丸藤さんは、音楽室の騒ぎは牧野さんと佐倉君の仕業だって軽く片付けてしまったけれど。
「気のせいなんだろうって、僕だって思う。でも、あの時変な感じを受けたのは本当だし、さっきだって」
まるで風のように急に現れて、僕の背中を押した何か。
人間の仕業とも、思えなかった。
「仮に、僕たちをここに閉じ込めたのが佐倉君たちの誰かだとしても、なんで閉じ込めたりなんてしたの?口封じをしたいなら、それこそ殺しでもしなければ」
そこまで言って、僕はぞっとした。
いや、もし僕一人で閉じ込められていたら?
きっと一人でパニックに陥って、それで。
「本当は、殺すつもりだった?」
「……彼らの仕業なら、そこまではしないだろうさ」
ふう、と息を吐いて、探偵が棚に体重をかける。
彼の重さに棚が悲鳴を上げた。
「事件のことを嗅ぎまわるナオたちのことはさぞ気にはなっただろう。けれど、そこまで物騒なことは考えないはずだ。なにせ、小俣をコンクリートに落とすことをためらったような人間だ。……犯人が、人間なら」
そう口を開いた時だった。
ドン、と大きな音を立てて、棚からコピー用紙の箱が落ちてきた。
それは僕の鼻先をかすめ、探偵の脇へと落下する。落ちた衝撃でふたが空いたのか、中の書類が宙に舞う。
「うわあっ」
驚いて僕は立ち上がる。すると再びドン、と響く音。今度は、重量のある木箱が丸藤さんを直撃した。
「丸藤さん!」
黒い影に当たった衝撃で、木箱がばらける。いつ使ったのかもわからないような、ガラクタみたいなものがあふれ出る。
あれが人間の頭に当たったら大事だ。きっと血が出たり、脳震盪を起こしたり、最悪の場合死んでしまう可能性だってある。
のだけれど。
「こんなくだらないものを、なんで後生大事に取ってあるんだ?」
そうぼやきながら、彼は床に彼は散乱したカエルのおもちゃや独楽なんかをつまみ上げた。
「大丈夫、なの?」
「まあ、石だからな」
しかめっ面をして、探偵が身体についた埃を払う。
「人間の皮膚みたいに柔い造りはしてないんだ」
「それなら、いいけど」
いや、良くはない。僕は思い直す。
今はたまたま当たらなかったけれど、あんなものが自分に当たったら。
というか、なんで急に?
初めのは、丸藤さんが棚に寄り掛かったせいだって思ったけれど。
木箱の方は、その棚とは違うところから落ちてきた気がする。
「ねえ、これってもしかして」
ポルターガイストってやつ?そう聞くわたしの声は細くなる。その言葉にまるで答えるかのように、ガタン、と向かいの棚から物が落ちた。
理科室の棚から物が飛び出たような、そんなトリックは通用しない。
ここにいるのは僕たちだけだ。
「やっぱり、人間の仕業じゃないんじゃ」
そうわめく僕の手を引いて、丸藤さんは僕をしゃがませる。
「とりあえず、静かにしろ」
そうとだけ言うと、彼は膝立ちで、わたしに覆いかぶさるように壁に手を突いた。
「俺に当たる分には問題ないからな。どんなトリックを使ってるのか知らないが、騒ぎが収まるまでこうしてるぞ」
そうわたしを守る探偵の顔は、影になって見えない。時おりドゴン、とかガタン、とか大きな音がして、時折丸藤さんが呻く。
いくら本体が石だからって、やっぱり痛いんじゃ。
心配になって、丸藤さんの頬に手を伸ばした時だった。
「ランちゃん、ナオー、もうどこにいるのよ」
あの妙に甘ったるい声。
「ミサキだ!」
僕の上げた声に気づいたのだろう、足音が確実にこっちに向かってくる。
ヒステリーを起こしたみたいにやみくもに物を投げていた何かの手が止まり、そして、
「ちょっと、なにこんなとこで」
ぎいいい、とあっけなく扉が開いた。
「仕事さぼって……ほんとに、何してたの?」
扉の先で、ミサキが呆然と立ち尽くす。
それもそうだろう、だって部屋の中はまるで台風が大運動会を開いたくらいに散らかっていて。
「いや違うんだこれは」
探偵が慌てて立ち上がり、早口でまくし立てる。
「何かに閉じ込められたんだ。どういう方法かわからないが、勝手に物が落ちてきて」
「あら、扉の前になんて何もなかったけど」
なぜかミサキがニヤニヤ笑ってる。
「ランちゃんも隅に置けないわねえ」
そう言って、細い目を猫みたいにさらに細めた。
そのミサキの後ろで、ツバキが口元に手を当てて呟いた。
「ちょっと、お邪魔だったかしら?」
邪魔どころか。
「助けてくれてありがとう」
わたしはミサキに飛びついた。
「あら、やっぱり怖かったのね」
よしよしと、ミサキが僕の頭を撫でる。
「急に、ポルターガイストみたいなのに襲われて」
「ああ、それでこんなに」
今頃気づいたと言うように、ツバキが目を丸くして室内を見回した。
「なんだ、急にランちゃんに襲われて怖い思いしたかと思ったじゃない」
「そんなことするか!」
探偵が珍しく大声で怒鳴った。
「ちょっと、静かにしなさいよ」
ツバキにたしなめられ、バツが悪そうに彼はそっぽを向くと、
「そうだな、見回りがそろそろ来るはずだ」
といつもの調子を装った。
その言葉に僕はスマホを覗き見る。二時五十分。
いつもの三角が戻ってきて、4Gとアンテナはしっかり立っている。
「……なんで?」
「とにかく、今日はここで引き上げる」
「でも、結局犯人は?」
探偵の推理だと、人間。
佐倉君ら、以前小俣にいじめられていた人間の報復。
けれど、今さっき起こったことは?
いったいどんなトリックを使えば、人間がこんなことを出来るんだ。
「確かな証言を待つしかない」
推理の証拠がない。すべてにつじつまが合う説明が付けられない。
そう、探偵は匙を投げるかのように肩をすくめた。
「だから、石は返す」
そう言って、彼は胸元から赤く光る石を取り出した。
心臓みたいなガーネット。それをツバキの方に放り投げる。
それは空から降る彗星みたいに光の尾を引いて、すうっとツバキの中に消えて行ってしまった。
「まあ、仕方ないわね」
ミサキもそううなずいて、僕らはぞろぞろと校舎から外へと歩き出す。その僕の隣で。
ツバキが何か呟いた気がした。
「ん?」
僕が顔を向けると、彼女は優しくほほ笑んだ。
「なんでもないよ」
そう手を振る彼女の横顔は、月の光を受けて、なんだか冷たく光っている。
「ただ働きさせて、悪かったね」
彼女の言葉に、探偵がため息をついた。
「小俣だ。……彼らの良心が本物なら、きっと彼女は意識を取り戻す」
それ以外に、この事件を解決する手段がない。
そう言い残して、黒い影は闇に消えて行ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる