【完】【R18】嫁いだ姉が死んだので、妹の私が嫁ぎ直しましたが、夫に溺愛され過ぎて困っています。

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 その日を境にレイフは全く求めなくなった。寝台は共にしていたが、少し離れて眠った。レイフが何も言わないならマリアも何も言わない。お陰で熱は出さず、ローレンスを心配させることは無くなった。
 そんな状態が一ヶ月続いている。何食わぬ顔をしているレイフに、マリアは躊躇いながらも聞いてみることにした。
「レイフ様…、あの、平気ですか?」
「なにが?」
「あの…夜の、その」
 レイフは、ああ、と合点したように頷いた。
「全く平気じゃないが、平気だ」
「どっちなんですか?」
「平気じゃないから、対処して、平気にしている」
 ますます意味が分からない。レイフは紅茶を飲み終える。
「マリア、君のハンカチを貸してくれ」
 マリアは意図が分からないままハンカチを取り出す。受け取ったレイフはその匂いを嗅いで、懐にしまった。
「洗って返す」
「お気になさらず…」
 ジャックがやって来る。休憩は終わりらしい。マリアは邪魔にならないように部屋を後にした。


 ローレンスと庭に行った。ベンチに座って、お絵描き。マリアは書き上がるのを見守った。
「かあさま、これ」
 ローレンスが絵を見せる。マリアとローレンスが、花に囲まれた絵。褒めると、ローレンスは恥ずかしそうにキャンバスで自分の顔を隠した。
「とっても上手。その絵くださいな。壁に飾っておきますから」
「ううん…やだ…」
「やだ?」
「とうさま無いから、とうさま描いたら、あげる」
 仲間はずれは嫌だという。ローレンスは早速キャンバスの端に描き始めた。長身だからと、一人だけ大きく描いて、巨人みたいだった。

 庭で走り回るローレンスを追いかけていたら、二人して、昨夜降った雨で出来た水溜りを踏んでしまった。
 モニカは嫌な顔一つせずに湯を張ってくれて、二人で湯船に浸かった。マリアは髪を洗う気はなかったから髪を一つにまとめ上げていた。ローレンスは湯船の中でも暴れ回って、床にたくさんお湯をまき散らした。
「もうローレンス。落ちついて」
「こう、こうやるの!」
 ローレンスは縁に捕まってバタ足をし始めた。マリアの顔に降りかかる。
「きゃっ!やめてやめてっ」
「とうさまが教えてくれた!こうやって泳ぐって」
 泳ぎなどと、もうそんなことを教えて。少し気が早いのではないだろうか。ようやく喋りだしたばかりだというのに。
 だがローレンスは小さな湯船の中で器用に泳ぎ始めた。よく暴れているから、身体を動かすのは上手なようだ。とはいえここは泳ぐ場所ではない。ローレンスのお陰で髪までしっかり濡れてしまった。マリアはモニカを呼んで、ローレンスを引き取ってもらった。
 まだ出たくないと駄々をこねるローレンスをモニカはなだめる。モニカには弟がいるという。扱いは慣れたもので、さっと身体を拭いて服を着せていた。
 マリアも上がる。他の使用人に拭いてもらって、服を着る。
「明日は立礼の儀式ですよローレンス。どういう順番で進むか覚えましたか?」
「おぼえたよー!」 
「ああお坊っちゃま!まだ動かないで!」
 着せている途中で暴れ出したローレンスをモニカが押さえる。ローレンスはそういう遊びだと思って、はしゃいでいる。マリアも大人しくするように言うが、聞いてくれた試しがない。
「もう!」と、モニカは怒りながらも、ローレンスを抱えてくるくる回りだした。ローレンスは悲鳴のような大笑いをする。ご機嫌を取って言うことを聞いてもらう作戦に出たらしい。
「ローレンス様、服ちゃんと着たらまたやったげますから、大人しくしてください」
 ローレンスを下ろして言う。暴れん坊は分かった!と元気よく返事した。

 立礼の儀式。ローレンスは白と金の衣装を纏い、両親に深々と頭を下げた。ローレンスは台の上に登り、そこから飛び降りる。一回でいいのに二回もするから、レイフに怒られていた。
 それからローレンスは邸の使用人、ひとりひとりに頭を下げる。驚いたのは、ローレンスが礼をするたびに使用人の名前を告げたこと。いつの間に覚えたのだろう。マリアは驚きながら見守っていた。
 無事に儀式を終えて、ローレンスは着替えもしないでレイフに抱っこしてもらっていた。
「とうさま、今日はずっといる?」
「ああ、ローレンスが頑張ったから、何でも付き合うぞ」
 ここ最近、レイフは忙しくローレンスに会っていなかった。その分、マリアがローレンスに会ってはいたが、やはり父親が恋しかったのだろう。ローレンスはレイフの服をぎゅっと掴んでいた。

「とうさま!こっち!」
 レイフを引っ張って、ローレンスは部屋に置いてあるスケッチブックを見せてくれた。三歳のローレンスは、何をするにも好奇心があって落ち着きがない。
 その中で絵を描く時だけは大人しくなってくれると、マリアは疲れた顔をしながら言っていた。だから出来るだけ描かせたのだろう。ローレンスが持ってきたスケッチブックは、既に三冊もあった。
 寝台にスケッチブックを広げてローレンスは一枚一枚見せてくれた。目に見えるもの全てを描いたらしい。風景画もあれば、マリアや使用人を描いた人物画もあった。どれも小さな子供が描いたとは思えない、温かみのある優しい色使いだった。
 レイフはページを捲っていって、一枚の不思議な絵を見つけた。
 その絵だけ黒一色、一人の子供に大勢の大人が群がっている。何本もの剣が、子供をつらぬいているような、不穏な絵だった。
 レイフは何冊か読ませた絵本の中にある場面だと思った。次の絵を見ようとして、ローレンスが、あ!と声を上げた。
「それね!僕が死んだときの絵!」
 レイフは手を止めた。びくりと身体が反応して、小さな我が子に目線を向ける。ローレンスはうつ伏せで、顎に手を当てて、足をバタつかせている。何食わぬ顔で、レイフを見上げニコっと笑う。
「逃げてって父さまに言われて、頑張って逃げたんだよ。でも見つかっちゃて」
「ローレンス…うそだろ…?」
「うそじゃないもん!たくさん刺されて、すっごく痛かった」
 話している内容とは裏腹に、ローレンスは無邪気だ。次の紙をめくりだした。デイジーの花の絵だった。
「僕のかあさま、死んじゃったんでしょ?今のお母さま、何で生きてるの?」
 デイジーは、前の時に妻だったカリナが好きな花だった。ローレンスを産んで、二人目の子の出産の時に命を落とした。ローレンスが三歳になる前のことだ。
 この子が言う死んだ母とは、カリナのことだろう。少ししか記憶がないであろう前の母のことも、ローレンスは覚えているのだ。
 レイフは信じられなかった。ローレンスと名付けたものの、今回の母親はマリアだ。似ているとは思っていたが、あの子かどうかは確証はなかった。だがこれではっきりした。この子は紛れもなく、ローレンスだ。
「──ローレンス…」
 手を伸ばし、ローレンスを抱きしめる。事情を知らないローレンスは、どうしたの?と聞いてくる。答えられなかった。思いがけず最後を知ってしまって、答えられなかった。喉が震えて、謝ることも出来なかった。



 
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