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しおりを挟む何だか最近、レイフはローレンスにべったりだ。
ローレンスがレイフにべったりではなく、レイフがローレンスにべったりなのである。そこに立ち入るのがなぜだか憚られて、マリアは一人で過ごすことが多くなった。
それと、全く身体を重ねなくなって、もうかれこれ二ヶ月になる。夜は共に過ごしたが、二言三言話すくらいで、それだけだった。
こんなに会話をしないのは、久しぶりだった。身体を重ねないのも。マリアは素直に寂しいと思った。
夜遅く、レイフは寝台に上がってきた。既に眠っていたマリアはレイフの方に体を向けた。
「レイフ様…」
「すまない。起こしたか」
「いえ、まだ起きておりました」
レイフは身を乗り出して目にキスをした。
「待ってなくていい。寝よう」
「…レイフ様…」
横になるレイフは、手を伸ばしてマリアの前にかかった髪を払う。優しく微笑まれ、マリアは見慣れているはずなのに久しぶりで、胸が高鳴った。
「最近、よくローレンスと一緒にいますね」
「ああ、最近構ってやれなかったから。ついな」
「かわいい盛りですから。夢中になるのもわかります」
レイフはますます笑みを深くする。疲れているのか、目が虚ろで今にも眠ってしまいそうだ。マリアは気遣って、これ以上話すのを止めた。するとレイフは目を閉じて、寝息を立て始めた。寝入りが早いのはローレンスと一緒。今日も話が出来なかった。マリアは寂しい気持ちで一杯だった。
「何だか、浮かない顔してますね」
ドレッサーの前で、マリアの髪を梳いていたモニカが言う。マリアは口元だけで笑ってみせた。
「すこしね…」
「体調でも悪いんですか?」
「ううん。そうじゃないの」
モニカは瓶を開けて香油を手のひらに垂らした。温めて、マリアの髪に馴染ませる。バラの良い香りが漂った。
「モニカももうお年頃でしょ?いつまでも私の世話をしてくれて申し訳ないわ」
話題を逸らそうと、マリアは別の話をした。
「結婚ですか?」
「良い人がいたら言ってね。盛大に送り出しますから」
「そんなに私を追い出したいんですか?」
「モニカには助けてもらってるから、お礼がしたいんです」
香油を塗り終えて、髪をまとめ上げる。宝石が嵌め込まれた髪留めで留めれば完成。なのだが、いつの間にか伸び過ぎていたらしい。なかなか髪がまとまらない。
「すみません。もう一つ髪留め足しますね」
「待って。良い機会だから、少し切りましょう」
「駄目ですよ。折角の美しい髪が」
「長すぎると頭が重くなりますから、悪いけれど、散髪が得意な人を呼んできてくれる?」
時間はたっぷりある。支度を急ぐことはない。髪を切れば少しは気が晴れるかもしれない。マリアは伸び切った髪を一房摘んでくるくる指に巻き付けた。
髪を切ってもらって、さっぱりした。モニカに結い上げてもらうと、軽くなったと実感した。今日もレイフはローレンスと一緒にいるのだろう。執務室にも連れて行って政務もしている。ローレンスが邪魔しないだろうかと不安だったが、今のところ何の問題も起きていないようだ。
髪を切ったからと、モニカのやる気に火がついて、手足の手入れもすると言い出した。爪をヤスリで研ぎ整える。ローズウォーターをたっぷり入れた盆に手足を浸す。それからオイルでマッサージまで。マリアは何だか申し訳なくなってきた。
「モニカ、こんなにしなくていいわ」
「奥さま。いくらお綺麗だからといって日々のケアは怠ってはいけませんよ」
「化粧水で十分ですよ」
「いいえ。保湿は大事です!」
モニカは力強く拳を握った。何だか怖くて、マリアは身を引いた。
「私知ってます」
「な、なにを?」
「最近、奥さまと旦那さまがまぐわってないことを」
「な…!あ、あなた!年頃の娘なんですから、もっと慎みを持って…!」
あまりにあけすけに言うので、マリアは慌てた。モニカは全く動じない。それどころか呆れたようにため息すらつかれた。
「奥さま…私、奥さまと一つしか年が違いませんからね。それに、これくらい使用人ならへっちゃらで言いますよ。私は奥さまの使用人なんですから、夜の生活を気にかけるのも当たり前です。バーサともよく話します」
モニカはマッサージを終えると、失礼、と言って裾をたくし上げた。足が露わになってマリアはますます慌てる。
「も、モニカ…!」
「足にも香油を塗っておきます。あとは鎖骨も。旦那さまはそこがお気に入りのようですから。あ、逃げないで!奥さま!恥ずかしがってる場合ですか!奥さまがお元気ないのはこのことなんでしょう?私だって気にしてたんです。旦那さまは奥さまにご執心なのに。お身体が悪いわけでもないのに。不思議です。とにかく誘惑なさってください。あとは少し肩を見せるようにして、結った髪は旦那さまが来られてから下ろしてくださいね。あと──」
モニカは堰を切ったようにつらつらと喋りだした。いろいろ我慢していたのが止められなくなったようだ。モニカがそうなのだから、他の使用人もとっくに気づいているに違いない。マリアは恥ずかしくて顔から火が出る思いだった。
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