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しおりを挟むジャックが通りがかったので、マリアは声をかけた。
「モニカとはどうですか?」
ジャックは浮かない顔をした。
「はぁ…まぁ、ぼちぼち」
上手くいっていないらしい。ジャックは目を泳がせて、決心したようにマリアに話した。
「あの、もう駄目です」
「バーサからはよく話してると聞いていたのですが…」
ジャックは首を横に振った。
「何話してると思いますか?夫人、貴女様の話だけです」
「まさか」
「そのまさかなんですよ。あの、御本人に、夫人に申し上げるなんて不敬にも程がありますけど、あの…その、床の後の日には、伯爵様は、夫人の話ばかりするんですよ」
床の後、話をする。マリアは何だか聞くのが怖くなってきた。ジャックの顔は真っ赤だ。
「ちょ、直接的なことは何も聞いてませんから!ただ、よく寝込んでおられるでしょう?うちの母もよく熱を出すんで、その対処というか、どうやって看病してるとか、そういう話をしてるんです」
「そ、そう。モニカとも、そういう話を?」
「モニカからは、夫人が何の対処をしたらすぐ回復したとか。こんな薬が効いたとかを教えてもらって、それをこっそり伯爵様に報告を」
なるほど。合点がいった。この頃やけに身体を重ねたあとの、火照りや辛さが少ないと思っていた。ジャックとモニカを巻き込んで、レイフがいろいろ試していたのだ。
「…よく分かりました」
「あの、伯爵様にはご内密に」
「分かりました」
とだけ答えておいた。
先に休んでいると、後からやって来たレイフが寝台に上がってきた。マリアは起き上がって話をした。
「ジャックさんとモニカですが」
「仲良いだろ」
「まだ二人とも未婚なのですよ。なのに、私の世話の話をさせるなんて、可哀想でしょう」
「ジャックの母は身体が弱い」
「聞きました。お陰さまで身体は楽です。でももう止めさせてください」
仕事という名目で、二人に会話のきっかけを与えたのかもしれないが、内容が悪過ぎる。ジャックの恥じらいも当たり前だ。これではモニカを口説くきっかけがますます無くなる。
レイフにはそれが分からないらしい。彼は首を傾げた。
「ではどうすればいい?」
「どう…?」
「私がモニカに命令すれば、ジャックと結婚出来るが、それは本意ではない。あくまで二人が納得いく形で一緒にさせたい」
「二人にそのつもりがあるのなら自然とそうなっていくでしょう。余計私たちがあれこれ世話を焼くなど野暮です」
二人に任せておけばいい、とマリアは思っている。意に沿わない結婚を自分たちがさせるわけにはいかない。
レイフはまだ難しい顔をしていたので、マリアも少し考えて、ふと浮かんだアイディアを口にしてみる。
「どうしても二人の仲を取り持ちたいのなら、慰労会など開いてはいかがですか?」
「慰労会?」
「使用人だけのパーティーを開くんです。後はジャックさんの頑張りですよ」
「なるほど…いいなそれ」
レイフはマリアの手のひらに口づけする。
「実は、王都への来いと陛下から招待を受けている」
年に何回かレイフは王都へご機嫌伺いに行く。そのことを言っているのだろう。
「マリアも一緒に行こう。ローレンスも」
「私は構いませんが、ローレンスはまだ小さいですから、心配です」
「私たちがいないときに、慰労会を開いたほうが、使用人たちも羽目を外しやすい。ローレンスは君より元気だ。長旅にも耐えられる」
話が急に大きくなって、まさか自分が王都に向かう日が来るとは思わなかった。マリアは父の領地から出たことがなく、王都なども勿論どんなものか知らない。伯爵夫人となった今でも、基本的に領地に留め置かれるのが普通だが、皇帝からの招待ならば、夫と共に伺うべきだろう。だが何分、初めてのことなので、マリアはもう慰労会どころではなかった。
「旦那様がそうおっしゃるのなら、従います」
「君が気に入る場所があるから、案内する」
マリアは微笑んで見せる。
「でも…そうなると、ジャックさんもモニカも、王都へは連れていけませんね」
「君にはバーサがいればいいし、ローレンスは乳母がいる。私の従者はジャックだけじゃない。問題ない」
納得してうなずく。
話は終わりだとばかりに、レイフはマリアを抱き寄せて横になった。背中から抱きしめられて、手を繋げる。大きな布団をかけられているようで、温かかった。
あっという間に王都へ向かうことに。モニカは心配して何度も同行を申し出てくれたが、何度も説き伏せて、なんとか納得してくれた。これは半ばモニカとジャックのためなのだから、主役が不在というのはあってはならない。
使用人に送り出されて、マリアはやっと人心地ついた気分になった。出発する直前に、同行しますとモニカに言われないかとヒヤヒヤしていた。杞憂で済んで良かった。
馬車には家族全員が乗り込み、レイフがローレンスに抱いて、窓の外の景色を見せていた。ローレンスは窓枠にしがみついて、食い入るように眺めている。馬車の振動で小さな手が揺れるのが可愛く、マリアは触ってやりたくなるのを何度も堪えた。
「外が珍しいのかしら」
「そうだろう。屋敷から出ないから、良い機会だ。いろいろ見せてやろう」
言った矢先、ローレンスは覗くのを止めてレイフにしがみついた。どうした?とレイフが聞く頃には、既にローレンスは寝入っていた。レイフもマリアも見慣れた光景だった。暴れていたと思ったら、コテンと急に寝てしまう。初めは病気かと思ったぐらいだ。
レイフは思わず笑って、ローレンスが寝やすいように仰向けに抱きなおした。腕の中で眠っているローレンスが服を掴む。強い力で引っ張られ服がよく伸びた。
「寝てても起きてても、この子は元気だ」
「良いことです」
「ああ」
んーとローレンスが唸る。口をもごもご動かして、あーと鳴いた。
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