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prologue:積まれた書籍とタバコケース
ただ目の前にある現実
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必死に腕に縋りつくホニカはブレイグルと呼ばれる兵器ではなく、大切な人を救いたい一心なだけの年相応の子どもだった。シドは「よく耐えたな」 と言ってホニカの頬を指で拭った。その時の表情は、本人が驚くほどに自然な笑顔だった。その表情に安心をしたホニカは、拭ってもらった頬また跡が残るほどの、大きな大きな涙を零して声をあげて泣いた。
ホニカの腕から引き取ったアレックスを仰向けに直し、ホニカにかけていた白衣を敷いた上に寝かせる。意識は無い。呼吸は絶え絶えで、患部を診る為に服をはだけさせた状態でも肺の伸縮による腹部の上下動はほとんど見られない様な状態だった。手首で脈を取ろうとしたがあまりにも弱く、首筋で改めて確認をしてようやく指先に感じる程度まで弱くなっていた。それでも身体は必死で命を繋ぎとめようと、速く脈打っていた。
「心臓はたまたま避けられているようだが、背中から胸にかけて15センチ強の断裂・・・・・・」
「アレックス!? アレックス、死んじゃ嫌だ」
「脈の状態、意識喪失、呼吸状態も最悪、ショック症状を確認」
シドは全身状態と患部を必死で診ながら、自分に改めて確認するように声に出していた。
「相当量の出血が見込まれ、現在も出血は治まらない。必死で抑えてはいるが、失血箇所が広範囲過ぎて止血困難・・・・・・これは、もう」
前かがみで覗き込む額から汗が滴り落ち、アレックスの胸を必死で圧迫する両手に落ちて弾けた。真っ赤に染まる両手は、驚く程に小さく見えていた。シドは自分の無力に怒りを感じていたが、例えシドでなく正式な医者がこの場に居合わせてもできることは無かった。
「くそっ!!」
込み上げる自分への感情を抑えることが出来ず、シドは左手で思い切り自分の太ももを殴りつける。感情を発散して、少しでも落ち着く為に行った行為に過ぎなかったのだが、その衝撃が地面に伝わりアレックスの下に敷いていた白衣のポケットに入った物が揺れた。乾いた小さな音に、すっかりとその存在を忘れていたシドも思い出す。
「・・・・・・あのババア、どこまで」
シドはすぐに白衣のポケットにしまっていたそれを取り出した。異常がないか目視で確認をすると、あれだけ爆風に飲み込まれたり、地面に敷かれたりしていたのにそれには一切傷もなければ、中の液体にも異常は見られなかった。
「それで治るの?」
「いや正直分からん」
シドは取り出して確認をした注射器の針をアレックスの腕の血管に差し込む。そして、中に入っている透明な液体を注入する為にプランジャーに力を込めた瞬間、中に入っていた透明な液体が淡い紫がかった強い光を放った。その光を見たシドとホニカは、驚きや困惑するよりも先に心地よい安心感に包まれる。シドはその力強く光る液体を、アレックスの中に全て注ぎ込んだ。
注射器から身体に入り込んだ紫の光は、針先からわずか心臓へと向かってぽうっと瞬く。超常的な戦闘を目の前で見せられた後で、兵器と呼ばれた子どもが炎を放った後で、中身がどんな薬液なのかそもそも液体であったのかすら分からないが、それでも奇跡的に傷の修復ができるのではとシドも期待をしていた。
しかし、傷口は依然として開いたままで、フィクションの世界の様に瀕死だった人間が立ちどころに回復して、大切な人を抱きしめたりすることもない。シドは噛みしめるように「くそっ」 と零しながら、注射器を持っていた手で顔を覆った。
その時、ホニカは背後に何かの気配を感じて振り返っていた。
「よく決心したね、泣き虫坊や」
「は?」
その声が耳に入ると同時に、シドは視界の上にいつの間にかワインレッドのドレスの端が見えていることに気付く。視線を上にあげていくと、そこにはルーザの小気味良さそうな顔があった。顔を見たシドの反応はルーザが予想していたものと違ったようで、珍しくルーザが驚いていた。
「シルビーの注射で出血箇所を塞いで、僅かではあるが生命力も補充した状態さね。さあ、今一度患者をしっかりと診な」
ルーザにそう促されて、シドは頷き改めてアレックスの全身状態を確認していく。
「ねえ、アレックスはどうなっているの? 死なないよね・・・・・・ボクを残して死んだりしないよね?」
「ホニカだね。よく頑張った、アレックスは死なないよ」
「本当に? 良かった・・・・・・」
「だけどね」
注射の効果なのか、シドが確認した限りではあれだけの広範囲の出血が嘘のように止まっていた。呼吸も少し深くなり、脈も弱いままではあるけれど、頸動脈だけでなく手首からも確認することができた。傷口に目を凝らすと、信じがたい事にすでに凝固した血液が瘡蓋を形成し傷口表面を覆っていた。血液の止血能は確かに生命の神秘とも言える反応ではあるものの、傷口の範囲をとっても、凝固するまでの時間的な制約を鑑みても普通ならあり得ないことだったことは間違いない。しかし、実際に結果として傷口はアレックスの血液によって止血が完了している状態で、それは理性がどれだけ否定しても覆すことができない事実だった。
「改めて問うよ。シド先生あんたはこの男をどう診た?」
