巡りめぐ

桐束 かえで

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一章

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彼女との出会いは一年前の今日と同じ東京への出張であった。熱しやすいたちとティーンの頃から周囲に指摘されていた。急ぎすぎて相手にされないことや判断を間違って一月も絶たず幻滅し相手を傷つけることがしばし。そんな訳で一目見て心の底から湧き上がる感情に戸惑いを覚えた。ただ火傷を負った青春時代の教訓からか当時、連絡先は交換したものの出張が終わる日は社交辞令のメッセージを送るに留まったのを覚えている。
しかし地元に帰った途端無性に耐えがたい後悔に飲み込まれた。何処から沸いてきたのかも解らぬ焦りが青春時代と同じ罪を繰り返させた。
それは自分がまだ若かったからではなく出会ってしまった彼女を手放してはいけないという本能的な直感からであった。自分の物にしたいという能動的な衝動ではなく彼女の魅力を受動的に享受しなければいけないという使命に襲われたのだ。
なんにせよ罪は変わらず罪なことであった。
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