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新たな侍女3
しおりを挟む突如、現れたローズマリーにエリザベスだけでなく、アンナたちも困惑していた。
「失礼ですが…どなたかしら」
アンナが声をかける。二人の侍女たちはヒソヒソと話をしている。三人が訝しむのも無理はない。ローズマリー自体はまだ王宮の社交には出ていないものの、アーサーそっくりの顔立ちからは、誰もがその縁者を想像させた。
ローズマリーもまた、誰も伴わず一人だった。侍女という立場なのだから当然なのだが、王妃の姪御がたった一人でこの場に姿を現すなど本来ならあり得ない。エリザベスもまた、彼女がどういうつもりでそこにいるのか、分かりかねた。
アンナ自らが声をかけたのは、その身なりが立派だったからだ。真っ赤に染め上げたシルクのドレス、胸元辺りには大粒のダイヤが大胆に縫い付けられている。謁見の時から身なりを変えて、派手な装いをしていた。
「私?私はローズマリーと申します。以後、お見知りおきを」
「はぁ…」
「マルガレーテ王妃様の姪、と名乗ればお分かりいただけるかしら」
反応の鈍いアンナに事実を告げる。すると彼女は血相を変えて、二三歩、後ずさった。
「これは…大変なご無礼を…!」
「であれば、このお方が、かの皇太子妃殿下、エリザベス様であらせられる事もお知りで無いようですね」
ますますアンナは驚愕する。侍女たちも真っ青な顔になる。
「ひ、妃殿下…!?」
アンナが膝を折って地に伏す。侍女たちも続いた。エリザベスが慌てて抱き起こそうとするのを、ローズマリーが制した。
「エリザベス様、手を出してはなりません」
「でも」
「妃殿下だとも見抜けぬような節穴には、その身でもって分からせてやらねばなりません」
「私は望んでいません。離して」
制するローズマリーを無理やり押しのけ、アンナを立ち上がらせる。
「身重なのだからそんなことしないで」
「も、申し訳ございません…!妃殿下だとはつゆ知らず…!」
「言わなかった私が悪いの。お腹の子を大事にね。…礼はいいから早く休ませてやって」
膝についた泥を払って、侍女に託す。侍女たちも何度も謝罪してくるので、エリザベスも、いいから、と何度も言って下がらせた。
アンナたちが下がってから、ローズマリーに向き直る。女性にしては高身長で、圧倒される。にこやかな顔を崩さないローズマリーにカーテシーの礼を取った。
「ローズマリー様」
「いけませんわ妃殿下。私は侍女です。呼び捨てでお呼びください。挨拶されるいわれもありません」
きっぱりと言われ、エリザベスは少し気後れする。ここで下がってはずっと負けっぱなしになる。エリザベスは腹に力を入れて、精一杯、胸を張る。
「貴女は王妃さまの姪御だもの。礼を尽くします」
「妃殿下の方が地位は上でございます」
「分かっています。助けてくれた礼をしました」
「お気になさらず。仕事をしただけです。殿下、失礼を承知で申し上げますが、いささか軽装では?」
暗にそんな格好では誤解されるのは無理はないと言われる。エリザベスは正直に頷いた。
「ええ、気をつけます」
「風も出てまいりました。部屋までお送りします」
「ありがとう。でも大丈夫。一人で戻ります」
ローズマリーの華やかな装いからして、並び立つのは恥ずかしかった。それに彼女は王妃の姪御。おいそれと心を許してはならない。アーサーの彼女に対する呼び方も気にくわない。エリザベスは早々にその場を離れた。
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