「・・・・・・出血箇所は信じ難いが完全に止血されている。呼吸や脈も危機的状況は脱したように見える・・・・・・だけど、医学的に考えてこれ以上の治療は不可能だ。延命も、例え設備が揃っていたとしてどこまで出来るか」
「そうさね。確かに医学的に考えてこれ以上の治療は不可能だろう。だが、結論を出すにはまだ盲目だね」
ホニカの腕から引き取ったアレックスを仰向けに直し、ホニカにかけていた白衣を敷いた上に寝かせる。意識は無い。呼吸は絶え絶えで、患部を診る為に服をはだけさせた状態でも肺の伸縮による腹部の上下動はほとんど見られない様な状態だった。手首で脈を取ろうとしたがあまりにも弱く、首筋で改めて確認をしてようやく指先に感じる程度まで弱くなっていた。それでも身体は必死で命を繋ぎとめようと、速く脈打っていた。
「心臓はたまたま避けられているようだが、背中から胸にかけて15センチ強の断裂・・・・・・」
「アレックス!? アレックス、死んじゃ嫌だ」
「脈の状態、意識喪失、呼吸状態も最悪、ショック症状を確認」
シドは全身状態と患部を必死で診ながら、自分に改めて確認するように声に出していた。
「相当量の出血が見込まれ、現在も出血は治まらない。必死で抑えてはいるが、失血箇所が広範囲過ぎて止血困難・・・・・・これは、もう」
前かがみで覗き込む額から汗が滴り落ち、アレックスの胸を必死で圧迫する両手に落ちて弾けた。真っ赤に染まる両手は、驚く程に小さく見えていた。シドは自分の無力に怒りを感じていたが、例えシドでなく正式な医者がこの場に居合わせてもできることは無かった。
「くそっ!!」
込み上げる自分への感情を抑えることが出来ず、シドは左手で思い切り自分の太ももを殴りつける。感情を発散して、少しでも落ち着く為に行った行為に過ぎなかったのだが、その衝撃が地面に伝わりアレックスの下に敷いていた白衣のポケットに入った物が揺れた。乾いた小さな音に、すっかりとその存在を忘れていたシドも思い出す。
「・・・・・・あのババア、どこまで」
シドはすぐに白衣のポケットにしまっていたそれを取り出した。異常がないか目視で確認をすると、あれだけ爆風に飲み込まれたり、地面に敷かれたりしていたのにそれには一切傷もなければ、中の液体にも異常は見られなかった。
「それで治るの?」
「いや正直分からん」
シドは取り出して確認をした注射器の針をアレックスの腕の血管に差し込む。そして、中に入っている透明な液体を注入する為にプランジャーに力を込めた瞬間、中に入っていた透明な液体が淡い紫がかった強い光を放った。その光を見たシドとホニカは、驚きや困惑するよりも先に心地よい安心感に包まれる。シドはその力強く光る液体を、アレックスの中に全て注ぎ込んだ。
注射器から身体に入り込んだ紫の光は、針先からわずか心臓へと向かってぽうっと瞬く。超常的な戦闘を目の前で見せられた後で、兵器と呼ばれた子どもが炎を放った後で、中身がどんな薬液なのかそもそも液体であったのかすら分からないが、それでも奇跡的に傷の修復ができるのではとシドも期待をしていた。
しかし、傷口は依然として開いたままで、フィクションの世界の様に瀕死だった人間が立ちどころに回復して、大切な人を抱きしめたりすることもない。シドは噛みしめるように「くそっ」 と零しながら、注射器を持っていた手で顔を覆った。
その時、ホニカは背後に何かの気配を感じて振り返っていた。
「よく決心したね、泣き虫坊や」
「は?」
その声が耳に入ると同時に、シドは視界の上にいつの間にかワインレッドのドレスの端が見えていることに気付く。視線を上にあげていくと、そこにはルーザの小気味良さそうな顔があった。顔を見たシドの反応はルーザが予想していたものと違ったようで、珍しくルーザが驚いていた。
「シルビーの注射で出血箇所を塞いで、僅かではあるが生命力も補充した状態さね。さあ、今一度患者をしっかりと診な」
ルーザにそう促されて、シドは頷き改めてアレックスの全身状態を確認していく。
「ねえ、アレックスはどうなっているの? 死なないよね・・・・・・ボクを残して死んだりしないよね?」
「ホニカだね。よく頑張った、アレックスは死なないよ」
「本当に? 良かった・・・・・・」
「だけどね」
注射の効果なのか、シドが確認した限りではあれだけの広範囲の出血が嘘のように止まっていた。呼吸も少し深くなり、脈も弱いままではあるけれど、頸動脈だけでなく手首からも確認することができた。傷口に目を凝らすと、信じがたい事にすでに凝固した血液が瘡蓋を形成し傷口表面を覆っていた。血液の止血能は確かに生命の神秘とも言える反応ではあるものの、傷口の範囲をとっても、凝固するまでの時間的な制約を鑑みても普通ならあり得ないことだったことは間違いない。しかし、実際に結果として傷口はアレックスの血液によって止血が完了している状態で、それは理性がどれだけ否定しても覆すことができない事実だった。
「改めて問うよ。シド先生あんたはこの男をどう診た?」
「・・・・・・出血箇所は信じ難いが完全に止血されている。呼吸や脈も危機的状況は脱したように見える・・・・・・だけど、医学的に考えてこれ以上の治療は不可能だ。延命も、例え設備が揃っていたとしてどこまで出来るか」
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