【完】【R18】婚約者を妹に取られました。

112

文字の大きさ
32 / 49
三章

9(異母妹メアリー視点)

しおりを挟む

 メアリーは全てを理解した。夫は、特定の愛人を囲ったりはしないものの、一晩の相手を欲して帰ってこない。何度苦言を呈しても、言えば言うほど夫のウィレムは近づかなくなっていく。初めはうっとおしく思われているなど夢にも思わなかった。
 誰からも愛されて育ってきたメアリーに、自分以上に関心を持たれるなど、あり得なかった。何物も揺らがない事実だと思っていた。

 その考えが高慢だと、誰も教えてくれなかった。いや、教えられる立場の者がいなかったと言うべきか。誰一人として、メアリーに意見出来る者など、屋敷にはいなかった。父も母からの愛情、私欲に走る取り巻きに囲まれてきたのだから、本当を知らなかった。

 いくら自分が美貌でも、他人全てを魅力出来る訳では無い。
 魅力したところで、それは本当の信頼関係では無い。
 夫婦とは、敬い合う対等な関係こそが理想なのだと、一人ぼっちの屋敷で慰みの本を読んで知った。

 だからと言って自分の立場は揺らがない。結婚した身で、離婚などもってのほかだ。候爵夫人としての役割を担う以上、自分を顧みない夫を無視するなど出来ない。

 冷めきった夫婦だとしても、由緒正しきダジュール候爵夫人なのだから。メアリーは暗い気持ちを認めずに、皇帝の即位の記念式典に臨んだ。

 

 式典には、ダヴィア帝国の各国の王が出席していた。その中でもダジュール侯国は、立国以来、皇帝に仕えてきた古株だ。候爵家から王妃を輩出したこともある。当然、序列も上なわけで、王座近くの上席に割り当てられていた。

 夫と並んで席につく。二人の間に会話はない。最初は何て物腰の柔らかい人かと思っていたが、そんな表層に騙されて、今では夫とは、男とはどんな生き物なのか、よくよく理解しきっていた。

 式典は教会で行われている。皇帝のみが使用出来る教会で、メアリーは初めて足を踏み入れた。高い天井、柱に刻み込まれた幾何学模様に、大きなステンドグラス。明かりが降り注いて、吊るされているシャンデリアにはロウソクの火が付いているが、必要無いほどだった。

 上席だから、皇帝陛下に近い席ではある。その更に近い席となると、もう王族しか残されていない。皇后とその皇子、王弟家族はまだ空席だ。もうじきやって来るだろう。

 それよりも、気になっているのは腹違いの姉、アンだ。旧ニッヒラビの土地の候爵夫人になり、それからどうなったのか全く耳にしていない。アンの夫となったウィレムの弟の評判だけはよく聞く。戦に長け、領土をよく治め、外交も得意だとか。皇帝陛下の覚えも良く、目をかけてもらっているとか。本当の所は良く知らない。全てウィレムと社交で知り得た情報で、噂の本人は領地に引きこもって出てこないのだから。

 アンの夫とは、メアリーの結婚式で面識がある。ウィレムと瓜二つだった。きっと性格も瓜二つなのだろう。あれだけ似ているのだから。アンが亡国の血筋だからと、わざわざ修道院から引っ張り出して来たくらいだ。候爵の地位を得るために、お飾りの妻を得たのだ。
 今頃はどんな扱いを受けているのか。この式典で様子が分かるかと思ったが、欠席らしい。
 メアリーは残念に思いつつ、とも思った。
 
 何故ならあの醜い顔だ。見れたものではない。仕向けたのはメアリー自身だが、見舞いと称して会いに行く度に、よくあんな顔になってまで生きようとしたものだと思っていた。醜く爛れた顔。今思い出しても吐き気がする。あんな顔で候爵夫人など、笑ってしまう。

 こんな神聖な場に来れるわけがない。メアリーはアンを探すなどという愚かな行為を自嘲した。



 扉が開く。ここ、本殿への扉は三つあり左右は貴族が通る道、真ん中は王族が通る道と決まっている。扉は真ん中が開いた。いよいよ皇帝一族の入場だ。
 メアリーはアンのことを忘れようとした。それよりも王族たちがどんな衣装をしているのか、それを注視しようとした。

 だがそうはならなかった。入場してきたのは───


「───アン?」

 そこにいたのは、間違いない。異母姉、アンだった。

「どういうことだ?」

 隣にいるウィレムも呟く。そんなのに構っていられなかった。どうしてこんなことになっているのか全く分からなかった。
 あれだけ顔を合わせてきたのだ。ほとんど一年ぶりの再会でも、アンを見間違えるはずがなかった。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

処理中です...