1964年の魔法使い

鷲野ユキ

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1964.10.8 遠野邸 5

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「まさか、大月さん?」
思い当たる人物は、一人しかいなかった。
「さっきの怪しい男、お嬢様のお知り合いなんですか?」
「知り合いというか……菅野さんのご友人の方よ。でもおかしいわ。なぜあの人がこんなところにいるの?」
「例えば菅野さんを心配して……だとか」
「ならなんであんなサングラスなんかして、見つかったら逃げるのよ」
「それもそうですよね」
 いかにも怪しい、とメグもうなずいた。
「もしかして、菅野さんは大月さんに利用されているんじゃないかしら」
「あの男にですか?」
「ええ。だって菅野さんがお父様に寄付を募った時、友達が困ってるって言ってたじゃない。そのお金に困っている友達が、大月さんだとしたら」
「もしかして、菅野さんもグル」と口を開いたところを真理亜に睨まれ、「……菅野さんは、大月という人に利用されてるのかもしれませんね」とメグは言い直した。
「そうかもしれない。やっぱり、後を追わないと」
「後を追うったって、もうどこにも姿は見えませんよ。なにかわかりませんかね、その大月って人にどこに行けば会えるかを」
「私、タウンーページを借りてくるわ」
 言うや否や、黒電話の置かれた電話台へと駆け下りて、目を丸くしている昨日の女中から分厚い冊子を借りてくると再び部屋へと戻った。
「大月……下のお名前はなんて言ったかしら……そう、確かエイジって言っていたわ。けれどどのエイジかしら」
 パラパラとページをめくるも、その名を見つけることはできなかった。
「電話を持っていないのかしら」
「載せたくない人は載せなくてもいいみたいですからね」
 じゃあ、あの時一緒にいた先生はどうかしら。真理亜はひらめいた。お名前は確か小百合さん。何小百合さんだっけ。思い出すのよ真理亜!ええと、そうよ、そう。三井。
 大きな財閥と同じ名前だったから耳に残った。父は成り上がりの資産家だけれど、それなりに財閥とのつながりもある。いかに解体されたとはいえ、三井財閥の名は至る所に響いている。真理亜だってこれで社長令嬢だ。そういった社交の場に連れて行かれることもある。そこで三井家の人に会ったこともある。
 あの人も、とても品のある方だったわ。もしかしたら三井家の方かもしれないじゃない。お願い、載ってて!
 祈るような気持ちでページを開けば、そこには三井小百合の名が載っていた。電話番号と、家の住所。東京都文京区小石川。確かあのあたりには、三井家の大きなお屋敷があったわ。
「この人!この人なら、大月さんと菅野さんのことを知っているかもしれないわ」
「この方も菅野さんのお知り合いの方なんですか」
「そうみたい。学校の先生だっておっしゃってたけれど、あまりそうは見えなったわ」
 あの人なら何かを知っているかもしれない。もしかしたらあの人も大月さんと共謀しているのかもしれないけれど、真理亜にはそうは見えなかった。優しくて、穏やかそうな人だった。彼女がはたして大月と菅野の居場所を知っているかは定かではないが、とにかく会ってみないとわからない。真理亜は決意した。
「私、この方に会ってくるわ」
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