この称号、削除しますよ!?いいですね!!

布浦 りぃん

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15・世界は光に満ち満ちている

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 グランバトロの王都の酒場には、ちょくちょく世情収集に行っていたけれど、遠出の旅はまだっだった。だから第一回目の旅は、まだ行ったことのない南端の国へ遠征することにした。【大陸地図】の更新を目的に、各国の特色を知りたかったから。

 この世界には三つの大陸あり、私がいるア・コール大陸が最大の面積を有し、他の二つはずっと小さくて無人で魔物の楽園だった。小大陸は《大魔境大陸》と呼ばれて、うちの樹海並みに忌み嫌われている。某海軍国家が何度か占領部隊を出したけれど、一度として帰って来たためしがなかったそうだ。何隻もの大型船を送り出しても、一隻として戻らない。難破にしては破片一つ遺体一つ流れつかないことを重く見たその国は、遠征計画を断念した。そして、どこからともなく《大魔境大陸》の呼び名が流れ始めた。
 ここで謎なのが、魔女の知識には《大魔境大陸》に関する事項が全くないこと。『森羅万象の魔女』の称号の是非が危ぶまれる。もう、首を傾げるだけだわ。

 さて、このア・コール大陸だけど、形は歪な楕円形で南北に長く、中央を縦に山脈が走り、それを境界に現在は七つの国に分かれている。王国が大小合わせて四つに、帝国・宗教国・部族や小国を集めて作られた共和国。
 今回訪れる予定なのが、この共和国だ。
 この大陸には、ファンタジー小説に出てくるような獣耳の獣人やエルフなんて種族はおらず、人族しかいない。白肌系人族が大半を占め、肌が浅黒い南の固有民族の他に《魔族》と呼ばれて差別される歴史を持つ民族がいる。
 
 元は同じ人族だったが、大昔に魔に喰われかけて半転化した生き残り達が祖先って話しだ。外見的には、全く違いはない。差別される点は二つのみ。
 瞳の色と魔力の多さ。ことに、瞳の色は他の人族には決して現れない色―――紅―――。この二つが合わせて出た時点で、本人や親がいくら否定しても周りは《魔族》と決めつける。
 しかしステータスの[人種]の項目には、《魔族》なんて種族はない。《魔族》と言われる人々を【鑑定】しても種族は人族と表示されてるはずだ。つまり、生粋の人族が、魔に侵された祖先を持つ民族を、無意識の差別から《魔族》呼びを始めたに過ぎない。
 人族ですらカラフルな髪色と眼の色を持っているのに、滅多に無い紅の眸だけで排除する。

 私だって、見た目は人族ですが魔力は無限ですしー。まぁ、魔女だけどね。

 そんな《魔族》呼びされる人々と、他の少数民族や崩れかけた小国家が集まって作ったのが、アルセリア共和国。国議長を頭に集落や街の代表で作られた国議会を中心に、民主主義の先駆けみたいな法の下で国民は暮らしている。

「ふーん…農業と漁業と商業と海運業の国かー」
『南の端だが、大規模な港と豊かな平野部と中央山脈から出る鉱石とで、おのずと商業も盛んになった』
「人として住むなら、この国が一番だねぇ」

 肩に乗ったルードと小声で話しながら、外壁門の案内所で貰ったガイドブックみたいな薄い本を開いて散策している。ここは、国議会場がある首都スーミルの商業街。
 道は石畳で広く、道沿いの商店は多種で大賑わい。所々にある荷馬車の停留所はたくさんの屋台に囲まれて、まるで広場のようだ。

「チーズがないかな?」

 ここへ来た一番の目的が、まだ見ぬ食材探し。ミルクと菌と酵素があれば錬金の【発酵】で作れるけれど、熟成は魔法じゃ美味しくできない。やはり自分の手で手間暇かけないとだめみたいだ。

「後は調味料なんだけど…」

 塩は土から家で使う程度の量が錬金できたし、砂糖や香辛料は畑で栽培。巨大な蜂に似た魔物ポイズン・ビーの巣から蜜が採れたし、後は味噌・醤油……ある訳ないかぁ。
 と、思っていたら、魚醤と牡蠣醤をみつけた!屋台のお兄さんが焼いていた串肉の香りが決めてだった。販売店を紹介してもらって、即飛んで行った。
 店の前では、荷馬車が停まって中樽がたくさん積み込まてれいる。少し離れた所からでも、醤の香りが漂って来て、慣れた発酵臭にニンマリ笑んだ。

「ああ…オイスターソースの匂い…」

 気づけばルードが離れた場所へ逃げて行ってる。だめか、慣れていない匂いは。
店の中をあちこち覗きながら、側に寄って来た店員に両方を小樽一つづつ注文した。

「お姉さん、どこの人?あまり見ない族種の人だねぇ」
「グランバトロの北部から来たの。うちの族種はほとんどいなくなったわ。大昔はこの辺りにいたみたいで、醤の香りが懐かしくって…」

 ええ、異世界人ですから。モンゴロイド系の顔はいないだろうね。この世界の人族は、基本がコーカソイド系ですし。
 店員さんの問いかけに、悪意は込められていない。多民族国家だけに、ちょっと珍しい外見を見ると挨拶代わりに気軽に尋ねたりするらしい。

「グランバトロの北かい!?遠い所から…と言うか、北の端から南の端にだな!ようこそ、アルセリアのスーミルへ。ゆっくり楽しんで行ってな?いにしえの隣人」
「ありがとう。たっぷり食べて楽しむわ」
「食い物かい!わはははっ」

 陽気な会話は心が弾む。古の隣人かぁ…素敵な挨拶だね。旅の始まりに、これは嬉しい。

 小樽を受け取ってデカバッグに入れ、腰袋からお金を出して払った。
これくらいの量なら、商人が持っている魔道具鞄と同じで珍しい物じゃない。北からの旅人が持っていても不審に思われたりしない。なんたって、大陸中の色々な品物が集まる国ですから。

 身も心も軽く鼻歌を歌いながらルードを迎えに行って、従魔もOKの宿へと向かった。
 目抜き通りに戻って、目的の宿へと向かい歩いていた時だった。すぐ先の店頭から、甲高い悲鳴と共に、十代半ばほどの女の子が飛び出して―――いや、跳ね飛ばされて転げ出て来た。地面は石畳だから、転んだ弾みに背中を強く打ったらしく起き上がることができずに蹲っていた。
 私は慌てて駆け寄り、そっと抱いて起こしてやった。

「大丈夫!?痛いとこは―――――」

「全く穢らわし!!魔族なんぞ雇うような店では、たかが知れるな!契約はなかったことにする!」
「馬鹿を言わないでください!ここにきっちり契約書もある!従業員に関してなど契約条件にない!」
「条件にまで記載せんと分からんとは…だから下賤な輩は!」
「どうしても契約破棄と仰るなら、条件通りに賠償を求めます。ロゴン様には後程こちらからご連絡いたしますので、とっととお帰りを!」

 店主と商売相手らしい男の怒鳴り合いを前に、私は少女の傷を確かめこっそり【治療】を使って痛みを消していた。
 選民意識の高そうな男が足早に店を出て、少女を憎々し気に睨むと舌打ちをして去って行った。

「ファミリ、大丈夫だったか!?」

 やっと店先を塞いでいた男が居なくなって、店主が青い顔で駆け出して来た。

「旦那様…大丈夫です。この方が介抱して下さって…」

 私の胸に背を預けていた少女ことファミリが、店主と私を交互にみた。

 あ、この子は紅い眸。
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