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土産

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「土産だ」

 ベッドに投げ捨てる。女は体を起こしてそれに手を伸ばす。

「…毛皮ですか」
「白熊だ。重いが寝てるだけなら関係ないだろ」
「ありがとうございます」

 テーブルに置かれたグラスが目に留まる。中の色が青色だった。

「なんだあれ」
「解毒薬です。医師によると、まだ完全に解毒が完了していないそうです。一度に飲むと気持ち悪くなるので、何回かに分けて飲んでいます」
「毒みたいな色だな」
「表裏一体ですから」

 素っ気なく女は言う。指摘されてこの機会にと思ったのか、女はベッドから降りてグラスの青い飲み物を飲み干そうとする。

「待て」

 グラスを奪い一口飲む。苦味が口に広がる。気持ち悪くなるという理由が分かった。
 女にグラスを返す。少し減ったが、明らかに目減りしているわけでは無い。許容範囲だろう。
 女の手はグラスを持っても重そうに見える。背を向けて飲み干して、テーブルに置く。
 寝間着越しに、女の体の線の細さが透けて見えた。窓からの逆光でシルエットとして映る。本人は気づいていない。エイドスは毛皮を取って女の肩にかけてやった。

「座れ。話がある」

 女は手近にあった小椅子に座った。テーブルを挟んでエイドスも座る。
 
「なにがささやかに加担しただ。実質お前が戦争を動かしていたんだな」
「私にそんな権限があれば、戦争は終わっておりました」
「嘘つけ。誰に話をしても、アン前王妃様、アン前王妃様と言い出す。軍事でも財政でも、お前が口出ししてきた。瓦解したのは、お前がいなくなったからだ」

 さも初めて気づいたかのような顔をされる。全く自覚していなかったらしい。

「この三年、俺が戦闘を統帥してきた。随分手こずってきたが、ここ二ヶ月ほどで何故かクインツ軍の士気が目に見えて低下していた。お前が廃妃となった時期と重なる。期せずして、お前と戦っていたのだな」
「大げさです」
「感心している。見た目で判断出来ないな」

 女は目を細める。今日は曇りだが、時々日が差しては女の髪を煌めかせた。

「美しいな」

 言うと、女は目を伏せた。僅かな動きだけで、女は実に気品を感じさせる。本国にこんな女は滅多にいない。

「お前を王宮へ移す。いちいち長官を呼んでいるより、お前に聞くほうが早く済む」
「知っている範囲で、全てお答えします」
「お前を妻だとも大々的に示す」
「…殿下」
「名前で呼べ」

 だがアンは呼ばなかった。

「陛下の処遇は決まりましたか?」
「いや、まだだ」
「お願いがございます」

 アンは立ち上がる。拍子にグラスに当たり、キン、という音を立てる。グラスの底には僅かな青の解毒薬が残っていた。


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