【完】【R18】嫁いだ姉が死んだので、妹の私が嫁ぎ直しましたが、夫に溺愛され過ぎて困っています。

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 レイフはマリアをわざわざ執務室に呼んだ。人払いしてあって二人しかいない。マリアが机に近づくと、座ったままのレイフがあるものを置いてみせた。
 マリアは息を呑む。それから観念した。
 マリアの反応を見て、レイフは眩しそうに目を細めた。
「──どうやって、居場所を知った?」
「…貴方様宛てに、手紙が届いていました」
 以前、留守中のレイフ宛てに届いていた封筒。
 そこに書かれていた文字は、姉、カリナのものだった。
 手紙の内容は、レイフによる感謝の言葉と、毎日愛する人と幸せに過ごしていることと、子を身籠ったという知らせだった。
「姉は、生きていたのですね」
 レイフは頷いて肯定した。細めていた目は、マリアを見つめ続けている。
「私を問い詰めず、姉君に手紙を出したのは、私に対する不信からか」
「理由があるものと思っております。だから姉さまに直接聞こうと思いました」
 机に置かれた手紙。それは、マリアが姉に宛てた筈の手紙だった。
「モニカに渡していたら、発覚しなかっただろう」レイフは手紙を手にとって、また置いた。「バーサは、もともと私の乳母だった。私を裏切るような真似は出来ない」
「旦那さまは、姉を助けたのですか?」
「彼女には元々心を通わせた者がいた。だから表向きは死んだことにして、彼女を逃した」
「…解せません。私たちは相手を選ぶ権利がありません。姉に思慕する殿方がいたとしても、旦那さまには関係の無いことでは?」
「私と一緒になっても、不幸になることは分かっていた」
 まただ。まるで未来を見てきたかのような口ぶり。到底それで納得出来るわけが無かった。
「旦那さまは、私となら幸せになれると分かっていたのですね」
 投げやりに言った事だが、レイフはいや、と否定する。
「マリアとは知らない。だから分からない」
 真剣にそんなことを言う。煙にまかれているようで、マリアは腹の底から怒りが湧いた。
「何が分かって、何が分からないと仰るんですか。姉に随分と肩入れなさって。以前から姉とお知り合いだったようですが、貴方様こそ、姉に思慕しているのではないですか」 
「なんでそうなる」
「姉を大切に思うからこそ、そのお方と一緒にさせたのでしょう?だから何でもない私を妻に据えた」
「怒ってるのか」
「…ええ!怒っております!私は姉の身代わりなんですね。背格好もよく似ているから、私を妻にしたんですね」
「マリア」
「失礼します」
 一礼して大股で部屋を出る。小走りで回廊を通って、使用人が通る狭い通路に入って一階に降りた。
 腹のうちでは怒りが渦巻いていた。怒ってるのかだなんて。なんて無神経な。こちらは死んだものと思っていた姉が生きていて、しかも他の人と結婚していただなんて。結局は姉のわがままだ。マリアがどんな思いでここに嫁いできたか。レイフも知っているだろうに。怒りと共に悲しみもやって来る。虚しくなってくる。

 どうにかしたくて、ローレンスに会いに行く。部屋に入るとバーサと乳母が世話をしていた。
 マリアの浮かない顔を見て、バーサは察したらしい。乳母に何か用を言いつけて下がらせる。
 バーサはマリアに頭を下げた。
「申し訳ありません。奥さまを裏切りました」
 マリアはバーサの肩に手を添えた。
「いいの。気にしてません。ローレンス、元気そうね」
「…はい。お抱きになりますか?」
 バーサからローレンスを受け取る。ローレンスは直ぐにマリアの服を握りしめて、鎖骨辺りを噛み始めた。噛むのを止めさせようとするバーサを止める。いつも噛んでくるからもう慣れっこだった。気の済むようにさせた。
「バーサ、旦那さまの小さい頃は、どんな人だったの?」
「どんな…?そうですね…とても聡明でした。子供らしくなく、達観してらして、寂しそうに見えました。幼くしてお母さまを亡くされましたから、笑った顔を見たことがありませんでした」
 でも、とバーサは続ける。
「奥さまが来られてからは、笑顔を見せるようになられて。奥さまとどんな話をしたとか、何の食べ物をよく食べたとか、お話になられて。話したいんでしょうね。今までそのようなことを話す方ではなかったのに」
 くすくすバーサは笑い出す。そのさまを思い出しているらしい。マリアはまさか自分のことでそんな話をしていたとは知らず、先まで怒っていたのもあり、どういう反応をしていいのか分からなかった。
 ローレンスが噛むのに飽きて、あーと言う。マリアは背中を撫でてごまかした。

 レイフがやって来る。窓際から外の景色を見せていたマリアは、背を向けた。
「マリア」
 すぐ後ろで声をかけられる。マリアは無視して、ローレンスに百合が咲いているなどと他愛のない話をする。
「姉君とは、よく似ているとは思った」
「聞きたくありません」
「決して代わりではない」
「跡継ぎさえ産んでくれれば、誰でも良かったのでしょう?」
「早く産ませてしまえば、貴女を解放出来ると思った。良い関係ではないと分かっていたから」
「…ああそうですか」
 マリアは冷たく言った。レイフは弁解を続ける。
「昔の話だ。今は違う」
「口では何とでも言えます」
「言葉を重ねるのは苦手だ」
 暗に、態度で示してきたとでも言っているのだろう。マリアはレイフを見つめた。目が合うと、顔をほころばせるものだから、マリアは睨んで見せた。
「私は怒っております」
「見ればわかる」
「じゃあなんで笑ってるのですか」
 指摘でやっと笑っていると気づいたらしい。確かめるように頬を触りだす。
「……本当だ」
 と呟き出すものだから、マリアは呆れた。ローレンスを抱え直すと、彼は父親に気づいて手を伸ばし出した。
「これは、ケンカだろう?」レイフは小さな手を握る。「初めてマリアとしたから嬉しくて…つい、笑ってしまったのだと思う」
 冷静に自己分析などし始めて、ますますマリアは呆れた。それからバーサの先の言葉と重なって、何だか怒っているのが馬鹿らしく思えてきた。
「マリア」
「なんですか」
「噛み跡が。手当てを」
 レイフが部屋の隅で待機しているバーサを見やる。バーサは近づいてマリアからローレンスを引き取った。
 手を引かれて、部屋を出る。寝所にある薬箱を使うのだろう。二階へ上がる。
「どうするのが正解なのか、マリアに関しては分からない。マリアは私にとっては初めての人で、どう扱えばいいのか分からない」
「またケンカしたいのですか?」
「出来ればしたくない。マリアを、誤解させてしまっているのは申し訳なく思う。以前から彼女の事情を把握していたのは確かだ。少なからず情があったのも確かだ。だから彼女の願いを叶えた。だが姉君を思慕してはいない。本当だ」
「…もういいです」
「怒らないでくれ」
「怒らないでくれと言われて、静まるものではありません。それにもう怒っておりません」
 レイフが顔を覗き込んでくる。少し眉が下がっているように見えた。マリアはそんな情けない顔をするレイフに手を伸ばして、耳を引っ張って許してやった。


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