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しおりを挟む最近のローレンスは絵本が大好きで、意味が分かるのか分からないのか、パラパラとページを捲ったり、本を振り回したり、投げたり拾ったり、やりたい放題だ。ローレンスを膝に乗せて、朗読する。聞いているのかいないのか、マリアを見上げたり、ページを叩いたり、せわしない。ただずっと笑顔だから、楽しいのだろう。
「だー」
ローレンスがバン、と本を叩く。大きな音だから驚くと、マリアの反応を見たローレンスがまた叩く。声を上げて笑うから、マリアも微笑んだ。
「本当にやんちゃ。ローレンス、お母さんを驚かせないで。どきどきするわ」
マリアは胸を押さえる。ローレンスは立ち上がって、マリアの手を握る。
「あー」
「ん?」
「あー!」
今度はバンバンとマリアの手を叩く。マリアはこういう時どうすればいいのか知っている。ローレンスの顎をこしょこしょとくすぐってやるのだ。するとローレンスは大笑いして身体をのけぞらせた。後ろに倒れ込まないように背中を支える。
「きゃはは!あー!」
「ローレンスったら。少しは大人しくなさってくださいな」
「あー!」
たまらないとばかりにマリアに抱きつく。マリアも抱きしめた。腕の中の我が子はくすくす笑い続けている。毎日こんな調子で、こんな日々がいつまでも続いたら、どんなに楽しいだろうか。ローレンスの額にキスをした。
これだけ暴れられると、自然と体力もついてくるというもの。
マリアは毎日の駆けっこにもへっちゃらになっていた。スカートをたくし上げていては手が塞がるから、ズボンを穿いてローレンスを追いかけた。モニカやバーサは最初こそ良い顔をしなかったが、ローレンスが庭の側溝に落ちそうになるのをマリアが間一髪で拾いあげてからは、何も言わなくなった。むしろモニカやバーサもズボンを積極的にはきだして、それが日常となった。
バーサがこっそり教えてくれた。
「モニカ、ジャックさんとよくお話しておられるようですよ」
「まぁ…どんな感じなのですか?」
「内容は知りませんけど、良い雰囲気ですよ」
何でも、使用人用の廊下ですれ違い様に、何事かやりとりをしているらしい。
机には、色々な布地がいくつも線を引いたように広げられ積み重なっていた。三歳になるローレンスの立礼の儀の為の、衣装の色味を考えていた。
立礼の儀式とは、正式に産まれた事を祝う祭事で、三歳になって家族の子供として扱われる。それまでに死ぬ子供が多いから、祝う習慣がやがて儀礼化した。
「やっぱり白かしら」
マリアは布地を引き抜いてバーサに見せた。
白地に銀糸で波模様が刺繍されている。上品な仕上がりだが、改めて見ると少し、ローレンスには合わないような気がした。
「あの子はとにかく元気だから、思い切って金なんかどうかしら。無地の物にすればそんなにうるさくないし」
今度は金を取り出す。これはただしくは黄色だが、艶のある生地で金に見えた。
「内々でやることですから、奥さまが良いと思ったものになさってください」
「決められないから、こうしてバーサに相談してるんです」
別の色も見てみるが、やはり決まらない。結局その場では決まらず、レイフに相談することにした。
布地を見下ろしながら、レイフは指を指した。
「これとこれ」
「白と金?」
「光みたいな子だから」
レイフの言葉には大いに納得出来た。レイフとの関係は、ローレンスの存在によって改善された。子はかすがいとは、よく言ったものだ。
「マリアの好きなように仕立ててもらうといい」
「はい。…早いものですね」
「そうだな」
背中から抱きつかれる。体重をかけてくるレイフに逆らわず、身体を折り曲げた。
「レイフ様、重い」
「そんなに体重かけてない」
身体が離れる。マリアは向き直った。つま先立ちして、レイフの肩に手を回す。レイフの手が腰を支えてくれた。唇を合わせて離れる。
「どうする?」
レイフが問う。いたずらっぽく微笑んでくるので、マリアは胸を叩いた。
「お休みしましょう」
「それだけ?」
「私、一日中ローレンスを追いかけてくたくたです。貴方の相手までしていられませんよ」
「つれない」
そう言って、レイフは耳を噛む。マリアは今度は頭を叩く。不満そうな顔を向けてくるので、マリアはくすりと笑った。甘えたい年頃なのだろう。
「私は休みますが、貴方様は貴方様で、なさりたいことなさってください」
「本当につれない」
「意識のない私を好き勝手してるではありませんか」
「意識が無いのに誘ってくるほうが悪い」
「私が悪いのですか?」
レイフは、いや、と言ったきり黙った。マリアの瞳を覗き込むように顔を寄せてくる。
「いや…やっぱりマリアが悪い」
レイフはマリアを抱き上げる。そのまま寝所へ向かった。
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