巡りめぐ

桐束 かえで

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一章

ランデブ(トゥー・ゴースト)

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ぼくらがこうして会うのも約一年ぶりのことだ。

今年も東京へ出張にやってきた。仕事は二日で済むが同僚を見送った後もう一日この街に残ることにした。
東京はそう好きな街ではなかった。以前までは。ただひたすらに人々がその人生を消費するために膨れ上げた人工的な景観がよそ者には排他的に映った。朝の顔はまだとても硬く感じる。だが夕方から夜に変わる時間から居心地が良いと感じられるようになったのは一歩自分も大人に近づけた証拠なのかもしれない。そのように感じられる変化を自分事として受け入れる余韻が体を火照らす。こんなささいな時間が幸せであるのだ。
今夜はまだ訪れないのか、、、。ホテルの自室で窓から見える景色にはまだ夕焼けにも染まらない青白いビル群が見えた。あの堅さがたまらなく苦手なのだ。報告書をまとめ終えて休もうとした手前気分が晴れない。今日の空に雲は浮かばないがその潔さが直視しづらい。目線を落とし片手でパソコンを折りたたむと残っていた珈琲を熱くもないのにあえて音を立ててすすった。今日はもうこの部屋に帰ってくるつもりはない。そう自分に言い聞かせることでようやく重い腰を上げてカーテンを閉めた。約束の時間までまだ四時間とある。時刻をスマホで確認したついでに十八時にアラームをセットしベッドに突っ伏した。

駅の改札口は地元のそれより不便であったことに驚いた。なにせ帰宅の時間と重なれば当然のことだが人の流れに乗ると言うことは性に合わない。幸いなことに永田町の駅から目的地の赤坂の駅までは途中歩きはするが乗車時間は短く乗り換えもいらなかった。ただ、はやる気持ちを抑えるには時間は短すぎた。せっかちな気質から間が悪いのは重々承知だが四十分前には約束の場所についてしまった。道行く人はせわしなく家路につくなか一人改札の前で待っているのではどうも落ち着かない。高鳴る鼓動がついさっきまで寝ていた頭を起こすのと同時に、これから会う彼女に見せる面をこの一年で準備できたかという今更ながらの後悔で体内時計の秒針は機能を停止させた。
十九時七分、代々木上原行。電光掲示板からその文字が消えた。久々に会う彼女はどんな姿か想像でしかないが思い浮かべて目線を流す。一年前は髪を金色に染めていたものの新しい会社に勤めるときに黒髪にしたと聞いたが、、、茶髪か。当時の華やかさこそ陰ってはいるが大人特有の優雅さを手にした彼女は仕事帰りの人とは違う顔つきで僕に気がついた。目が会うと気まずさからか照れを隠すかのようにはにかんで見えた。
僕らは予約したレストランまでの道のりをぎこちなく歩いた。会話は弾むが内心の葛藤がにじみ出たらしい。まだウブな自分の性癖を彼女はよく知っているから野暮なことはしなかった。やはり自分は相も変わらず無心にこの人に惹かれるのだなと感心した。
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